第九話 切れる糸
「どうも、大木 和樹さんですね。少しお話良いですか?」
俺達を車から引きずり出して部下に取り押さえさせて、目の前に立った如何にもなスーツを着て香水臭い中年、金子が俺の前に膝をついて話しかけてくる。
「俺はこういう事をされるいわれがないんだけどな?」
「お分かりのはずです、明美のクソ野郎から由紀恵を引き受けたことですよ。」
「で、だからどうしたいんだ? こんなことしたら騒ぎになるぞ?」
? まだ、綾瀬君のことに気が付いていない。
頼むから気付かないでくれよ・・・。そして綾瀬君も落ち着いてくれ!!
「ええ、ですから少し私とドライブをしませんか? 丁度カッコいい車をお持ちのようですので、私が運転して差し上げますので、彼女さんと一緒に後部座席でゆっくり寛いでいってください。」
そう言って部下にロックタイで腕を縛らせ、金子は俺達からスマホを取り上げて俺の車の後部座席に綾瀬君と俺を詰め込み、金子は俺の車を走らせ始めた。
「さて、事情はお聞きいただいていると思いますので、単刀直入に言います。私とビジネスをしましょう。
ええ、簡単な話です。由紀恵はそちらで働かせますので、返していただきたい。その代わりにこちらへ貸出料やマネジメント料をを支払いいただければと思います。」
「誰がそんなこと承服するかよ。犯罪だ。」
「いいんですか? そこにいる彼女さんをはじめ、お家にいらっしゃる彼女さん達が酷い目に遭いますよ?」
綾瀬君の方をバックミラーで見る。
綾瀬君は恐怖で顔が真っ青になっている。
「それは・・・。」
「そうでしょう? 時間もあまりありませんのでご決断いただければと思いますが。」
「・・・考えさせてくれ。」
「! ダメだよ!! 大木さん!」
「おやおや、元気のいいお嬢さんですね。・・・どこかでお会いしましたか?」
「! い、いや、はじめてだヨ。・・・あんたなんか知らない。」
「そうだ、だいたいハーフの知り合いいるか?」
「まあそうでしょうね。いませんね。
で、決まりましたか? 決めていただかないと、そちらのお嬢さんとお車をいただいて帰らなければなりません。」
そう言って、交差点で車を右折させようとする。
「ああ、なら、決めたよ。アンタの自由になんかさせるかよっ!!」
「おまっ! 何を!!」
俺はそのタイミングを見計らって、後ろから金子を羽交い絞めにして無理矢理車を電柱にぶつけさせる。
綾瀬君も驚愕している。
実は護身用にとベルトの裏に仕込める小型のナイフを通販で買って付けておいたので、こっそり話をしている間に切っていた。ロックタイで簡単に拘束されていただけなので案外簡単に取れた。
まあ、ロックタイで緩ーく拘束してくれていたおかげでナイフを取れたんだけどね。これが手錠とかだったら本当にお手上げだった。
ガン!!
電柱に車がぶつかり金子はエアバッグの衝撃で朦朧としている。
こういう時にしっかりとした装備をしておいて良かったよ。
まあ、想定外の使われ方だけど。
俺は直ぐに綾瀬君のロックタイを切って外に出す。
「直ぐに警察が来る、それまで逃げて!!」
「嫌!」
綾瀬君はすぐさま助手席にあった自分のポーチから護身用に渡してあったスタンスティックを取り出して金子に向ける。
「こいつだけは!こいつだけは許さない!!」
「・・・っ、てめえら! 何してくれてんだ!!」
金子が逃げようとする。すかさずに俺はヤツに縋りつく。
人が集まって来ている。
「おい! 放しやがれ!!」
「離すかよ! 誰か警察を呼んでくれ! 強盗誘拐犯だ!! 逃げないように手を貸してくれ!」
俺と綾瀬君の必死の形相にヤツの身なりから勇気ある人が上に乗ってくれて身動きを取れなくする。
「くそっ! 俺は捕まっても、逆に訴えてやる!」
「いいやできないね。これは正当防衛だし。逆にこっちから訴えてやるさ。
まあ、アンタには払う金もなくなり、娑婆の空気ももう吸えないだろうけどな。
藤堂さんから聞いているよ、アンタ捕まって証拠さえあれば最低でも有期刑の最高年数、順当にいけば無期だって。もしかしたらの余罪があれば死刑も視野に入るって。今回ので無期は確定だけどな!!」
「ちっ! もう藤堂のクソ野郎とつるんでいやがったか!
