第28話 知らない剣
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
大会初日。
朝から闘技場は賑わっていた。
観客席は人で埋まり。
剣士たちが行き交う。
門弟たちも興奮していた。
「始まるぞ」
「どんな奴が出るんだろうな」
レンは答えなかった。
試合場を見ていた。
***
最初の試合が始まる。
木剣がぶつかる。
打ち込む。
受ける。
避ける。
決着は早かった。
周囲から歓声が上がる。
レンは動かなかった。
試合場を見ていた。
勝った側ではなく。
負けた側を。
***
負けた剣士は悔しそうだった。
何かを呟いている。
レンには聞こえない。
だが、
何度も同じ動きをしていた。
一歩。
踏み込む。
止まる。
またやる。
まるで確認するように。
試合場を離れても、
繰り返していた。
レンは見ていた。
***
次の試合。
また次の試合。
強い者もいた。
派手な剣もあった。
歓声が上がる場面もあった。
それでも、
レンが気になったのは別だった。
勝った者より、
負けた者。
試合後、
何を見ているのか。
何を考えているのか。
そちらの方が気になった。
***
昼過ぎ。
一人の剣士が現れる。
観客席が少しざわついた。
名前が呼ばれる。
レンは知らない。
だが、
周囲は知っていた。
「カイルだ」
「去年も出てたぞ」
「強いぞ」
その名を聞いて、
レンは顔を上げた。
試合場を見る。
見覚えのある姿だった。
背が伸びていた。
身体も大きい。
だが、
間違えなかった。
同じ道場にいた。
昔の門弟。
カイルだった。
***
試合が始まる。
相手が打ち込む。
カイルは動かない。
ギリギリまで。
そして。
半歩。
わずかにずれた。
木剣が空を切る。
次の瞬間――
カイルの一撃が決まっていた。
歓声が上がる。
決着だった。
***
レンは動かなかった。
試合場を見ていた。
もう一度。
頭の中で。
半歩。
あの足。
あの間合い。
どこかで見た。
昔。
もっと小さい頃。
何度も。
何度も。
***
試合が終わる。
カイルは勝ち上がった。
観客席は盛り上がっていた。
レンだけが黙っていた。
そして、
気付けば立ち上がっていた。
門弟たちが不思議そうに見る。
「どこ行くんだ?」
レンは答えない。
頭の中で、
さっきの試合が何度も続いていた。
***
闘技場の裏。
簡易訓練場。
何人かの剣士が身体を動かしていた。
レンは端へ行く。
木剣を握る。
構える。
そして振った。
違う。
もう一度。
違う。
半歩。
もっと。
違う。
また振る。
何度も。
何度も。
さっきの剣を思い出しながら。
***
「何してるんだ?」
声が聞こえた。
レンは振り返る。
そこにいたのは、
カイルだった。
レンは少し目を見開いた。
木剣を握ったまま、
立ち尽くす。
カイルはレンを見ていた。
しばらく、
不思議そうに。
そして。
「あれ?」
と小さく呟いた。
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