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第一話 心の澱

第六章開始です。

 みんなで楽しく海へ遊びに行ってしばらくして九月に入った。

 楓ちゃんと綾瀬君は学校が始まり、日常が戻ってきた。

 茉莉ちゃんと楓ちゃんはまだ今月末くらいまでは後期が始まらないのでそれぞれ思い思いに過ごしている。

 茉莉ちゃんは生活も落ち着いてきたこともあり、いろいろとカレンを手伝うようになっていた。

 多分このままカフェが開店までこぎつけたら、アルバイトに入るだろうとカレンが言っていた。

 カレンも開店準備が大詰めを迎えている。フィットネスのトレーナーを修造さんと面接したり、知り合いの日本人のポールダンサーでインストラクター志望の知り合いに声をかけていたりした。

 なんでもインストラクターの資格を持っている人間が日本ではまだ少ないらしい。

 そのため、カレンがいることが店の一つの看板でもあった。だが、そればかりを続けるわけにはいかないので知り合いで資格に興味のある人間に声をかけてヘルプしてもらおうということだ。

 ちなみに、店の店員さんは常見の店の女の子で昼の仕事と兼業したい子や、次のステップを目指したい子を募って賄えた。こういったことに関しては明美ちゃんの采配のお陰でカレンも納得していた。

 で、俺はこれらの手伝いと啓介のルイジの過密業務の解消に取り組んでいた。

 何だかんだで遊びつつも働いているな・・・。

 まあ、嫌でやっていることではないので働いているっていう気はしないから気が楽だし、その分やる気があるので責任感を持って出来ているので悪くはないと思う。

 そして、今日はルイジの方の業務過多を解消するための話し合いを持つことになっているのでルイジに向かう。


「おう。待っていたぜ。」


 店に入ると常見が先に席についていた。


「よう、今日は早いな。」

「ああ、ちょっと細かい話を詰めていたからな。」

「?」

「二人ともすまないな。」

「いや、そんなことはない。常見と何を話していたんだ?」


 店の奥から啓介がやってくる。

 何やら気まずそうな顔をしている。


「そのことなんだけどな。実はな里奈がオメデタでね。今日はつわりが酷くて里奈は来れそうにない。」

「そりゃあ、よかったじゃないか。おめでとう!」

「ああ、だけどな・・・。」


 あ、そうか。今この場にいるのは業務過多の解消の話し合いのためだ。里奈が抜けるとかなりマズくないか?


「ということで、手を早急に何としてもうたなくちゃなんねーわけだわ。」

「だね。」

「面目ない。」

「いいや。謝ることなんかないぜ? めでたいことなんだから、胸張って笑ってりゃあいい。」

「確かにな。ドンと構えていたらいいさ。面倒は俺たちが手伝うし。」

「で、俺も考えたんだよ。」

「どんな案だ?」

「前に業務過多解消のプランの一つに、店を新たに出すという話もあったろ?

