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第2話 初チュート・リアル



無事、ファストトラベルできたようだ。

ファストトラベルで一瞬で移動できたことに誰も違和感を感じていない。

時計を見ると時間が過ぎている。

それも束の間、あっという間にメンバーは散開し、爆薬を作戦通りのポイントに仕掛け終えた。


「作戦開始」


 ―ドォォォン―


無線でのオルセンの声と同時に四か所から爆発が起こる。

もちろん、封鎖された出入口をつくるために、俺たちの仕掛けた爆薬だ。

今回は楽だ(・・・・・)

ゲームなら一人で掃討する拠点を自我のある5人で制圧する作戦。


「今のうちに行くわよ!」


 チームが爆発で出来た穴にから、建物に突入していく。

 ソフィアが爆破でできた穴から潜入し、デスクの陰に隠れる。

 ラウルは、”元の世界”のゲームの記憶を辿っていた。


ここはサイバーテック社で、ジャッカルという敵組織はここを根城にしている。

初回の殲滅戦・・・。

元のゲーム『メビウス』の敵は、当然のようにメビウスの部隊を敵視して襲ってくる。

中には自分達が正義で、こちらが悪の組織みたいに言ってくるセリフもある。


現実かゲームかよくわからない、今の最優先は敵を倒して全員無事でいることだ。


「正義はこっちだ、メビウスの奴等をやっちまえ!」


敵の怒号が響き渡る。

…なにが正義だ、本当に正義を掲げるなら――


 ―・・・・・―


正義を掲げるなら…なんだっけ?

次の言葉が浮かばない。

なんだこれ…不思議と身体の緊張感も抜けていく感じがする。


ダメだ!集中しろ!

今、この俺の状況が現実のものだとしたら、わけの分からないままゲームの世界で死ぬことになる!


それだけはダメだ!絶対に勝って生き残るんだ!


