第十話 反省
あの後、警察と救急がやってきて金子は現行犯逮捕され、救急車に警察官と一緒に連れられて警察病院に運ばれていった。
俺と綾瀬君は駆けつけて来てくれた藤堂刑事に事情を話した後、パトカーで最寄りの病院に連れて行かれ、そのまま検査入院ということで一泊することになった。
「まさか、すぐに動くとは・・・。
慎重な奴らしくない行動で私も驚いています。一体何があったのでしょうか。
ただ、綾瀬さんというあちらには漏れていない情報のおかげで捕まえることができました。
取り調べは明日からになりますし、事情聴取も行いたいので宜しくお願いします。」
そう言って、俺たちを病院の人に引渡して護衛兼事故の方の事情聴取をするの警察官を残して足早に出て行った。
念のため一通り検査をされて、合間に事情聴取を受けていた。
とりあえず緊急事態だったということで責任は全て金子にあることになるらしい。ただ、車はエンジンルームのフレームがひしゃげて廃車になるとのことだ。
一応、事件に巻き込まれてなので保険は適用されるらしい。
亜咲との大切な思い出だったのに・・・。
お金よりも大切な物を失った喪失感は大きくのしかかる。
そして綾瀬君に渡してあったスタンスティックに関しては怒られた。
「抑止力として、お持ちいただいて今回のような緊急事態で使用される分にはなんの問題もありません。
しかし、あの仕掛けはやり過ぎです。違法ではないグレーゾーンに近い行為なので気をつけてください。
目撃者の話を聞いた鑑識が試しに使ってみて驚いていました。
事件の証拠品として預かりますが、このままこちらで処分させてもらいます。いいですね。」
「はい。以後気を付けます。」
とは言っても、みんなに配った分があるんだよね
こっそり直しておこう。
万が一の時に俺が捕まったら洒落にならないしね。
そうして検査と事情聴取が終わり、今日寝泊まりする病室に入ると、そこにはみんなが待っていた。
「和にい!!」
「和にーちゃん!」
「和樹!」
そう言って茉莉ちゃんと楓ちゃん、カレンが俺に飛びついてくる。
三人とも目に涙を溜めている。
「ほんと心配したんだよ!? カレンさんから連絡を受けて急いでこっちに来たんだから。」
「そう。私達にはもう和にーちゃんしかいないんだから、いなくならないで!」
「刑事さんから、あなた達が事故、事件に巻き込まれて病院に運ばれたって聞いた時には生きた心地がしなかったんだから!」
「ごめんよ。まさか俺が狙われているとは思いもよらなかったんだ。結果的に綾瀬君やみんなを守ることに繋がってよかったよ。」
そう言って俺に抱き着いて泣きじゃくる三人をあやす。部屋には先に検査を終えた綾瀬君もいて今はベッドに苦笑いしながら腰掛けていた。
「あはは、もうみんなすっごい形相をして病室に駆け込んできたんだからネ。いのりちゃんもうびっくり。」
「もう! 連絡が取れなくなってみんなで心配していたんだよ。」
「そう、いのりんも事件に巻き込まれるなんて全く思っていなかった。」
「そうね、まさかの展開で私達も驚いていたわ。」
「だよね。俺や綾瀬君もいろいろありすぎてまだ整理がつかないや。」
そんなことを話しつつ、みんなに金子の件以外を掻い摘んで話をする。
そして、茉莉ちゃんたちもあの間どうしていたかを教えてくれた。
茉莉ちゃんはルイジで俺達の連絡を働きながら待っていたらしく、カレンから連絡が来て飛び出てきた。
カレンは警察が来て、山田さんを狙った輩が散っていたのを確認して保護してもらい、同じように輩がやって来ていた常見の事務所に向かったとのことだった。
「だけど、ジョーがあんなに強いなんて思わなかったわ。」
なんでも、あからさまに怪しい奴がしびれをきらして事務所の前に詰め掛けていたので、常見が言葉巧みに煽りまくって先に手を出してきたリーダー格にわざと殴られて、正当防衛を成立させてからリーダー格をあっという間に制圧して取り押さえてしまっていたらしい。
まあ、剣道、柔道、空手、合気道など様々な武術の有段者で、自分の店の用心棒もやっているくらいだからね。そこら辺の不良崩れが敵うわけがない。踏んでいる場数が、経験が違う。
リーダー格を取り押さえられた輩たちは一斉に雪崩れ込もうとしたが、明美ちゃんに動画を取られて何やら脅されていたところにカレンを連れた警察一行が到着し、こちらは全員お縄になったとのことだった。
「で、さっきまでジョーがいたけど仕事があるからよろしくって帰って行ったわ。」
「そっか。」
「明美ちゃんからわたしも連絡を貰っちゃったよ。いろいろとごめんなさいって。
しかし、びっくりだね。まさか明美ちゃんと山田さんが私の本当の家族と、事件とかと関わりがあったなんて。」
「だよね。本当に世間は広いようで狭い。むしろ今回はこれが功を奏して金子を捕まえることが出来たんだけどね。」
「・・・。でも、わたしは良くないよ・・・。生きた心地がしなかったよ。」
綾瀬君もそう言って、ベッドから立ち上がり、前から三人に抱きしめられている俺の背中を抱きしめてくる。
「もう、あんな無茶はしないで・・・。わたしも感情を抑えることが出来なかったのは悪かったヨ。
でも・・・、でもっ! わたしには、わたし達には大木さんがいないとダメなんだ!!
危機が迫っていたのはわかるし、助けてもらった時には物凄くカッコいい王子様だったよ、ヒーローだった! とっても安心したんだヨ? わたしの王子様が助けてくれたって!
だけど! あんな無茶しないで! 一歩間違っていたら大木さんだってただじゃすまなかったんだよ!?
死んじゃったら何にもならないんだよ! わたし達生きていけないんだよ、もう大木さん無しじゃ・・・。」
俺達を強く抱きしめ体を震わせながら涙を流す。前で俺を抱きしめていた三人も同様に嗚咽しながら強く抱きしめてくる。
俺はそんなみんなを優しく撫でながら言葉を発する。
「ごめんね、みんな。怖い思いをさせて。
あの時はあれしか方法が無くてとっさの行動だったんだ。
確かに後になって思い直してみるとかなり危ない行動だったよ。それで助かったからよかったものの一歩間違えたらみんなを悲しませていたことは謝るよ。
大丈夫、命あっての人生だからね。あんなクズと一緒にあの世行きなんて、ケガをするなんてまっぴらごめんだよ。
・・・本当に、ごめんね。」
「ほんと? 急にいなくなっちゃったりしないで・・・。」
「そう、私達はもう和にーちゃんなしでは生きていけない。」
「なら、私達を大切に思うなら自分の命、体を大切にしなさい・・・。
まあ、話を聞いている限り本当に王子様、ヒーローの活躍だったわ。褒めてあげたいけど怒りや心配を先にこさせないでよ、バカ・・・。」
「うん、わたし達は大木さんにこれでもかってくらい守られているんだから、ちゃんと恩返しさせてよね・・・。」
しばらくして面会時間の終わりを告げにやって来た看護師さんに笑われながら三人は帰って行き、俺と綾瀬君はベッドに入れられてしまった。
俺達は体は健康だったが、今日一日の心のダメージが大きかったのか直ぐに意識を手放したのだった。
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