だが、覚えておけ! 俺は必ずお前たちに復讐してやる!!
! その女、まさか・・・高千穂の? そうだ、みのりと似ている。そうか、あの外人と出来ていやがったのか!」
「!! わたしの両親を知っているの!?」
「ああ、知っているぜ。その顔、母親にそっくりだ。俺も若い時は狙っていたんだぜ。そのために親父の道楽に付き合ってお前の家を借金漬けにしてやったんだぜ。みのりは捕まえるあと一歩ってところで消息を絶ったがな。
早く思い出すべきだった。お前が要れば由紀恵なんて目じゃねえ。親父たちにお前を甚振って差し出せばトップになれんだからよ。
なに、ここから逃げたらお前も捕まえてさんざんお楽しみタイムだ。」
こいつ、もう捕まるっ言うのに往生際が悪い。
綾瀬君は顔から表情が消え、過呼吸気味になってきている。
ヤツはそんな綾瀬君を見て嘲笑っている。
「ふーっ! ふーっ! おまえが・・・。お前たちがいたせいでっ! わたし達はっ! わたしの家族は!!」
「はっ、お前んとこの爺さんが悪いんだぜ。差し出すもんを寄こさなかったから。だから奪ったのさ!
なに、当たり前だろ俺たちは・・・。」
バチィ!
綾瀬君が構えていたスタンスティックを金子の顔の横に振り下ろす。
スタンスティックからスパークが飛び散り、煙が立ち上る。
俺がこっそりと抑止力と思って派手にスパークして煙が出るように細工したものだ。
綾瀬君も周囲の人も驚いている。
まあ、そうなるよね。派手に音を立ててスパークして煙を上げたら、余程な威力だって思うよ。
実際は何ら威力は変わらないブラフなんだけどね。
で、肝心の金子はさすがに目を見開いてこれにビビッている。
「おいっやめろ! それはやばい!! お前がムショ行きになるぞ!」
「構わない!!
はっ、はっ、はぁ・・・。
あんただけは絶対に許さない! 誰が何と言おうが、けほっ!
絶対にわたしがここで息の根を止めてやる!!」
綾瀬君はスタンスティックを上段に構え直し、思いっきり金子の脳天目掛けて振り下ろす。
当たればただじゃすまないんだぞ!
「綾瀬君、ダメだ! こいつらと一緒になってしまっては! 君の家族にやっと会えるんだぞ!」
綾瀬君が振り下ろしざまにハッとして、金子の顔の横に振り下ろす。
バチィ!
再びスパーク音が響く。
金子はさすがに綾瀬君の鬼気迫る表情と言葉で本当にやられると思っていたのか、恐怖で気絶して失禁していた。
流石にこれは・・・。
取り押さえていた俺や、勇気ある人たちも、周囲の野次馬もドン引きして離れた。
あんなクズので汚れたくないもんな。
「綾瀬君!」
「はっ!はっ!はっ! お、大木さん・・・。」
「いいんだ、後は藤堂さん達に、警察の人に任せよう。」
「・・・うん。・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
綾瀬君はスタンスティックを放り投げて俺に抱き着いて泣き出す。
遠くから救急車とパトカーのサイレンが鳴り響いている。
これでこの件が終わればいいな。
話が急すぎて、どうも思考が追い付いていない。
ホント、何日も掛けて起こるイベントだろ!!
これじゃあ三流アクション映画か何かだ・・・。まあ、最後はお約束ってやつだな。
こんな悪夢から早く目が醒めることを祈って、俺は綾瀬君を強く抱きしめ返した。
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頑張れる気がします。




