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22:錆びつき
鉄錆の匂いが、ツンと鼻の奥を刺す。
それがオエっと吐き気を催し、男は代わりに口呼吸をしていた。
言われた通りの物は、既に両手に持っている。
右手にはハンマー。
左手には、スイッチ。
これさえちゃんと作動してくれれば、後はなんとかなる。
背後の机には____アドロンクの仮面。
都市伝説の動画で見た時はただの仮面。
なのに、実物はもっと生々しく気持ち悪かった。
『傷つけられた人間は、やり返す権利がある。』
男はメッセージの内容を脳内で反芻し、ごくりと息を呑んだ。
まーくん。
観覧車の向かいに座って、こちらを見て笑う。
その澄んだ声はまだはっきりと耳の奥へ残っていた。
『それは、義務じゃない。しかし、復讐するとするなら、____』
今だ。
震える左手に力を込めた。親指が冷たいスイッチを押す。
それから数十秒後。
突然、男の正面前方から足音が聞こえ始めた。
だんだんだん。
慌ただしく走っている。
その音は徐々に大きくなってくる。男は右手に力を込めた。
不規則に聞こえる足音。体内で響く心音。
より狂ってるのはどっちだろう。
「誰かッ!」
喉が裂けるような声。
次の瞬間。目の前のドアが開かれた。勢いよく。
男は右手を掲げ、重たいそれを振り下ろした。




