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27:おおへび


脳裏をよぎる嫌な予感に、林枯は口角をぴくぴくと跳ねさせ顔を上げる。


正面にあるペンションの玄関前で、瀬古と火流が対面して、お互い口を尖らせ合っていた。


「イミわかんないです!」

「俺だってわかんないもの!」


火流はいつも垂れている眉を上げているし、林枯がこんな喧嘩を見るのは初めてだった。


「ど、どうしたんですか?」


瞬発的に霧里が尋ねると、瀬古は「いえ。火流さんがおかしなこと言うので」と火流を差して答える。


「おかしなことじゃないよ!俺はホントに見たんだ。真っ赤な目のおおへびをっ」


「おお、へび……?」


霧里はあからさまに、信じられないとでも言いたげな視線を向ける。


瀬古は「はぁ……」と深く息を吐いて、「おおへびって何ですか。大蛇(だいじゃ)でしょ」とがっくり肩を落とした。


「今さっき、風に飛ばされたハンカチを走って拾いに行った矢先、帰ってくるなり泣きついてきて……えっと、こんな感じに」


それから、心の底から訝し気に言う。


「茂みの奥に、いたんスと。動物園にいるような大きな蛇の、ニ倍くらいの大蛇が」


すると、ふくれっ面の火流は、更に眉を吊り上げた。


「何でそんな呆れた感じで言うの。じゃあ、いないって確かめてよ。俺は行けないから君が探してきて。さぁ早く!」


「はァ?ただでさえこっちは忙しいのに、何言ってんですかっ」


そうして、瀬古と火流はまたぎゃあぎゃあと騒がしく口論を始めた。


林枯は隣の霧里の顔をチラリと覗く。


霧里は口元を引き攣らせながら、「あ、はは……」と苦笑していた。


林枯は本当に頭がきりきりと痛むのを感じ、「本当にごめんなさい。いつもはあんなんじゃないんですよ」と上目遣いに謝った。


「い、いえ。いつもは、ってことは、普段は仲がよろしいんですよね?それはいいことですから。あ、林枯さんは捜専でどれくらい経つんですか?」


突然自分に話題を向けられ、林枯は戸惑った。


「ボクですか?えっと、実は、ボクは日の浅い新入りなんです。捜専に異動になってやってきてまだ一週間で」


その瞬間。


「一週間?」と霧里は元々丸い目を更に丸くした。


その反応に、林枯は頭の片隅で違和感を感じる。


林枯は口を開こうとした。


しかし、霧里が「何でもありません」と恥ずかし気にかぶりを振ったので、それは叶わなかった。


「もう、分かったよぉ……」


ふと、背後から火流の暗い声が聞こえ、二人は振り返る。


火流はしょぼんと俯き、瀬古はいつものツンとした顔で腕を組んでいた。


口論の勝負はついたということだろう。多分大差で。


そうして、四人はどこか噛み合わない雰囲気をまとわせながらまた歩き出した。


ペンションの古い両開きの扉を開くと、目の前には人だかり。


輪状になって何かを囲っては視線を床を落としているその様子に、林枯は(何だ?)と思ったが、すぐに疑問は解決した。


そこにあったのは、ぐねぐねと人型に曲がった白い紐。


発見された遺体の状態を示す、状況証拠だった。


よって、捜査一課が群がっては険しい顔をしてそれらを見下ろしていたのだ。

その周辺の空気は重々しく、近寄りがたい。


刑事と刑事の間____から、林枯は一瞬だけその輪の中を覗けた。


被害者の人型線のすぐ隣に、大ぶりのハンマー。

端には赤いものがこびりついていた。


そして何より、人型線の頭の部分。

もっと言うと、()()()


茶色い仮面____アドロンクの仮面があった。


目と口の部分に空いた穴の周りに、中から噴き出した酸化した血が付着している。


ふと、目尻が大きく垂れ下がったような木彫りの目と視線がばっちり合った。

恐怖とも興奮ともつかない衝撃に、林枯はゾッと腕に鳥肌が走った。


群衆を抜けると、広々とした本来のホールが姿を見せる。


明るい暖色のシーリングライトに、中央に大家族が囲むような大きな机。


「こっちです」と霧里がホールの左奥まで案内する。


木製のドアの前に止まり、ドアノブを回す。


その中を覗いて、霧里以外は唖然とした。


錆ついたガラクタの山が、八畳ほどの部屋にまんべんなく広がっている。


鉄錆の猛烈に鋭いにおいに、林枯は思わず顔を顰めた。


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