「1人アウト。ラウル、私に続いて」


 ソフィアに向かって敵ザコの銃撃が襲うが、身を潜めている彼女には当たらない。

 ソフィアが敵を惹きつけている間にラウルがザコを撃ち、敵に命中させる。


 血を吹き出しながら倒れていく敵が、スローモーションに見えた。

 引き金を引いた感触と、胸の奥が固くなるような感覚に、ラウルは一瞬だけ感じた。


 音がしなくなり、ラウルは静かに近づくと、動かなくなった肉の塊が赤い液体塗れで倒れていた。


 グラフィックじゃない、本物の人間だった。


 冷や汗が流れ、口の中が苦く感じたが、それだけだった。

 血の匂いは気分が悪くなったが、吐いたりはしなかった。


「こっちだ!」


増援に2人の敵、ゲーム通りの展開だ。

ソフィアの銃撃で1人を仕留める。

俺は敵が隠れている壁へ、並べられたデスクを蹴り、飛びながら引き金を引いた。


障害物を飛び越えながら撃つ。

重いLMG(ライトマシンガン)や望遠レンズを除かなければいけないSR(スナイパーライフル)では使用できないスキル、“スラッシャー”だ。

これはゲームの仕様通りに体が動く。


フルオートの銃を連射すれば敵は遮蔽物に閉じこもる。

その間もソフィアは素早く移動し、サブマシンガンを敵に向かって撃つ。


「2人目アウト、クリア」


 新兵とは思えない手際でソフィアが報告する。

 ソフィアは不思議に感じていた。

 基地を奪還した冷静で敵に対して冷酷な相棒が、まるで別人だった。


 応答の声も震えて聞こえる上に、動きも固い。

 任務に集中できないなら、今からでも離脱させるべきか。

 その場合、自身のリスクも負うことになるがー


「よくやった」


 ラウルが一言だけソフィアに返す。


「このまま進むぞ」


徐々に実感してきた。

これはゲームじゃない。


「なるほどね…」


思わず口に出てしまった。


ゲームと今の現実の違い――

 ・弾薬の補給はできない

 ・装備の頑強さは仕様通り、但しアーマーに守られていない部分は負傷する。


ジャッカルの連中もアーマーを付けているが、ソフィアはアーマーのない上腕部や大腿部、頭部を速射性の高い武器で撃ったから一瞬でケリがついただけだ。


「先を急ぐわよ」

「ああ、弾数の残りに気を付けろ」


SMG(サブマシンガン)は速射性が高い分、弾切れになるのも早い。俺がより威力が高く最適射程のあるARを選んだ理由だ。そして―


 ◆Level UP lv1→lv2

  スラッシャー:Lv.UP lv.2


 この表記はソフィアに見えているのだろうか?と、ラウルは思った。

 ペアで組んでいるから彼女が倒しても経験値はラウルに入る。


「ソフィア、レベルが―」

「違うわね、こいつら完全な素人よ。見張りもつけずに呑気な連中…」


 ラウルの言葉を遮るソフィア。

 レベル表示は見えていないことを示す返しに、ラウルは無言になった。


「・・・」


やっぱり、俺に見えている情報はソフィア達には見えないのか…。


 ―“上半身ハードアーマーをドロップ、交換しますか?”―


 ラウルがYESを注視すると自動的に上半身の装備が変わった。

 そのことにソフィアは気づいていなかった


「おいソフィア、防具-」

「シット!あまり喋らないで、この先敵が待ち構えているわよ」


ソフィアは気づいていないのか…?

マガジンを交換しながらソフィアは壁に身を寄せる、確かにPVSの索敵が反応している。

目の前にある死体をみても、罪悪感が沸かない。

実感がないのか?

いや、そういう訓練を受けた記憶が入り込んできている(・・・・・・・・・)

