第38話 「試してみろ」
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌日の組稽古。
相手を決めるために門下生たちが集まっていた。
その中の一人がレンを見て笑う。
「なあ、ガルドとやったんだろ?」
別の門下生も面白そうに言った。
「結構粘ったらしいじゃねえか」
レンは首を傾げる。
粘った覚えはない。
ただ受けていただけだった。
「じゃあ今度は俺とやれよ」
木剣を肩に担いだまま言われる。
周囲も笑う。
「見てみたいな」
「雑用係がどこまでやれるか」
悪意というほどではない。
ただの興味だった。
レンは頷く。
「分かった」
それだけだった。
礼をする。
木剣を構える。
相手が踏み込んできた。
速い。
だがガルドほどではない。
レンは自然と見る。
剣ではなく、
相手を。
右肩に力が入っている。
前へ出たいのだろう。
強く打ち込みたい。
そんな気がした。
木剣が振り下ろされる。
レンは身体を動かした。
昨夜何度も繰り返した動き。
木剣を流す。
相手が前へ出る。
その瞬間、
レンの目が少しだけ見開かれた。
いた。
昨夜見えなかった相手が。
いや。
最初からいた。
流したから。
相手が動いた。
そういうことだった。
考えるより先に身体が動く。
半歩。
位置を変える。
相手が追う。
レンは思わず息を飲んだ。
つながった。
流す。
相手が動く。
動いたから、
次が生まれる。
昨夜。
何度も振った動き。
意味の分からなかった動き。
今は少しだけ分かる。
師匠の動きは一つでは終わっていなかった。
相手がいて。
相手が動いて。
その先がある。
木剣が目の前を通り過ぎる。
レンは反射的に止まった。
止まってしまった。
相手は首を傾げる。
「どうした?」
「いや……」
レンは答えられない。
今、
何かが見えた。
だが、
まだ説明できない。
再び構える。
相手が来る。
流す。
相手が動く。
半歩。
相手が追う。
また見える。
昨夜まで見えなかったものが。
組稽古が終わる頃には、勝敗よりもそちらの方が気になっていた。
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「変な奴だな」
相手は笑った。
「途中からずっと考えてただろ」
レンは少しだけ困った顔をする。
そうかもしれない。
まだ分からない。
でも、
師匠が見ていた景色に、ほんの少しだけ近づいた気がした。
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