第5話 ペイン・キル
――基地・イーストサイド側 門前
この世界は、不思議だ。
最初は、銃弾と血が飛び交う戦いに手が震えた。それが今は、恐怖がほとんど湧いてこない。おかげで目の前のことに集中できるが、この不自然さは、ここが俺のいた世界ではないからなのだろうか。
ただ、痛みも、吐き気も、空腹も、睡眠欲もある。だから、安易に致命傷を受けるわけにはいかない。
……集中しよう。
今回は、三つのチームに分かれて動く。
・俺とソフィアが、アルファ。
・自称スナイパー・マイクが、ベータ。
・ニックとジェシカの二人が、デルタ。
マイクだけが一人というのは少し気の毒だが、彼は優秀なスナイパーだ。PVSの補正があるから観測員はいらないし、そもそも、組める人間がいないほど狙撃に特化している。
今回は、作戦もガジェットも揃っている。準備は万全だ。
“グループメンバーと防具を共有しますか?”
視線をYESに合わせると、全員の防具が切り替わった。誰も、そのことには気づいていない。
「通信確認だ。みんな、応答してくれ」
『ベータ、感度良好。スナイパー・マイクだ』
『デルタ、了解。二人とも、後ろは任せて』
マイクとジェシカの声が、イヤホンの奥から返ってくる。
「ええ。二人を撃たせたりしないわ」
ソフィアの声は、落ち着いていた。
「行こう。これより、ジャッカル掃討作戦を開始する」
ニックの低い声が、作戦の開始を告げた。
初めて向かう場所だ。ファストトラベルは使えないし、使うつもりもない。移動中の記憶が飛ぶのだから、もう使うことはないだろう。俺たちは、作戦通りのルートを歩いて進んだ。
日が暮れるころに基地を出て、現地に着くころには、すっかり深夜になっていた。闇夜に紛れるほうが、マイクにとっても、先行するアルファにとっても都合がいい。
幸い、道中で敵に遭遇することはなかった。科学技術センターは、ブリーフィングで見た映像より、ひとまわり大きく感じられた。映像で見るより薄汚れているが、建物そのものは頑丈で、身を隠せる場所は少ない。
「ここまででいい。待機していてくれ」
同行してきた市民兵にそう告げて、俺とソフィアは銃を構え、先へ進んだ。この地点から、ニックとジェシカのデルタは別行動になる。
二人の位置は、もちろんPVSに表示されている。狙撃ポイントへ向かったマイクも同じだ。だが、敵には、存在しないものとして見せる必要があった。アルファの二人だけが殺しに来た。そう思い込ませることが、この作戦の要だ。
「ラウ、正面に二人」
「ああ」
遮蔽物の少ない屋外だ。入口へ向かうには、正面突破しかない。そこで待ち構えているのが、据え付けのミニガンだった。
「行くぞ、ソフィア」
ミニガンの近くから敵が離れる、その隙を狙う。
俺が一人に攻撃を集中させてアーマーを削り、ソフィアがもう一人を牽制する。二人がかりでアーマーを砕き、そのまま上半身に弾を撃ち込んだ。
「ぐああっ!」
「なんだ!?」
声が上がった。
「聞いたか、ソフィア」
撃たれた敵が倒れ際に漏らした叫びは、痛覚が生きている証拠だ。それに気づいたソフィアは、狙う敵へ攻撃を集中させる。俺たちは、倒しながら、じりじりと建物との距離を詰めていった。
『痛覚があるなら、動けなくなるまで撃て――』
オルセンの通信を遮るように、こちらへ向けて銃弾が飛んできた。照準は合っていない。さっき俺たちが撃った銃声を聞かれていたのだろう。その方角へ向けた、牽制射撃だ。
「こっちか!?」
「とにかく撃て!」
少しずつ、弾着が俺のほうへ寄ってくる。視界は、PVSが周囲の明るさに合わせて自動で夜間モードに切り替えてくれていた。暗視ゴーグルを持たない敵に対しては、こちらが有利だ。
“メインウェポン SARセミオート → ARアサルトライフル”
銃が形を変える。俺は身体を横に回転させながら、連射を浴びせた。精度は低いが、何発かは当たった。
「くっ、こっちだ!」
敵が俺に気を取られているあいだに、ソフィアが別の角度から撃ち倒していく。うろたえる敵に、容赦なく弾を浴びせる。ここで、気を抜くわけにはいかない。
正面入口へ続く階段が見えてきた。
「準備はいいな?」
そのとき、後方の遠くから、乾いた一発の銃声が空気を裂いた。予定通り、マイクの狙撃だ。
