第二話 高賢寺の血
俺たちは、カレンの提案に乗ることを決め、外で待っていた二人を応接室に呼び入れる。
「で、どうよ。」
「ああ、俺達もカレンの提案に乗ることにしたよ。粗いところを俺たちがサポートしておけばいいと思う。」
「仕方ないわね。ここまでしっかりプランが練られていて、求めているスキルはプラスアルファ付きでってなると。」
「常見、お前。わしゃあ嬉しいぞ。」
俺と明美ちゃんは賛意を示す。
だが、親父さん、アンタは間違いなく完成したカフェテリアに来客する女性陣のことで頭がいっぱいじゃねえか?
この破廉恥坊主め・・・。
「なら、決まりね。細かいことはこれから詰めていきましょ。」
そう言って、この会はお開きとなった。
そして、親父さんがカレンに声を掛ける。
「ところでカレン君。今、大学を休学中だったね。」
「ええ、今年度と来年度は休学するわ。それが?」
「なに、こう見えてワシは近くの欧美女学院の理事をやっておってな。特別聴講生として通ってみないかね。」
「私、お金がないのよ。」
「じゃから、特別なのじゃよ。
なに、エール大学には何人か留学しておったりして交流もあるし学籍の移動や単位の認定も効く。
それに、特別の意味は学費負担なしという意味じゃ。これが大学から君に提示するメリット。
で、君には海外の名門大学の考え方、気風そういったものを大学に吹き入れてもらいたい。
加えて、これから留学する者、したい者へのアドバイスや指導を専属で頼みたい。
エール大志望者も多いのでその子たちの指導もしてやってもらえると嬉しい。
どうせ、治療を始めたらまともに練習は出来んじゃろう。その間に開店準備をする心積もりなら、ここの者たちが手伝ってくれる。
なら、いっそのことさらに有意義な時間を過ごしてみてはいかがかね。」
「・・・。悪くないわ。是非お願いします。」
親父さんはさっきとは違い、きちんとした教育者としての意見を述べてくる。
ホントこの親子は似ている。本質的なことを見抜く力、人を援けるといったことに関しては本能的に察知して手を差し伸べてくる。
「なら、早いうちに動こうとしようかの、理事会に諮らなければならんが、君ほどの成績とワシの後ろ盾があれば問題ない。一応今から理事長とTV電話でだが面談して細かいことを詰めていこう。」
「はい。」
急遽、面談会場に応接室を使うことになり、俺たちは事務スペースに移動した。
明美ちゃんは仕事が溜まっているので片付けはじめ、俺と常見はビルのベランダで話をすることにする。
「あのな、和樹。折り入って頼みがある。」
「なんだ、急に改まって。」
急に常見が真面目な顔をして話しかけてくる。
「カレンなんだがな。住むところを手配してないくてな。できればお前の所に泊めてやってくんねえか?」
「いいけど、住むところのアテはあるのか?」
「ある。お前んち。」
はぁ?!
そう言って俺を指さしてくる常見。
「何言っているんだ!俺の家は今、人でいっぱいだ!」
「大丈夫、お前と亜咲の例の妹分二人と、いのりちゃんで三人。つまり残り一部屋が開いている!!
頼む!お願い!!」
「・・・。」
「・・・。」
しばらく無言が続く。
「で、本当の所はどうなんだ?何かわけがあるんだろ?」
「まず一つ、カレンが高級なしっかりしたところに住みたいっていうオーダーだ。
俺の知りうる限りセレブでおしゃれな家はお前の家しか知らん。」
「お前の実家は?それはもう豪邸だろ。」
「おふくろがいるし変な噂を立てられると厄介事が増える。つまり、親父がまずいことになる。」
「で、次は?」
「親父が言っていただろ、靭帯の治療をするとしばらくは人手がいる。親父が詳しかったのは俺が昔靭帯を切ったことがあるらだ。どこの靭帯の治療をするかはわからないが、とにかくしばらくは生活に支障をきたす。だから、人が常にいる、かつ年頃の近い女の子がいるお前の家が最適。」
・・・こいつ、ホント何にも考えてないのによく本質だけは見抜いてくるな。
そういうところが高賢寺家の血、魅力であり、このあたりの顔役として立っている所以だろう。
「わかった。だけど茉莉ちゃんたちに聞いて許可を得てからだ。ダメだったら実家に行ってもらうか、お前が新しく用意しろよ。」
「ああ、その時はおふくろに土下座してお願いする。多分・・・。」
この常見の母であり、親父さんの妻である人は、それはそれは怖いらしい。
常見が女性にリスペクトを払えるのはいろいろと母親のお陰らしい。
そうこうしているうちに応接室からカレンが俺たちを呼びに来る。
「常雲さんが呼んでいるわ。」
俺たちは再び応接室に集まった。
「一応じゃが、カレン君は欧女の聴講生として通うことが決まった。
で、細かいことはこれからになるが、便宜を図ってもらえると助かる。
和樹と明美ちゃんには迷惑を掛けるが一つよろしく頼む。」
親父さんが頭を下げてくる。
「いいですよ。この時期の経験はとても重要ですから。」
「私も夜に働きながらに通っていたからね。働きながら学ぶ大変さはわかっているわ。出来るだけのことはするわ。」
「二人ともありがとう。」
俺たちに礼を言うカレン。
明美ちゃんはこっちの世界で学費を稼ぎながら有名私立大学に通っていたらしい、だから何も言わずに応援したいと言っている。
「で、常見これらの予定と、カレン君の住むところはどうするんじゃ?」
「ああ、親父。住むところは和樹の家で問題なければ。で、問題があったら二人でおふくろに土下座だ。」
「和樹!!頼む!!!後生じゃ!!」
二人そろって顔面蒼白で俺に懇願してくるとは・・・。
一体あの人の好さそうなおふくろの何が怖いのか・・・。
「予定に関しては親父に紹介してもらった医者に診察してもらえるよう早急に保険の手続きをやって、最短で手術。リハビリをしながら昼は大学、夕方は事務所で打ち合わせで当面いいんじゃないか?
本当に長い道のりだからな。」
「じゃな。皆これでいいかね。」
俺たちは首肯して本当の解散となった。
帰り際、親父さんが俺に話しかけてくる。
「和樹、スマンの。
じゃが、ワシはこれも良いご縁と思うておる。
最近のお前さんは亜咲君が生きていたころのとは行かんが、明るくなっとる。
これも亜咲君がめぐり合わせてくれてくれたと思って、手を貸してくれ。」
「ええ、他の子次第ですけど。努力はします。」
「困った時は、素直に誰かに頼ってもいいんじゃぞ。物質で満たすことは簡単でも、心を満たすことがいかに難しいか身をもって知っておるお前さんじゃから、敢えて言わせてもらうぞ。」
そう言って親父さんは事務所を後にする。
俺はこの言葉の本当の意味を痛感することになるとは、この時思ってもみなかった。
俺と常見、そしてカレンも俺の家に向かって移動するのであった。
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