第30話 似ている剣
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
大会三日目。
朝から観客席は人で埋まっていた。
レンは昨日と同じ場所へ腰を下ろす。
隣では門下生たちが試合表を見ながら話していた。
「カイルさん、勝ち上がったな。」
「次も行けるんじゃないか?」
「いや、流石に次は厳しいだろ。」
「なんでだよ。」
「相手が悪い。」
一人が試合表を指差す。
「あー……名前なんだったかな。」
少し考えた後、思い出したように言った。
「そうだ。シオンだ。」
周囲がざわつく。
「優勝候補じゃねえか。」
「去年も強かったよな。」
「カイルさんでもきついぞ。」
レンは試合表を見る。
シオン。
初めて聞く名前だった。
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やがて試合が始まる。
先に現れたのはカイルだった。
昨日と変わらない穏やかな表情。
続いて、もう一人の剣士が姿を現す。
観客席から歓声が上がった。
「シオン!」
「勝てよ!」
「見せてくれ!」
名前を呼ぶ声が飛ぶ。
シオンはそれに応えることもなく、静かに試合場へ立った。
礼。
構え。
開始。
カイルが先に動く。
鋭い踏み込み。
迷いのない一撃。
シオンは受ける。
打ち返す。
距離が離れる。
再びぶつかる。
レンは黙って見ていた。
歓声ではない。
勝敗でもない。
足の運び。
身体の向き。
重心。
視線。
剣先。
一つずつ追っていく。
数合目。
試合が動いた。
カイルが踏み込む。
勝負へ行った。
その瞬間だった。
シオンの剣が動く。
レンの目が止まる。
振った。
そうは見えなかった。
まるで、
そこに置いたようだった。
カイルの剣筋が逸れる。
体勢が崩れる。
そして、
次の一撃で勝負が決まった。
歓声が上がる。
観客席が揺れる。
「さすがシオン!」
「今の見たか!」
「強ぇ……。」
レンだけが黙っていた。
頭に残ったのは勝敗ではない。
あの一瞬。
剣を置いたように見えた動き。
どこかで見たことがある。
そう思った。
そして思い出す。
師匠の剣だった。
レンは小さく眉を寄せる。
似ている。
確かに似ている。
だが、
違う。
何が違うのか分からない。
その答えだけが引っかかった。
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宿へ戻ったのは日が暮れてからだった。
夕食を終えたレンは木剣を持って外へ出る。
夜風が吹く。
レンは木剣を構えた。
シオンの動きを思い出す。
カイルが踏み込む。
シオンの剣が動く。
同じように振る。
違う。
もう一度。
違う。
さらに振る。
違う。
レンは木剣を下ろした。
似ている。
だが違う。
何が違う。
分からない。
分からないまま、空を見上げる。
月が出ていた。
しばらくして、再び木剣を構える。
分からない。
だから振る。
一振り。
また一振り。
答えは見つからない。
それでも木剣は止まらなかった。
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