『撃ち漏らしは俺が拾う。今のうちに行け』
「一発か。さすがだな」
「了解だ、マイク!」
“ガジェット 追撃ビット展開”
マイクが撃ち抜いたのは、ミニガンについていた敵だ。事前の映像通り、ハーフキャップ型のヘルメットをかぶっていた。一発目でフェイスガードを砕き、二発目が頭部を撃ち抜いた。
「行くぞ!」
敵が回り込んでくるのは分かる。だが、その相手はマイクが狙っている。被弾はいくつかあったが、アーマーをわずかに削る程度だ。敵が占拠していた位置を遮蔽物にして身を隠すものの、いかんせん数が多い。
とはいえ、敵も混乱しているのか、銃声は聞こえるのに、こちらへ照準が合っていない。
「ラウ、分かってる? 二十はいるわよ」
「ああ。押し込まれないように、撃ち返せ」
鋭い音とともに、敵の弾が俺のヘルメットをかすめた。
ニックはまだか。
視界の端で、レーダーの光点が、ひとつ消えた。
敵が、一人減った?
続けて、もうひとつ。さらにもうひとつ。光点の減少に合わせて、銃撃が少しずつ薄くなっていく。
「上へ行く。シールドを展開しろ」
「了解」
ソフィアが、ガジェットのエネルギーシールドを展開した。ある程度の銃撃は防いでくれるが、大口径の弾や、耐久熱の限界を超える負荷を受ければ解除されてしまう。使いどころを誤れば、壊れて使えなくなる。しかも、ガジェットはゲームと違って補充がきかない。基地へ戻って補給しなければ、替えがないのだ。使いどころは、慎重に考えないといけない。
『くそ、撃ち漏らした! 敵がミニガンのほうへ行ったぞ!』
ミニガンへ向かう敵の背中を撃つ。だが、止まらない。
例の、無痛覚か。
「伏せて、ラウ!」
鈍く、速い連射音が、空気を叩いた。風圧が胸を押す。俺もソフィアも、身を隠すしかない。
「くっ」
休みなく降り注ぐ銃撃に、遮蔽物が削れていく。やがて、アーマーに弾が食い込み始めた。
“アーマー損傷率15%”
「どうするの、ラウ!?」
まずい。俺もソフィアも、周囲の敵の相手で手一杯だ。マイクの援護射撃は聞こえるが、決定打にはなっていない。
『チッ。さっきより硬いな』
マイクの苛立ちが伝わってくる。俺たちは、回り込んでくる敵を撃つのが精一杯だった。この角度では、前を向けない。当たっても、急所でない限り、敵は手を止めない。
視界の隅で、光点がまたひとつ消えた。
残りは十五人。減っているのか。ミニガンの音にかき消されて気づかなかったが、ニックとジェシカが、動いているのか。
『ミニガンは制圧した。ラウル、ソフィア。そのままこっちへ合流してくれ』
通信が入ると同時に、あの重い連射音がぴたりと止んだ。顔を上げると、ミニガンの前に、ニックが立っていた。その隣で、ジェシカが銃を構えている。
駆け寄ると、ニックはミニガンの銃口を、別の方向へ向けて撃ち始めた。
「左を頼む。ラウルは右だ」
ジェシカの指示に従って、俺は右側の敵を撃つ。二人は、俺たちの背後を押さえている。慎重に身を潜めていた敵は、マイクの長距離射撃が一人ずつ仕留めていった。
「ハァ、ハァ……」
こんなに早く息が上がるとは。何をしてくるか分からないジャッカルの連中相手には、神経を使う。急所を狙って外せば集中攻撃を受け、その隙をソフィアたちがカバーする。逆の場合も、同じだ。
「入口は、制圧したわね」
状況を聞いていたマイクから、通信が入った。
『了解。ベータは今からそっちへ向かう。先に進んでいてくれ』
「ニック、一体どうやって……」
『俺には見えてたぜ。足元を見てみな』
マイクに言われるまま、倒れている敵を見る。首を切られ、血が広がっていた。
『お~、おっかねえ』
マイクの、小さなつぶやきが聞こえる。
『PVSの開示情報では、あえて伏せていた。二人は、暗殺戦術と諜報のエキスパートだ』
オルセンの説明が、無線に流れた。
ふと、ニックパイセンの顔を見る。どこかすっきりしたような、穏やかな顔つきをしていた。怖い。表は真面目で、裏はアサシンの二人組。怖い。
◆“Lv.18 → 23
ディテクティブスキルが解放されました。
ワイヤーアクションスキルが解放されました。
フィジカルスキル“マルチグレネード”が解放されました。
フィジカルステータスが向上しました。”
“ドロップ品を回収しますか?”
