第39話 打つために
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
組稽古の時間だった。
「レン」
名前を呼ばれる。
昨日とは違う門下生だった。
ガルドとの立ち会いの話が広まったのか、最近は組稽古に呼ばれることが増えていた。
「よろしく」
「おう」
礼をする。
木剣を構える。
相手が踏み込んできた。
レンは自然と相手を見る。
肩。
足。
目線。
何をしたいのか。
何をさせたいのか。
そこを見るようになっていた。
木剣が振り下ろされる。
レンは流した。
昨日の夜と同じ動き。
すると相手が前へ出る。
その瞬間だった。
レンの身体が止まる。
違う。
昨日とは違う。
昨日は動きが見えた。
今日はその先が見えた。
相手が前へ出る。
だから次が生まれる。
そのために流した。
自然にそう思った。
再び木剣が来る。
流す。
相手が動く。
半歩ずれる。
相手が追う。
そこでふと気付く。
終わっていない。
この動きは。
流して終わりじゃない。
避けて終わりじゃない。
追わせて終わりじゃない。
その先がある。
相手が動く。
だからこちらも動く。
そして。
打てる。
レンは小さく目を見開いた。
木剣同士がぶつかる。
相手は気付かない。
だがレンだけは分かっていた。
昨日まで見えなかったものが見えている。
相手がいる。
相手が動く。
だから次がある。
だからこの形になる。
そういうことだった。
「どうした?」
相手が首を傾げる。
レンは首を振った。
「いや」
説明はできなかった。
まだ自分でも整理できていない。
ただ一つだけ分かったことがある。
夜に何度もなぞった動き。
師匠を見て真似した動き。
あれは。
受けるためだけのものじゃなかった。
流すためだけのものじゃなかった。
全部。
どこかへ向かっていた。
組稽古が終わる。
礼をする。
相手は木剣を肩に担いで笑った。
「最近変だな、お前」
「そうかな」
「なんか前より考えてる」
そう言い残して去っていく。
レンは一人残った。
木剣を見る。
師匠の動きを思い出す。
流す。
動かす。
崩す。
そして――。
そこで思考が止まる。
答えは出ているのに、言葉にならない。
だが間違いなく分かった。
あの動きには続きがある。
最初からそうだった。
自分が見ていなかっただけだ。
レンは木剣を握り直した。
夜になれば、また振る。
確かめたいことがあった。
師匠が見ていた相手を。
もう少しだけ。
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