ソフィアが敵のマガジン交換している間、先のフロアへ続く道を見張る。


壁に背を預けながら音を立てないように前進していく。


俺は知っている、この先の部屋には5人ほど待ち構えている。

ディストピアの世界ということもあり、この建物もかなり崩れている。

この、程よく落ちたガレキが身を隠す“カバー”のポイントになっている。


とはいえ、痛覚があるこの世界で致命傷は避けたい。

俺とソフィアは共に前と後ろを確認しながら次のフロアへたどり着いた。


 ―ピッ―


PVSの索敵ではゲームより敵の数が多いな。

索敵範囲にも限界はある、増援がいるかどうかで戦況は変わるだろうがどこかおかしい。


『潜入ポイントに敵影なし。先へ進む』

『こちらも敵影なし。予定通り退路の確保を優先する』


 ぼっち(一人行動)のマイク、ニックとジェシカの2人組から無線が入る。


「了解、こちらは敵を7人確認。これより殲滅する」


ソフィアが無線に応答する。

これだけ味方がいて、敵は俺の方に集中している。


「閃光弾を使う、その間に回り込んで迎撃しろ」

「了解、いいの?また私の手柄になるけど」


手柄を気にする余裕なんて俺にはない、ここで確かめることは山ほどある。

というより、このチュートリアルでこそ確かめるべきことが多いんだ。


「この状況で敵を撃破した数なんて誰が評価するんだ?オルセンか?」

「…なんだか、朝の寝ぼけたあなたが嘘みたい」


ソフィアの言葉をよそに、フラッシュグレネードを投げる。

ゲーム『メビウス』では投擲武器は1種類しか持てないが、ここに来る前に確認した。

装備枠ではなく、実際に装備するバックパックやホルダーに装備して、2種類以上も持てることが確認できた。


 ―カッ!―


 閃光が光り、思った通りのセリフを敵が叫ぶ。


「ぐぁ!こっちだ!」


敵がこちらの方へ当てずっぽうに銃を撃ってくる。その隙にソフィアは回り込んだ。

俺は “こっちに敵がいるぞ” と教えるためにその場でライフルを撃つ。


「うわ!」

「くっ、やられたのか!?」

「くそ!どこだ!」


雑魚がそれぞれパニックを起こしているようだ。


ソフィアの細く高い音のSMGの攻撃が的確に敵を撃ち抜いていく。

俺もソフィアの死角に近い敵を撃つ。3秒で5人、残り2人、閃光の効果はあと2秒…。


「オラアアアアア!!」


奥の扉が開くと同時にライトマシンガンを持った敵が現れた。


馬鹿でかい声出しやがって…。

クソ、こんなやつを俺は知らない―


「ハッハー!こっちの番だ!」


ライトマシンガン(LMG)の音が耳をつんざく。

それに、明らかに序盤の中ボスが言いそうな言葉だ。

イライラしてくる。

世紀末のザコみたいな台詞が腹立つ。


「ラウル、どうする?ここからじゃ―」


とっさに身を伏せるソフィア、LMG(ライトマシンガン)の射撃が彼女の方へ集中する。


回り込む、ということは敵の方へ先行することと同義だ。

奥から来た増援にとってソフィアは“マト”になってしまっている。


「安心しろ、予定通りだ」


俺の手に持っていたアサルトライフル(AR)が、形の違うセミオートライフル(SAR)に変化する。


狙いをつけて敵2人の膝を狙い撃つとバタバタと倒れていく。

やはり急所の装備が薄ければそこが弱点か。


走りながらサブマシンガンを撃ってくる敵をに対し、ローリングして壁に移動し、俺も同じく脚を狙う。


正確に膝は狙えないし、膝には防具を装備している可能性がある、これでいい。


奴らの機動力、無鉄砲に走りながら撃ってくるジャッカルの特徴を逆手に取った。


そしてライトマシンガンを持った中ボスの雑魚がこちらへ標的を変える。


「ソフィア!」


 ―今だ!―


「OK!」


ソフィアの投げた閃光手榴弾が中ボスの視界を奪う。

こちらはPVSの機能によって、自分や味方の放った閃光のデバフはかからない。


PVSの恩恵は大きい。


俺は対角線上に身を低くして走りながら、セカンドウェポンを構える。


「ぐっ…」


鈍く大きい発砲音、至近距離からのショットガン2発だ。

被弾してしまえばそれなりのダメージを受けてしまうのだろう。

この世界の敵のアーマーはまるで紙のようだ。


―“lv.5→lv,7 ”――


序盤だからか、敵を倒すほど簡単にレベルが上がる。

さらにドロップ装備はPVSに表示された。


さっきアサルトライフルがセミオートライフルに変化したのも、視覚での表示で変更させたものだ。


コントローラーで選択していたものが、眼だけで選択できる。


 ―“lv.5アーマーをドロップ 装備を変えますか?”―


装備変更の表示は現在装備しているものより数値が高い場合のみ表示されるようだ。

それを交換すると、ソフィアの防具も変化する。


「ありがとう、助かったわ」

「いや…しかしこんな武器を持っているとは」


 ラウルは平静を装って答えるものの、ライトマシンガンは計算外だった。

 だが、弾薬制限があろうと知っている場所、知っている敵に負ける気はないと感じていた。


「ねえラウ、予定通りって言ったわよね、どういう意味?」

「一緒に参加している3人が敵影を見ていない。ということは、敵は比較的こちらへ集中しているんだろう。とはいえ、上の階の方が人数を残していると偵察ドローンで確認されてる。」


と、誤魔化しておこう。

当然、この手のゲームに増援が出てこないことはない、ドロップ装備を瞬時に変えられたのは幸運だった。


「そう…確かに他の2部隊は入口じゃなくて壁の薄い面を爆破して侵入だったものね」

「ああ、上階へ行こう」


自分とソフィアの残弾数を確認すると、銃の種類に関係なく減っている。

ゲーム内では種類によって残弾は変化したが…。


「上階にはジャッカルの幹部がいるって話よ、気を抜かずに行きましょう」

「皆聞こえるか?これから上階に向かう」


 マイクの応答―

 『敵が4人いる、今から排除する』

 

 ニック、ジェシカ組みの応答―

 『了解、こちらは手はず通り、出入り口付近を見張る。』


やはり先行は俺達だけか…。

廊下を通り階段に差し掛かった時に違和感を感じた。フロア以外に敵が出てこない?


「マイク、聞こえるか?敵は排除し終わったか?」

『ああ、本当に素人だったなこいつら。5人も必要な作戦なのか?』


 余裕そうでよかった。この5人の中でぼっちの可哀そうなマイク、腕は確かなようだ。


「確認したいことがある、今から言うことを実行してくれ」



―10分後


上階のフロアにも誰もいない。


「ラウ、こっち」


ソフィアの方を向くと屋上へ続く階段が見える。

屋上?

