第十一話 お茶目な刑事さん
検査入院で一泊した俺達は翌日、藤堂刑事たちの事情聴取を受けていた。
金子は警察病院で検査を受けケガがむち打ちがとごねていたらしいが、嘘だとばれて法律の範囲でとても丁重に取り調べを受けているらしい。
「まあ、結論から言いますと金子は相当、由紀恵に入れ込んでいたようですね。さんざん利用して使い捨てておきながらやっぱり由紀恵が欲しくて、恋しくて、動きづらくなる前に抑えてしまおう、ついでに新しいしのぎを作ろうと考えたようですね。
まったく、恋は盲目ってやつですね。」
藤堂刑事はそう言って呆れていた。
だが、俺と綾瀬君の強盗誘拐でヤツの関係先の強制捜査令状が取れたので今からが大変だがこれで大きく勢力を削ぐことが出来るらしい。
今回の件で最低でも無期は確定、今争っているトップの死刑判決が確定し、関与が疑われている殺人事件の立証が出来れば間違いなく最高裁まで争うが死刑だろうとのことだった。あんな奴はもう二度と娑婆に出て来てほしくはない。
俺達を襲撃して逃走した奴らもそう遠くないうちに逮捕されるだろうとのことだった。
「ま、これで私も心置きなく定年を迎えられそうです。しばらくはこちらでヤツの取り調べをしながら、最高裁の判決が出次第、ヤツを連れて福岡に戻ります。それまでに東京高検でやってもらうことを終えられるよう手配します。また、この件で検察から声が掛かると思いますがよろしくお願いします。」
「はい。」
「あの、刑事さん。いいですか?」
「はい、何でしょう。」
「もうすぐ判決が出るんですよね? 家族と会わせてもらえるんですよね?」
「ええ、それは。その日にお会いできるように調整させていただきます。」
「誰かは教えてもらえないんですか?」
「・・・。金子を捕まえた今、教えてもいいですが私としてはその日まで綾瀬さんには秘密にさせていただきたいんですよ。今はそういう事にしておいてください。お願いします。
なに、悪いことはありません、貴女の期待通りです。いや、それ以上かもしれませんね。
だから、まだ秘密です。」
そう言ってニヤリとお茶目にウインクをする藤堂刑事。
相当嬉しいようだ。綾瀬君もその言葉を聞いて破顔してハニカミながら応じる。
「はいっ!! 楽しみにしています!」
「ええ、楽しみにしていてください。本当は私も早くその日が来ないかとうずうずしているんですよ。」
「なら、最後にお母さん・・・。高千穂 みのりさんについて教えてください。あと、お父さんについても。」
そう藤堂刑事にお願いする。
「そうですね・・・。雰囲気は貴女に似ていました。とても誠実でしっかり者、そして才色兼備で多くの男が恋焦がれる存在だったと思います。そして、私が思うにあなたの父親に心当たりがあるのは一人しかいません。まさかとは私自身思いましたが、貴女の容姿を見て確信が行きました。
当時、珍しく板場に修行に入った外国人が一人いたんです。その人物は日本料理に惚れ込んで修行していたようですがあの事件で足取りが掴めなくなってしまいましてね。多分その人物があなたの父親です。」
「そうですか・・・。ありがとうございます。」
そうして、近々判決が出る日、綾瀬君が本当の両親と再会する日を伝えて藤堂刑事は帰って行った。
集合場所は当日伝えるから、予定を空けておいて当時の荷物を持って俺達と九州にいる綾瀬君の育ての親の西岡さん、啓介夫婦にも時間があるなら声を掛けておくようにと言っていた。
実はとてもお茶目で、気が利く人だと思った。
綾瀬君はというと・・・。
「えへへへへ・・・。」
顔が破顔して緩んでばかりいた。
その後、退院の手続きをして迎えに来てくれていた茉莉ちゃんとカレンに連れられてルイジに行くと常見、明美ちゃん、親父さん、山田さん、里奈が集まってみんなで食事をしながら事の顛末を話し、綾瀬君はみんなに祝福されていた。
ちなみにこの件でとても楓ちゃんが拗ねたのは秘密だ。
啓介夫婦は判決の日は臨時休業することを決め、いのりちゃんが連絡をした西岡さんも当日、東京駅で合流することになった。泣いて喜んでくれたらしい。
しばらくして、判決の日になった・・・。
俺とみんな、啓介夫婦は俺の家で判決の速報ニュースが流れるのを今か今かと待ちわびていた。
つけていたTVから件の裁判の死刑判決が確定したとの速報テロップが入り狂喜乱舞していた。
綾瀬君は涙を流していた。彼女たちが受けた傷跡は取り返しがつかないがこれで少しでも溜飲が下がることを祈るばかりだ・・・。
しばらくすると藤堂刑事から連絡があり、集合時間と場所を教えてもらった。
西岡さんは藤堂刑事が連れてきてくれることになった。
そして驚くべきことにその集合場所は前に綾瀬君とカレンとデートで行ったジャンさんのお店だった。
それを聞いた綾瀬君と啓介夫妻は何とも言えない顔をしていた。
俺達は準備をして夕方の集合時刻に合うよう車で移動しジャンさんの店に向かった。
通された部屋にはすでに藤堂刑事と西岡さんが待っていた。
「いのりっ!! 本当によかったね!! おめでとう!!」
「先生! うん、ありがとう・・・。ありがとう・・・。」
西岡さんと抱き合って涙する綾瀬君。みんなももらい泣きしている。
里奈なんて啓介の胸で声を上げて大泣きだ。アイツの胸のシャツが化粧やら涙でカラフルになっている。
綾瀬君も折角、家族に会えるっていうので気合を入れてメイクしてきたのにもうぐしゃぐしゃだ・・・。
「さ、前座はそこまでにして、みなさんお化粧を直してきてください。せっかくの記念に泣き崩れたメイクではもったいない。」
藤堂刑事が音頭を取って泣いていた女性陣が化粧直しに行った。
その間、俺と啓介は今日会う人物ついて尋ねてみた。
「刑事さん、あの・・・やっぱり。」
「そういうことですね。ここまで露骨にしていますし、綾瀬さんも気が付いているとは思いますが。」
「でしょうね。普通こんな店使わないですし・・・。」
「ま、なんとなく俺はそんな気がしたよ? あの二人妙にセンスが似ているし話が合うから。」
「なら、そういう事でしょう。今回この場所を提案してきたのは他ならぬ彼ですから。
まあ、ここに至るまでの私の苦労が報われます。いい歳こいた大人の青臭い恋愛をまとめるなんて柄じゃなかったんです。
荒事専門なんですよ、私は。」
俺達の想像があっていることを教えてくれ、かつ、ここに至るまでいろいろ骨を砕いてくれていたことを教えてくれる藤堂刑事。
その顔は言葉とは裏腹に笑顔に満ち溢れていた。
しばらくして女性陣が戻って来て、藤堂刑事が音頭を取り綾瀬君の家族との再会の時が来た・・・。
「え~、お待たせしました。では、いのりさんのご家族に来ていただきます。
よろしいですね。いのりさん。」
「・・・。はい、お願いします。」
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