第二話 受け入れたい、その全てを・・・。
この日の俺はあの後何があったかほとんど覚えていなかった。
みんなが二階に行った後、酒瓶を抱えて部屋に閉じこもった。
今、みんなと顔を合わせて話が出来るほど自分が保てないし、こんなひどい顔でずっとあの場に居続けることが苦痛だった。
しばらくは気を紛らわすために強いお酒を煽っていたが、酔いが回ってクラクラして来てからは机に突っ伏していた。
トントン
扉をノックする音が聞こえる。
「和にい、私だよ。夜ご飯を作っておいたから、良かったら食べてくれたらうれしいな。
また、落ち着いたら声を掛けてね。私たちは待っているから・・・。」
そう言って、扉の前にごはんが載ったトレーを置いてくれたようだ。
茉莉ちゃんだって辛いハズなのに俺に何も言わずに見守ってくれている。
反面、俺はこの様だ。
親友夫婦に子供が出来て、とっても喜ばしいことなのに亜咲との悲しい思い出が思い出されてそれを上回る勢いで悲しみが覆いつくしてしまう。
どうにかしなくちゃならないと頭では理解していても、体はそういう風には出来ていなかったらしい。
涙が止まらないし、嫌な思い出がとめどなくフラッシュバックしてくる。
お酒で流し込もうとしても、ふとした瞬間に思い出されてくる。
多分、時間が経てば解決することなのかもしれない。だけど、今の俺にはそれが出来るほどの心の余裕があるわけではなかった。
「・・・ホント、自分が情けない・・・。」
俺はそう独り言をつぶやいて、ベッドに転がった。そして、しばらくして記憶が途切れた・・・。
「っ!!」
どうやら眠っていたらしい。しかし泣き腫らした目が沁みるのでそんなに時間はたっていないらしい。
時計を見ると日付を跨ごうかといった時間だった。
頭が二日酔いでクラクラしているが、泣いてお酒を煽って眠って体力を使ったからかお腹が空いている。
俺は茉莉ちゃんが夕方に置いておいてくれたごはんを取りに入口に向かった。
すると、廊下ではみんなが寄り添いながら壁に背を預けて座って眠っていた。
「みんな・・・。心配してくれたんだね。
ありがとう。」
起こすわけにはいかないので、そっとごはんの載ったトレーを部屋に運んで、ベッドのタオルケットをみんなに掛けてあげた。
みんなには悪いことをしたな・・・。明日にはきちんと謝らないとね。
今回のことは自分の弱さが招いたことで、みんなには何の非もないんだからきちんとそれを伝えて、俺が向き合って立ち直らなければな。
今はたった一人で悲しみに暮れている余裕なんてない。
俺には今、家族ともいえるみんながいて、支えられて生きているんだっていうことを強く実感した。
いつまでも過去のことを悔やんでメソメソしていても仕方がないよな、亜咲・・・。
俺は前を向いていかなきゃね。この子たちのためにも。
そう決心した俺はごはんのおにぎりを冷めた味噌汁で流し込む。
酔いで気持ちが悪い今の俺には丁度良い刺激だった。
取敢えずはお酒とトレーをみんなを起こさないように片付ける。
そっとキッチンにそれらを運び込んで、酔い覚ましにそのままシャワーを浴びた。
部屋に戻って来て着替えていると廊下で音がした。
誰かが起きたらしい。
部屋の扉を開けていたのでその人がは部屋に入ってくる。
「和にい・・・。大丈夫?」
その人物は茉莉ちゃんだった。
「ああ、ごめんね。
大丈夫だよ、茉莉ちゃん。」
俺は精一杯、今できる笑顔を向けて返事をする。
「いいの。そんなに無理をしなくたって。私も和にいの気持ちを考えると絶対におんなじだと思ったから・・・。喜びたいのに、素直に喜べない。でも、そんな自分がさらに嫌になるもの。」
「茉莉ちゃん・・・。」
俺を見つめてくる瞳を見ると茉莉ちゃんも泣き腫らした目をしていた。
多分きっと俺のために流してくれた涙なんだろう。
それは他の子たちも一緒だと思う。
少なくない時間を共有してきたんだ、自信を持ってそうだと今の俺は言える。
この子たちはみんな人の痛みが解って分かち合える子たちなんだって。
「だから、一人で抱え込まなくたっていいんだよ?
私達に和にいがいるように、和にいには私達がいるんだよ。
悲しい時、辛い時に和にいは手を差し伸べ助けてくれた。
私達だって和にいの悲しみを分かち合って、手を差し伸べて助けてあげたいんだよ。」
「うん・・・。わかってるよ。」
茉莉ちゃんが再び涙を流し始める。
「私達、そんなに和にいから見たら頼りないかな?
こういう時くらい自惚れさせてもらえるくらいの自信はあるんだよ?
私達は和にいに何があったって、何をされたって受け入れるくらい簡単なことだよ。
みんな、そう。それだけの気持ちを持ってここにいる。
和にいの一番は亜咲ねえなんて、百も承知。それをわかって、その上で和にいの支えになりたいんだよ!
心の底から!!」
そう言って、茉莉ちゃんが着替え途中で上半身裸の俺を自分の胸に俺の顔を力強く引き寄せて抱きしめる。
俺が息することが出来ない位の必死さで俺を抱き留めてくれる。
そんな茉莉ちゃんの健気なやさしさ、温もりに包まれて俺は抑えていたものが溢れ出てきたかのように声を上げて、茉莉ちゃんにしがみついて泣き始めた。
「和にーちゃん・・・。」
「大木さん・・・。」
「和樹・・・。」
どうやらみんな茉莉ちゃんの声で起きていて、話を聞いていたらしい。
涙を流した三人も雪崩れ込むように俺を強く抱きしめて来る。勢いあまって俺たち全員がベッドに倒れ込んでしまった。
「いてて・・・。」
みんな痛がって、俺が顔を上げて起き上がろうとすると無理矢理ベッドに引き倒された。
「ダメ、和にーちゃん。」
「そうだよ、大木さん。今日は思いっきりわたしたちに甘えてもらって泣いてもらうんだ。」
「そうよ。今日は、いえ、これからはこれまで私達を受け止めてくれていた和樹のために、私達は何でもしてあげるの。
そう、全てを受け入れてあげる。」
「だから、いいんだよ。
私達はここにいる。今日はすべてを忘れさせて私達がずっと抱きしめてあげる。
ううん、ずっと抱きしめていたいの。和にいがここからいなくならないように。
私達がそうしたいと思ったんだ、今夜は私達がずっと抱きしめて離さない!
和にいが逃げようとしても絶対に!」
「うん、これは私達の我儘。気にしなくていい。」
「そうそう、抱き枕かなんかだと思って思いっきり抱きしめて泣いてほしいんだ。
わたしたちはすべて抱きとめて受け入れるから・・・。」
「隣には立てる女性ではないかもしれない。でも貴方の支えになりたいの。
浅ましい女達だって軽蔑してくれても構わないわ。和樹の心が晴れるならなんだってしたいのよ、私達は。」
彼女たちの強い想いを伝えられ、強くみんなの胸に抱きとめられてた俺は眠りにつくまで声を上げてみんなを強く抱きしめ返しながらその温もりの中で泣いた。
みんなが涙を流しながらも俺を慈しむように優しく力強く抱きとめていてくれた・・・。
夜が更け、また朝がやって来る・・・。
新しい日常が・・・。
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