第35話 「いつもの場所」
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
道場へ戻ったのは夕方だった。
見慣れた門。
見慣れた庭。
見慣れた稽古場。
王都にいた時間は長くない。
それでも少し懐かしく感じた。
門をくぐる。
すると声が飛んできた。
「レン!」
リナだった。
駆け寄ってくる。
「おかえり。」
「ただいま。」
それだけだった。
リナは笑う。
「どうだった?」
レンは少し考えた。
王都。
大会。
シオン。
老人。
色々あった。
だが口から出たのは。
「勉強になった。」
リナは苦笑する。
「レンらしいね。」
それから少しだけ王都の話をした。
屋台のこと。
人の多さ。
大会のこと。
だがシオンの話はしなかった。
まだ自分でも整理できていなかった。
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夜。
レンはいつもの稽古場へ向かう。
誰もいない。
静かな場所。
木剣を握る。
構える。
振る。
王都の訓練場ではない。
観客席でもない。
いつもの稽古場だった。
一振り。
また一振り。
その時、
ふと気付く。
師匠の姿が自然と思い浮かぶ。
シオンを見ていた時は分からなかった。
だが今、
この場所で振ると分かる。
師匠はいつも同じ場所を見ていた。
剣ではない。
相手でもない。
もっと近い。
目の前の相手が、
今何をしようとしているのか。
それを見ていた。
レンは木剣を止める。
思い返す。
子供の頃。
何度踏み込んでも打たれた。
技を見抜かれたのではない。
自分を見抜かれていた。
「……そういうことか。」
小さく呟く。
王都で見たシオン。
師匠。
似ている理由が少しだけ分かった気がした。
だが、
まだ違う。
そこだけは分からない。
レンは木剣を構え直す。
答えはまだ先にある。
だから振る。
一振り。
また一振り。
木剣の音が、静かな道場に響いていた。
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