第26話 行ってくる
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
王都への出発を明日に控えた夕方。
レンは村の外れを歩いていた。
理由はなかった。
気付けば足が向いていた。
畑の向こう。
見慣れた後ろ姿がある。
リナだった。
籠を抱えて立ち上がる。
「あ」
レンに気付く。
「レン」
少し笑った。
レンも小さく頷く。
***
「明日だね」
リナが言った。
「うん」
王都。
剣術大会。
その言葉を思い出しただけで、
少しだけ胸が騒いだ。
リナはそれを見ていた。
「楽しみ?」
レンは答えようとして、
少し考えた。
王都。
見たことのない剣。
見たことのない人。
見たことのない世界。
自然と口が開く。
「うん」
リナが驚いた顔をした。
「そんな顔もするんだね」
「?」
「楽しそう」
レンは首を傾げる。
よく分からなかった。
でも、
悪い気はしなかった。
***
並んで歩く。
畑道。
夕日が長く伸びていた。
「いっぱい見るんだろうなぁ」
リナが空を見ながら言う。
「うん」
「強い人も?」
「見る」
「すごい剣も?」
「見る」
リナが笑った。
「レンらしい」
レンも少し笑った。
何を見るのか。
自分でもまだ分からない。
でも、
見たいものはたくさんあった。
***
分かれ道。
二人とも足を止める。
明日になれば出発だ。
数日、
村を離れる。
レンは少し考えた。
それから言う。
「ありがとう」
リナが目を丸くした。
「どうしたの?」
「いや」
上手く言葉にならない。
だから、
それ以上は言わなかった。
リナも聞かなかった。
ただ頷く。
それで十分だった。
***
しばらく沈黙が続く。
風が吹いた。
レンは空を見上げる。
明日には、
あの先へ行く。
知らない場所へ。
そして。
「行ってくる」
自然と口から出た。
リナは少しだけ笑う。
いつもと同じように。
「うん」
「いってらっしゃい」
レンは頷いた。
そして歩き出す。
振り返らなかった。
***
その夜。
千一回目を終えても、
胸の奥のざわめきは消えなかった。
明日。
初めて、
道場の外の世界を見る。
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