 それを早められないかってね。」

「でも、料理人はどうするんだ? 啓介は二人に割れねーぞ?」

「ああ、それはジャンさんの所の若手を借りられそうなんだ。ジャンさんの所も若手料理人に人気で修行希望者が殺到しているらしくてね。

 そこで、見込みのある料理人は先ず俺の所で働かせてみてからジャンさんの所に回したらっていうことで、あっちの料理人を何人か都合してもらえそうなんだ。」

「ああ、この間の人か。」

「うん、相談していたら提案してもらえてね。二人が問題なければ俺は乗りたいと思っている。

 こっちの店はいのり君がいれば何とか回ると思う。」

「それは問題ないけど、流石にそれは二号店ってわけにはいかないよな?」

「ああ、だからジャンさんと俺のコラボ料理店みたいな感じはどうかな?」

「うーん、悪くはないけどよ。啓介、時間採れるのか?」

「まあ、そこは頑張るしかないな。でも、いのり君に最近はある程度厨房を任せてもいいかなとも思っているし、無理なことではない。」

「なら、俺からいう事はないな。親父と相談して入れ物の準備をして行くわ。」

「だな、こっちは明美ちゃんと事業プランを立てていくから、またジャンさんと詳細を詰める席を設けてくれ。」

「ああ、わかった。」


 こうして俺たちの話し合いは終わった。

 しかし里奈が妊娠とはな。いずれはそうなるとはわかっていたが、今この時か。

 まあ、いろいろ踏ん切りをつけて新しいことをやりだすいい機会になったようでよかった。

 だけど、俺の頭からは亜咲との残酷な結末が思い出されモヤモヤとしたものが振り払えないでいた。

 あの時は顔に出さずに済んだが、一人で車を運転していると段々感情が抑えられなくなって涙が抑えられなかった。

 少し頭を冷やして、感情を抑え込もうと俺は長めのドライブをしてから家に帰った。


「ただいま・・・。」

「おかえりっ? 和にい!? 大丈夫?

 顔色が悪いよ!?」

「ああ、大丈夫だよ、茉莉ちゃん。」


 俺は荷物をリビングのソファに放り出してミニバーから一番強い蒸留酒を取り出す。

 いつもはショットグラスでちびちび飲んでいるが、今日はバカラのグラスになみなみと注いで一気に呷る。


「和にい!! 何しているの!! カレンさん!!」


 俺が一気に強い酒を煽っているのを見た茉莉ちゃんが、慌てて二階にいるカレンを呼びつける。


「どうしたの二人とも!」


 カレンが慌てて二階から駆け下りてくる。


「和にいの様子がおかしくて・・・。強いお酒を大きなグラスで一気に呷っているの。」

「!! 一体どうしたの? 和樹。」

「・・・今は放っておいてくれないか。すまない・・・。」

「!? でも、おかしいわ。目は充血しているし。一体ルイジで何があったの?」

「そうだよ、和にい。いつもの和にいならこんな風にならないよ? 私達でよければお話を聞くよ?」

「いいんだ!! ほんとに・・・。ゴメン。」


 心配してくれている二人に俺は大声で当たってしまった・・・。

 最低だ、俺・・・。

 二人は体をビクつかせて涙目になっている。

 そんな目で見ないでくれ・・・。

 俺はまたグラスに酒を注ぎなおして一気に呷る。


 そんな時に綾瀬君と、楓ちゃんが帰宅してくる。


「ただいま~! みんなっ大ニュースだヨ!! 里奈さんがオメデタだってさ!」

「ただいま・・・。っ!!」


 綾瀬君が勢いよく叫びながら駆け込んでくる。

 俺の事情を知っている楓ちゃんはどうしたものかといった表情で入ってくる。

 案の定、俺の状態をみて息を飲んでいた。


「あれ!? 茉莉ちゃん、カレンどうしたの!? 大木さんもお酒を煽って。みんな何があったの!?」


 俺達の惨状を見た綾瀬君が事情を呑み込めないでいる。

 茉莉ちゃんは綾瀬君の言葉ですべてが繋がり、涙を流しながら俺に寄り添ってくれる。


「和にい・・・。そっか。そうだよね。とっても辛いよね・・・。

 うん、今だけは、今日だけは好きなだけお酒を飲んで、泣いて、叫んでいいんだよ。」

「そう、和にーちゃん。それでも辛くてどうしようもなかったら私たちがいるから、いつでも頼って。」


 楓ちゃんも涙を流しながら俺に寄り添ってくれる。

 綾瀬君とカレンは事情が呑み込めずに呆然としている。

 そんな二人を茉莉ちゃんと楓ちゃんが二階へ連れて行った。

 多分あのことを話すんだろう・・・。今となって仕方がない。

 でも、今の俺にはどうすることもできなかった。

 ただ、酒の力に頼ってすべてを押し流してしまう以外には・・・。

気に入ってくれたり、気になった方は評価やブクマ、感想をいただけると嬉しいです。

頑張れる気がします。

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