装備重量が増えることを考えて、NOを選ぶ。
エントランスに入ると、予想通り、敵は誰も警戒していなかった。さっきの銃声で、侵入者を追い払えたと思い込んでいるらしい。
ニックが、無言で「俺がやる」とサインを送ってきた。次の瞬間、驚くほどあっさりと、敵に気づかれないまま背後に回り込み、サイレンサー付きのハンドガンで頭を撃ち抜いた。あの銃は、確か、かなり大口径のものだったはずだ。
ゲームでは、ハンドガンは念のための装備扱いだった。運営のイベントやドロップ品目当てに難易度を変えたときくらいしか使わなかったが、弾数は無限だった。ところが、この世界では予備マガジンが一個しかない。他のポーチは、ライフルやマシンガンの予備マガジンと医療キットで、すでにいっぱいだ。
『ラウル。この先は、手順通りに頼む。ここからは乱戦になる』
ニックの指示とともに、奥のほうにいくつもの反応が浮かび上がる。ニックとジェシカは気配を消した。その二人を背に、俺とソフィアが先行する。一階は、広い研究フロアだ。どう攻めるか。
『ラウル、見えるか。あの敵の近くにある、鉄製のタンクだ』
オルセンの無線に従って、タンクに視線を向けると、PVSが反応した。
“DANGER 揮発性:大 燃焼性:大 危険反応:あり”
「みんな、マスクを着けて。何が入っているか分からない」
ソフィアの指示に従い、俺もマスクを装着する。
何だ、これは。ゲームには、こんな展開はなかった。やはり、ここはゲームとは違う、別の世界なのだ。
「ラウ、狙って」
戸惑いながらも、俺は“ゲイズ・ヘル”を構え、タンクに命中させた。
腹の底を揺らす爆発が起き、熱風が頬を叩いた。
“メインウェポン ゲイズ・ヘルSAR → ファリスN17 ARへ変更”
小規模な爆発だった。これをきっかけに、二人で撃ちまくる――つもりだったのだが、爆発は、そこで終わらなかった。
二度、三度と、爆音が重なる。ソフィアが、怪しいものは全部撃ち抜くと言わんばかりに、中身の分からないタンクを片っ端から撃っていたのだ。炎が敵の体を舐め、アーマーゲージがあっという間に溶けていく。
「何してるの! 早く撃ちなさい!」
「は、はい!」
別の方向から、サプレッサーをつけた銃のくぐもった音が、かすかに聞こえた。ニックとジェシカだ。
この作戦では、囮を兼ねて、俺とソフィアは、あえてサプレッサーを外している。敵の意識がこちらへ集中するほど、あのアサシン二人が有利になる。増援が向かってくる反応が、PVSに浮かんだ。
「リロードする。お願い」
「了解」
ソフィアが弾倉を換え終えると、今度は俺が入れ替える。こうして、互いに支え合う感じは、悪くないな。
“ビット(追撃仕様)展開”
銃声と爆発音が重なり、敵の悲鳴が激しくなっていく。
“敵増援反応”
「ソフィア、増援だ。気をつけ――」
言いかけたところで、増援の動きが、ぴたりと止まった。ジェシカのスタントラップか。
“メインウェポン ARアサルトライフル → SARセミオートに変更”
立ち止まった敵を正確に撃ち抜く。血を噴きながら、敵が崩れていく。
通信越しに、ジェシカの舌打ちが乾いた音で聞こえた。そんなに、自分の手で仕留めたかったのか。怖い。
『ラウル、このフロアは制圧した』
ニックの声も、わずかに不機嫌な響きを帯びていた。怖い。
「あ、はい」
『ここから、地下の研究フロアへ向かってくれ』
オルセンの指示が入る。
『図面によると、この一階よりずっと広い』