このミッションはゲームではここがボス部屋だった。

俺の知っている戦闘エリアではない…。屋上に近づくとPVSが反応する。


「嘘、これって…」

「ああ、信じられないが、奴ら籠城戦を決め込んだらしいな。」


出会ってからずっと冷静だったソフィアも流石に混乱しているようだ。

敵の数だけはゲームの方がまだ多い。

PVSの反応だけで10人を検知、当然だが奥にはもっといる、増援も必ず来るだろう。


ゲームに似ているといっても、撃たれたらアーマーを削られて、最悪死ぬ。


  もう、これは現実なんだ。

  何故、とかそういうのは後にしよう。

  わけの分からないまま死ぬのは嫌だ。


幸いにも俺のこの身体は、自然とプロの兵士のように動いてくれる。


 ―“重装備の敵反応…照合:“シェイド”―


更に表示される“シェイド”の名前。こんなボスは知らないが、ネームドだ。


恐らく強固なアーマーで簡単には倒せない、最初のステージボス。


俺の知っているここのボスも初見では弾切れになって最初は何度もリプレイしたっけ。


「ソフィア、スモークはあるか?」

「ええ、残り2つ。」

「よし、そいつを投げ込んで俺が迎撃する。お前は近づいてくる奴らを倒してくれ。」

「ええ、この数じゃ分散するより固まった方がいいわね」

「俺がSARで狙い撃つ、命中率の高い方が敵のアーマーを削れるはずだ」


違和感がはっきりとわかった。

階段を上りながらPVSに表示された項目、これも俺にしか見えないのだろう。


―“Level UPにより索敵範囲が拡大されました”―


ー“敵のレベル表示が視認できるようになりました”―


敵の数は30以上、そしてレベル表示は10…。

今の俺とソフィアのレベルは7、レベルがインフレしているな、

ゲームではこの段階は序盤の序盤。装備も敵もレベル1だったはずだ。

陰から視認する限り、敵の防具も強固なものになっているのがわかる。


「やれ!」

「了解!」


指示に答えたソフィアがスモークグレネードを投げると、俺は敵に向かって引き金を引く。

上半身のアーマーの上に命中するも、アーマーゲージが減った程度。


「どこから撃ってきてる!?」

「こっちだ!」


スモークの影響で視界を遮られた敵の混乱する声が木霊する。


「くっ」


続けて撃つが、こちらもアーマーの上から数発を食らう。

闇雲に撃っているようだが、撃った対象の方向くらいはわかるのだろう。

自分のアーマーゲージが2割ほど減少しているのがわかる。


セミオートライフルでアーマーを削りきって4,5発命中すると敵は倒れていった。


こっちも必死だ、ソフィアに指示を出す!


「リロード中にビットを展開する。ソフィア、続けてスモーク!」

「了解!」


敵の視覚を奪い続けながら、ビット(ガジェット)起動のスイッチを入れつつマガジンを交換する。


ビットは自律型の近未来ドローンの設定だったっけ。


大きな菱形のユニットが自動浮遊し、更に四つの菱形に分散してランダムに敵を攻撃していく。


「くっ!やめ…ぐああ!」


悲鳴を聞きながら、間髪入れずに俺は手にしたグレネードを投げる。

まだスモークが効いているうちに。


「ソフィア伏せろ、“ベア”を投げた!」


俺の言葉を聞くとソフィアはとっさに身を伏せる


 ―パァン!!


大きな炸裂音とともに、PVSで敵反応が右往左往しているのを確認した。


複数の敵の叫び声が響く。

効いてる効いてる…。

他のゲームにはない、“ベアリンググレネード”だ。


ベアリング弾が飛び散り、出血ダメージを与えるアイテム。

アーマーを剝がした後のライフゲージの減り方からして功を奏したようだ。

ベアリンググレネードや出血ダメージはアーマー越しに効く使用はここでも同じということか。


俺は躊躇なくSARを撃ち込む。


ここまで来たら、敵が本物の人間なのか、ゲームのキャラなのか、ゲームに似たなにかの虚像なのか。

そんなことはどうでもよくなった、


―殺らなければ殺られる―


「それだけだ!」


数が数だ、一体ずつ集中的に確実に撃ち倒す。

中途半端に敵を残せばこちらの隙をつかれてしまうからだ。

視界を奪っている今のうちに減らさないと一気に形成が悪くな―


 ―ドォン!―


急な強い衝撃と爆音とともに俺とソフィアが倒れこむ。

遠くから乾いた音と共に着弾したことはわかる。

グレネードランチャーかよ!?

チュートリアルの敵で使ってこないはず…

迷っている間にも、次々とグレネードランチャーを撃ち込まれる。


「ほら!どうした!」


ゲームでは、この手の敵は攻撃重視になり、こちらにも撃てる隙はある。

問題はゲームとの違い、痛みやダメージがあることだ。


「ラウル、平気?」

「あ、ああ…」


ソフィアにはそう答えたものの、俺だけにはPVSにお互いのアーマー損傷率が表示される。


 ◆“アーマー損傷率70% 

  同行パートナー アーマー損傷率65%”


「くっ、ソフィアは回復しろ。俺が援護する!」


アサルトライフルに切り替えてグレネードランチャーの敵を集中的に撃つ。

すると、敵は障害物に隠れる。序盤の敵とは思えない素早さだ。


 

こちらの銃撃が敵に命中するのはわかるが、残弾が減っていくのも不安だ。

銃撃を止めればまたあのグレネードが来る。


「アーマー回復が終わったわ、次はラウが、私が援護する!」

「頼む!」


ソフィアと交代すると、PVSの回復キットのマークを注視してアーマーの回復が始まる。


ナノマシンなのかよくわからんが、アーマーの耐久値が少しずつ回復していく。


でも、5秒は時間がかかりすぎだ。


早くしろ!


