32:霧里と瀬古
空は、雨が降る直前に見えるほど曇っている。
錆びたマップに従って____『白蛇伝説』がある山まで来た。
周辺マップがあるくらいなので観光スポットなのだが、観光客は誰もいなさそうだ。
代わりにいるとすれば、刑事くらいか。
メイン広場の階段の手前にかっちりスーツを着込んだ刑事たちが団子になり、何やら話し込んでいた。
その中に岩崎も見え、捜一なのは確実そうだ。
そいつらに見つかったら面倒なので、とりあえず三人は茂みにしゃがんで隠れていた。
「あの、霧里さん。もう一回確認しますけど、本当に春谷さんは"籠島は白蛇に殺された"って言ったらしいんですね?」
「えっ。は、はい。さっき確かに聞こえましたから、間違いないです」
「……なるほど」
数分経つと、刑事たちは何か確認するように頷くと颯爽とその場を去っていった。
「あ、お邪魔虫が行きましたよ。さ、捜査しましょ」
霧里が満面の笑みで悪意なさげに言う。
捜査一課なのだから一応は同僚なのだけれど、温厚そうな雰囲気をしながら意外と顔の面が厚い霧里に、瀬古と林枯は「「……はい」」と頷いた。
広場は意外とひらけていた。
説明看板や東屋が見えた途端、霧里が急に「あっ」と叫んだ。
東屋の、横。
そこに、石像のモニュメントがあった。
大きな蛇の。
石像は色が塗られておらず、だからもちろん石色なのだけれど、白蛇だというのは分かった。
観光客向けに置かれているそれはかなり大きく、高さは林枯の身長の一.五倍はある。
そして何より、赤く透き通ったガラスの瞳。
「綺麗ですね」
霧里がそう言う。
「まぁ、そうスね」
瀬古がぶっきらぼうにそう言うと、霧里はきょとんと瀬古を振り返った。
「何ですか」
「あっ……いえ、ごめんなさい。ただちょっと、その、意外で。瀬古さんは何というか……綺麗なものより、カッコいいものの方が好きそうだなって」
「私が?」
瀬古は目を丸くすると、霧里の方に向き合った。
そして、少し間があって、ふと何か気づいたように自身の両手に視線を落とす。
「……。……革手袋があったところで、私はスパイや泥棒なんかしませんよ。地味くさいし……アホっぽい」
すると。
あは、と霧里は口の横にえくぼをつくって、柔らかく笑った。
「きっと____そうですね。瀬古さんが、革手袋も含めてスパイみたいでカッコいいから、無意識にそう思ったのかも」
霧里の口調は軽やかで、明るくて、でも風が吹けば飛ぶような軽さはない。
ひとが、そのひとの体重を抱えながら、スキップしてる感じだった。
革靴の横で、鈴蘭が緩やかに風に揺れた。
瀬古は瞳を細め少し黙っていたが、「そうですね」とだけ返した。
「さ、探索を始めましょう!」
霧里がるんるんでそう言う。
三人は広場に散らばり、各々手がかりを探すことにした。
林枯がひとり近寄ったのは、一つの古い木看板だった。
文字はところどころ剥げているが、読めないことはない。
二、三回読み返して反芻すると、林枯は振り向いて「瀬古さん」と呼んだ。
そうすると、ポッケに手を突っこんで瀬古は歩み寄ってきた。




