第31話 見えるもの
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
大会も終盤に差しかかっていた。
残った剣士は少ない。
会場の熱気は日ごとに増している。
それでもレンの興味は勝敗には向いていなかった。
気になるのはシオンの剣だった。
似ている。
だが違う。
その違いだけが分からない。
---
昼過ぎ。
試合の合間にレンは会場を離れた。
王都の訓練場へ向かう。
大会期間中、多くの剣士がここを利用していた。
打ち合う者。
黙々と素振りをする者。
仲間と談笑する者。
様々だった。
レンは空いている場所を見つける。
木剣を握る。
そして構えた。
---
カイルが踏み込む。
シオンの剣が動く。
あの場面を思い出す。
同じように振る。
違う。
もう一度。
違う。
さらに振る。
違う。
何度繰り返しても答えは見つからなかった。
「そうまでして気になるか。」
不意に声がした。
レンが振り返る。
そこには一人の老人が立っていた。
いつから見ていたのか分からない。
だが、老人の目はレンの木剣を見ていた。
「はい。」
レンは素直に答えた。
「何が気になる。」
「似ているんです。」
「何に。」
「師匠の剣に。」
老人は黙る。
レンも続ける。
「でも違うんです。」
「どこが。」
「分かりません。」
老人は小さく笑った。
「分からんのに考えておるのか。」
「気になるので。」
しばらく沈黙が続く。
訓練場には木剣の音が響いていた。
老人は周囲を眺める。
剣士たちを見る。
そして再びレンを見る。
「見えておるか。」
「はい。」
レンは答える。
「足も。」
「身体も。」
「剣も。」
老人は首を横に振った。
「そうか。」
それだけだった。
数歩歩き出す。
そして立ち止まる。
「見えるものだけ見ておるうちは。」
老人は振り返らない。
「分からんかもしれんな。」
そのまま人混みの中へ消えていった。
レンはしばらく動かなかった。
見えるもの。
足。
身体。
剣。
確かに見ている。
ずっと見てきた。
では、
自分は何を見ていないのか。
レンは木剣を構える。
一振り。
また一振り。
答えはまだ見つからない。
それでも、
考えることをやめなかった。
お読み頂き、ありがとうございます。




