23:あくまの印象
電車がゆっくり停車していく。
がたんがたんと、聞き慣れているのにどこがどう鳴っているのか知らない音はずっと響き続けている。
林枯は向かいの車窓からの鋭い日差しに目を細めた。
横を見やると、隣に座る瀬古は目蓋を落とし長い足を組んでいた。
顔つきが神妙で、乗車してからずっと唇をやわく噛み締めている。
さらにその隣へ視線を移すと、火流は窓の外の田畑の風景を見ていた。
大人らしく景色を憂いて眺めているのかと思いきや、道端のラーメン店や食堂ばかり目で追いかけている。
(……この人は、なさそうだな。喜怒哀楽のまんなかふたつ)
そう思いつつ、ふと火流の胸元にほこりのかたまりを見つける。
林枯は気づけば口を開いていた。
「火流さん。胸のところ、ほこりが付着していています。人の服装にけちはつけませんが、これから仕事なので」
____火流はびくっと飛び跳ね、それから林枯の顔を避けるように視線を泳がせた。
それに反応して、瀬古が瞼を薄く開き、火流の方を向く。
「ここ」と瀬古が自分の胸元を指差すと、火流は耳のふちを赤くしてぺっぺとほこりを振り払った。
そして喉を締め付けられたような声で
「ご、ごめんね」
とだけ呟いた。
林枯は無意識に瞳に影を落とす。
「……ボクのこと、悪魔か何かだと思ってます?」
「えっ?いや。そんな」
引き攣った火流の顔から目を逸らし、林枯は鼻を鳴らす。
(嫌われてんな。それとも)と考えを切り替える。
その瞬間とある事に勘づいて、なるほどと思った。
火流にはまともに効いているのか、あの"忠告"が。
がらがらの電車は走り続け、林枯の脳内には思い出したくない光景が蘇ってきた。




