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剣の道~拾われた子が30年素振りを続け最強に至るまで~  作者: 涙目


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第25話 初めての願い

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

それから数日が過ぎた。


ガルドは以前ほどレンを馬鹿にしなくなっていた。


だからといって仲良くなったわけではない。

話しかける回数が少し増えただけだ。


***


朝。


レンは桶を運んでいた。


道場の雑用。

いつも通りの仕事。


「おい」


後ろから声が飛ぶ。


振り返る。

ガルドだった。


「何?」


「お前さ」


少し言葉を探すように口を閉じる。


「……あの型」


レンの目が少し開く。


「見てたの?」


「たまたまだ」


ガルドは即座に答えた。


「そう」


レンはそれ以上聞かない。


「で?」


「なんであんなことしてるんだ」


「見たまんまだよ」


「分からないから」


レンは桶を置いた。


「あの人がやってた型を思い出してる」


「あの人?」


「師匠」


ガルドは黙った。


道場では有名な話だった。


先代師範。


レンを拾った人。


そして一年ほど前に亡くなった人物。


「あの人は全部出来た」


レンがぽつりと呟く。


「だから見てた」


「見て覚えようと思った」


「それだけ」


当たり前のような口調だった。


だがガルドには理解できなかった。

見ただけで覚えられるなら苦労しない。


それにレン自身。

全然出来ていないではないか。


「意味あるのか?」


思わず聞いていた。


レンは少し考える。

そして笑った。


「あると思う」


迷いがない。


「なんでだよ」


今度はガルドが呆れる。


レンは道場を見た。


門弟たちが稽古している。


木剣がぶつかる音。


踏み込み。

受け。

打ち込み。


ずっと見てきたもの。


九年間。


ずっと。


「分からなかったことが」


レンが静かに言う。


「昨日より少し分かる時があるから」


ガルドは黙る。


レンは続ける。


「一回だけ」


「本当に一回だけ」


「出来る時があるんだ」


その顔は嬉しそうだった。


子供みたいに。

宝物を見つけたように。


「その一回のためかな」


そう言って笑う。


ガルドは言葉を失った。


道場の誰も、

そんな理由で剣を振っていなかった。


強くなるため。

試合で勝つため。

認められるため。


皆そうだ。

ガルドもそうだった。


でもレンだけ違う。


昨日より少し分かるため。


それだけで、

九年間続けている。


正直、

理解は出来なかった。


だが、

少しだけ羨ましいと思った。


***


その日の稽古の終わり。


師範が門弟たちを集める。


「来月」


全員の視線が向く。


「王都で剣術大会が行われる」


ざわりと空気が動く。


その名は有名だった。

全国から剣士が集まる大会。

若い門弟たちにとって憧れの舞台。


「今年も見学に行く」


門弟たちの顔が明るくなる。


「本当ですか!?」


「やった!」


「行きたい!」


歓声が上がる。


その中で。


レンだけが固まっていた。


王都。

剣術大会。

全国の剣士。


見たことのない剣。

知らない型。

知らない技。

知らない世界。


胸が高鳴る。


ドクン。


と。


久しぶりに心臓が強く鳴った。


そして、

レンは小さく拳を握る。


誰にも気付かれないくらい小さく。


「行きたい」


初めてだった。


レンが自分から何かを望んだのは。


その姿を、

少し離れた場所から、

ガルドだけが見ていた。


お読み頂き、ありがとうございます。

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