33:暴君先輩
林枯は看板の方を指さす。
「んにゃ。何これ」
「読んでください」
瀬古は看板に目をやったが、数秒も経たずにぐにゃっと目を細めた。
「どー見たって、おまえが要約した方が早いだろ」
林枯は内心うんざりしながら、唇を開いた。
「昔。山奥に住む白蛇が、村の男に恋をしてしまいました。白蛇は人間の女に化け、男と結ばれましたが、男は病気になって村を追い出されてしまいました。白蛇は元の姿に戻り、森の奥で男のことを思いながら、永遠の眠りにつきました」
微妙な間が下りる。
「ただの白蛇が人を愛せて……はん。ま、それはいいとして、この伝承と事件に何の繋がりがあるんだろうな」
瀬古が林枯を見て、さも自然に訊く。
「質問が多いですね。ボクに」
少しの嫌味。
心の中で、あくまで怒ってるわけではないのに、心が微妙に渦巻いていた。
すると瀬古は怪訝そうに見つめてくる。
「おまえが頭いいって、酒蔵さんと火流さんからさんざん聞かされてるからな。……そこは認めてるよ、性格はさておき」
林枯は瀬古をじろっと上目遣いに睨む。
だが瀬古はそれに気づくと、顔を顰めて林枯をギロッと睨み下ろした。
「んだよ」
林枯は反射的にふいと顔を逸らした。
「……いえ、別に」
(この暴君野郎)と思いながら、林枯は遠い目をしながら冷えた両手を擦り合わせた。
「まず、捜査状況の整理をしましょう。今回の事件でまず気になるのは、どちらかということです。田野宮さんか春谷さんかではなく、単独犯か共犯か、を」
「何?共犯だと?」
「捜一では現在、田野宮さんだけが疑われているようですが、共犯の可能性も捨てきれないという事です。ホールで殺害されたのがやはり絶妙です。田野宮さんも春谷さんもたった三歩でホールに出れるんですから。音の観点からしても____」
「あぁ……なるほど。ハンマーで頭を殴られて悲鳴が出なかったとしても、強い衝撃音だって出るはずだ。なのにドア一枚隔てただけでそれが聞こえなかったっつーか、目が覚めないのは不自然かもな」
セリフを取られ、またうんざりしながら答える。
「まぁ、そういうことです。撲殺の音をどうにか隠す方法でもあったのか……。やはり、情報も調査の量も全然足らないという事になりますが」
林枯がため息を吐いて会話に区切りをつけたタイミングで、「おーい」とちょうど霧里も駆け寄ってきた。
林枯はまた猫かぶりモードになって、白蛇の伝承を霧里に丁寧に説明した。
「へぇ……。むむむ。と、なると?改めて春谷さんの証言は……"籠島さんは白蛇の怨霊に祟られて亡くなった"って意味になるんでしょうか。うーん、春谷さんって、オカルト好きの方なんでしょうか」
それから、少し暗い声になる。
「試しに来てみましたけど、えーっと……もしかして、無駄足でしたか。ごめんなさい、私が無能だから……」
その時。
「……ただの伝承、か」
そう、林枯が深刻そうな低い声で呟いた。