俺とソフィアはマガジンを交換して、先行する。階段を降りると、長い通路に、いくつものドアが並んでいた。事前情報では、すべて同じフロアにつながっているはずだ。
「ソフィア、シールドを展開しておいてくれ。強行する」
敵は、すでに待ち構えている。『メビウス』のように、都合よくドアが開いていて、こっそり忍び寄れるわけがない。何より、このエリアを、俺は知らない。
ドアノブを回し、ドアだけをそっと押し開けた。次の瞬間、銃声が殺到し、ドアが蜂の巣になる。身をかがめて、ソフィアと同時に部屋へ転がり込み、遮蔽物の陰に隠れた。
“ソフィア シールド耐久度60%”
「スモークと焼夷弾を、同時に投げる!」
二つの手榴弾を、別々の方向へ投げた。さっきのレベルアップで手に入れた固有スキル、マルチグレネードだ。力学的にどうなっているのかなんて、知らない。使えるものは、使う。
それぞれの場所で、煙と炎が噴き上がる。敵が混乱しているのが分かった。
「シット!」
ソフィアも撃ち込む。だが、このフロアには、もう爆発するものはなさそうだった。
「おい、デレク! どうなってる!? こっちに敵が来てるぞ!」
敵の叫びが聞こえた。デレクって誰だ。中ボスか。その間に、敵を減らさないとまずい。
“Enemy反応 7、6、5”
視界の外では、ニックとジェシカが切り裂いているのだろう。雑魚の数が、確実に減っていく。
『アルファ、伏せろ』
ニックの無線に従って身を隠した直後、壁越しに、爆発の衝撃が三度、体を揺らした。
連射式のグレネードランチャーか。PVSに、“デレク”という名前が浮かんだ。
「くっ、狙えるか、ソフィア?」
「駄目、ここからじゃ無理よ」
ソフィアのシールドも、三連発のグレネードを受ければ、さすがに破壊される。
「デルタ。奴の装備は見えるか?」
『強固なアーマーだ。刃は通りそうにない』
でしょうね。斬鉄剣でもない限りな。つまらぬものを斬ってしまった、と、どこかの怪盗の相棒が言いそうな状況だ。そんな冗談を頭に浮かべている余裕は、本当はない。
爆発音の合間に、ニックとジェシカのサブマシンガンの銃声が響く。
『こちらも撃っているけど、びくともしない』
ジェシカの声は、あくまで冷静だった。
隠密重視の武器では、火力が足りないか。ならば、これしかない。
「三人とも、俺の指示を聞いてくれ――」
グレネードのリロード音を、耳が拾う。金属が噛み合う、独特の響き。それが、こちらの合図だ。
『ぐっ……動きが!?』
フルフェイスのアーマー越しに、籠った声が漏れた。デレクの動きが止まる。ジェシカのスタントラップだ。
「シールド展開」
続けて、ソフィアのシールドを、俺に向けて展開してもらう。ゲームの『メビウス』では、自分にしか使えない。だが、この距離なら、範囲を指定できる。
“追撃ビット起動”
バックパックからビットが飛び出す。俺はARの狙いを変えないまま、引き金を引き続けた。狙うのは、敵の首だ。この距離なら、あわよくば、フルフェイスごと破るつもりで撃つ。
『そんなものが効くか』
スタントラップでも、完全には動きを縛り切れない。指を動かすだけで、奴は戦況を有利にできる。それでも。
最初の一発が、シールドに着弾した。
凄まじい衝撃が、建物全体を揺らす。
“シールド耐久値 残り60%”
“SAR 残弾20”
それでも、手は緩めない。俺だけのPVSで、武器をARに切り替え、リロードせずに連射する。