ソフィアの残弾数もあっという間に減っていくのがわかる。検知できる敵はあと15…。


「マイク!まだか!?」


思わず叫んだ。


リアルでグレネードを撃ち込まれたら反撃する気が引けてしまうのもわかる。


ソフィアの方を見るとカバーをしながらガジェットのシールドを展開していた。


この世界では、カバーと同時にシールド展開が可能か。

だが、悠長に確認している場合じゃない。


既にシールドの耐久ゲージも半分は持っていかれている。


アーマー回復が済むとビットが戻ってきた。再チャージに30秒はかかる。


不利だが、訳の分からないまま死ぬわけにはいかない。


「俺が奴を!ソフィアは他の奴に牽制を頼む!」

「わかったわ!」


ソフィアがARで敵を撃つ。

命中はしているものの怯みもしない。

衝撃も感じないのか、あのフルプレートというのは。


グレネードの敵のアーマーも半分は削ったが、1発が重い上に他の敵もまだ残っている現状では、動くこともできない。


 ―カンッ……ジャキンッ-


缶を落とした後に響くような独特の装填音、またグレネードがくる!


 ―パァァァァァァン!―


遠くからの狙撃音と共にグレネードランチャーを構えた敵が倒れる。


『待たせたなラウル、ソフィア』


 マイクからの通信が入る、いいタイミングだ!


「狙撃手がいる!」

「どこだ!?」


混乱している敵の声、平静を装えばもう少しまともに見えるのだろうが、しょせんはモブか。


隙を見逃さずに引き金を引く。


常々思っていたことだ。

オープンワールドゲームだった『メビウス(ゲーム)』でも、立ち入れることができるエリアや施設には限りがあった。


このミッションに屋上はなかったが他のエリアで屋上があった時、ちょうどいい高さのビルがあるのに、そこに入れない。遠距離狙撃がそこでできればいいのに、と。


ゲームの世界では立ち入れられなくても、ここなら時間はかかっても、近くのビルの上から援護狙撃できるのでは、と。

その発想は功を奏した。

マイクは屋上へ入る前の俺の指示をよく聞いてくれた。


「隠れたつもりだろうけどなぁ、丸見えだぜ」


マイクの狙撃音と無線を聞きながら体制を立て直す。

さすがSRのヘッドショット、アーマーを無視して一撃で敵を仕留めていく。


「シールド修復完了、回り込むわ!」

「了解、援護する!」


ソフィアに応じて銃の引き金を引いた。


次々と状況が好転していくのがわかる、あっという間に敵の残存数は5人。


しかし、その中にネームドボスの“シェイド”が表示されていない。


 ―ガチャ…―


「お前らはここで皆殺しにしてやる!」


非常口を開くと、全身を覆うアーマーをまとった敵が現れる。


 ―“重装備の敵を発見…「シェイド」”―


 PVSが反応し、表示する。


「そいつがボスだ!フルプレート装備だぞ!気を抜くな」


俺は声を張り上げた。フルプレートは全身を防具で固めている『メビウス(ゲーム)』のボスがよく身につけている装備だ。


堅い装甲、お決まりなら…。


鈍く強烈な銃撃音に俺とソフィアは身を伏せた。


ガトリングガン…今の俺のレベルとアーマーで喰らえば、あっという間にゲージが減ってしまうだろう。


すると、味方のSRの発砲音が響いた。


『ここからなら、奴の攻撃は届かない!少しずつ削っていってやるぜ!』


イヤホンにマイクの声が響き渡り、続いて俺も指示を出す。


「ソフィア、マイク!ビットを展開する、二人は残りの敵を頼む!」

「「了解!」」


 ビットを展開すると、俺の背部のユニットが分散して敵をそれぞれ追撃していく。

その間も、ニックの狙撃は続いている。


マイクの狙撃と共に、俺もアサルトライフルを撃つ。


だが、ボスの射線がこちらにきていて、隠れながらでは思うように狙えない。


「マイク!銃弾ベルトを狙え!隙ができる!」

「了解!」


ピンポイント攻撃でない限りあの強固なアーマーは壊せない。

ただし、フルプレートアーマーは走ることも不可能なほどに重く、動きが鈍い。

隠れたりすることができない。


俺は一番命中しやすい上半身に集中攻撃を仕掛けた。


敵の銃撃も逸れながらではあるが、こちらに向かって放たれる。


こちらのフルオートの武器とは速射性が全く違い、焦燥感に狩られる。

さすがにカバーしている遮蔽物も削れ、反撃時にこちらもいくらか銃弾を受けてしまう。


――“アーマー損傷率50%”――


 何発かアーマーに被弾し、PVSに表示された。


「くっ」


安全マージンは必要だ、アーマー回復をしながらマイクに指示を送る


「マイク!銃弾ベルト!」

「わかってる!」


パァァァァン!という狙撃音の後に『バキィッ』という高い音が響き渡った。


「やったぞ!野郎、敵の目の前でベルトを直してやがる」


歓喜のマイクの声、これで逆転を狙う!


「よし!」


 ――“メインウエポン変更 SAR(セミオート)LMG(ライトマシンガン)”――


銃がライトマシンガンに変化し、身を乗り出しながら引き金を引く。

威力は大して変わらないが、ドロップしたLMGの弾数は100。

アサルトライフルは30発で弾切れになる、リロード時間がもったいない!


「ぐっ!集中攻撃を受けて―」


シェイドは弱音を吐きながら、周りを見渡すが次々と雑魚はソフィアが撃ち倒していた。


ソロプレイヤーだった俺にとって、仲間の存在は大きく感じる。


『カチッ』


俺はLMGの弾切れと同時に、シェイドのアーマーが破損したことがわかった。


PVS・アーマーと武器の自動換装・アクションスキル。


今使えるものをすべて使う。


使わなければ…



 ―圧倒的ナ強サデハナイー


LMGをその場に捨て、ダッシュで近づきながら武器を変更する。

急がないとガトリングが来る!


失敗は死を意味する。

失敗はできないんだ…


―モウ二度ト


 ――“メインウエポン変更 SAR(セミオート)”――


「ぉおおお!」


ラウルの突撃に追い込まれていくシェイドは、最後の悪あがきか、ガトリングを向けた。

賭けだ、やるしかない―!

シェイドに近づいて更にガトリングの鈍い音が響く!


「―ラウ!―」


 ラウルはソフィアの叫び声がイヤホンに響く中、

 横に飛びながらシェイドの胴体に狙いを定めて

 引き金を引き続けた。

 眼は血走り、腕の筋肉が同じ動きを続けるよう

 に、ひたすら引き金を引き続けた。


 女に構っていられるか、とでも言わんばかりに

 ソフィアを無視して攻撃の手を止めない。


 ズンっという衝撃と共に左足に激痛が走る、

 が手の動きは絶対に変えない。




 撃て!撃て!撃て!撃て!


『ドサッ…』


 撃て!撃て!撃て!撃ち続けろ!


「―ウル……ラウル!」


『カチッ』


「ハァ、ハァ…」


ポンッとソフィアが俺の肩に手をのせるのがわかった。


「終わったわよ…」


我に返ると血まみれでシェイドは倒れこんでいた。ホッとする間もなく脚に激痛が走る。


「ぐぅ!!」

「大丈夫、かすめただけよ。止血するわ。」


ソフィアが俺の脚を圧迫している。

正直かなり痛いが仕方ない。

生きていただけでもよかった。

ホッとしているとオルセンから通信が入る。


『こちらオルセン。敵勢力の殲滅を確認。ご苦労だった』



―15分後


マイクと合流し、肩を貸してもらいながら敵の痕跡を調査する。


「これって…」

「なにか見つけたのか、ソフィア?」


大柄のマイクは俺に肩を貸しながらも余裕そうにソフィアに問いかける。


「ええ、今PVSが読み込んでる…オルセン、見えてる?」


『ああ、連中の武器の出所がわかったぞ…本拠地もだ』


PVSの同期で、同じ映像を見ているオルセンも応答する。


「“ワイルドファイア”…奴等、別の組織と通じているの?」


気が付くと、上空にヘリがやってきた。

基地から近い分、到着も早かったのだろう。


『よし、屋上にヘリを用意する。ご苦労だった。』


こうして、ありきたりで痛みと恐怖を感じた――

異世界に来たことを確信した“彼”の、初めての現実戦闘が終わった。


そして、深く感じたことがある。

この世界に魂か何かわからん、“俺”という存在が在るならば、死んでも生き抜かなければならないのだ、と。


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