“武器変更 SAR → AR”
“AR 残弾80”
『無駄だ』
デレクの余裕に満ちた声とともに、二発目が着弾した。シールド越しでも、衝撃が骨に響く。
“シールド耐久値 残り40%”
“AR 残弾62”
「シールド、解除して」
ソフィアが操作して、シールドが消える。来る。
三発目のグレネードが着弾した。
爆風に押し流されて、俺は床に叩きつけられた。すぐには体勢を立て直せない。
「くっ……ぅ……」
“アーマー耐久値が限界に達しました。生命に危険があります”
頭がふらつく。耳鳴りがして、一瞬、思考が止まった。PVSの視界が、赤い警告表示に染まっている。
ソフィアとジェシカの射撃音が、遠くのほうでわずかに聞こえた。
「まだだ……」
俺も、なりふり構わずARで敵を狙った。
撃鉄が空を打つ、乾いた手応えが掌に返ってきた。弾切れだ。
「スタン最大」
俺の弾切れを察して、ジェシカがガジェットを操作する。
「リロード!」
ソフィアとジェシカ、二人の声が重なった。最後の合図だ。
――今だ!
「やれ、ニック!」
「フィジカルブースト、起動」
敵の背後から、ニックが首筋にナイフを突き立てた。狙いは、アーマーの薄い関節部だ。ただし、手足の動きは、フルフェイスの視界に入りやすい。
フィジカルブーストは、一時的に身体能力を引き上げるスキルだ。身体への負担もクールダウンも長いため、ゲームでは使うユーザーがほとんどいなかった。だが、ここは現実だ。俺たちの銃撃で、少なくとも敵の耐久力は削れている。一撃で、確実に息の根を止めるには、これしかない。
ニックが、歯を食いしばった。ナイフに全体重を乗せている。だが、刃はそれ以上、食い込まない。まずい。
『グッ……邪魔だ!』
デレクが腕を振り払った。全身を覆うアーマーは重装備だ。完全防弾仕様の鋼鉄製で、動きは鈍い。それでも、腕を振り回すだけで、とんでもない威力になる。ブーストで強化したニックが、紙切れのように吹き飛ばされた。
確かに、首のアーマーは削れていた。ただ、ニックのナイフは、首の隙間に食い込んだままだ。
殺られる――!
次の瞬間、遠くで銃声が轟いた。弾丸は、柄尻を正確に撃ち抜いた。ナイフが、さらに深く首の奥へ押し込まれる。血が噴き出し、デレクの巨体が、膝から崩れ落ちた。
「ベータ、到着だ。待たせたな」
振り返ると、フロアの外、ぎりぎりの角度で、望遠レンズが光っていた。背後からの狙撃が、俺たち三人を救ったのだ。
「ハァ、ハァ……」
「よう、相棒。タイミングが良すぎたか?」
息を切らす俺の前で、マイクが得意げに笑う。ベストタイミングだった。だが、ちょっと腹の立つ顔をしている。
「もっと早く来いよ……。ニックは?」
『問題ない』
イヤホンから、ニックの声が返ってきた。無事を確認していると、ソフィアが血相を変えて、こちらへ駆け寄ってくる。
「ラウ! また無茶を!」
一階で着けたガスマスクは壊れ、アーマーは煙を上げていた。回復キットを使って、体勢を立て直さなければ。ゲームと違って、この放射熱は、放っておくと火傷になる。
「マイク、増援が来ないか見張って。ソフィアは、ニックとラウルのアーマーが回復するまで護衛を。PVSで、フィジカルデータに異常がないかも確認して」
ジェシカが、淡々と的確な指示を出していく。こういう状況では、さすがに経験がものを言う。
そして、ここからだ。
おそらく、この先に、ジャッカルのボスがいる。




