第一話 提案
第三章開始です。
ゴールデンウィークも終わり、日常が再び戻って来た。
俺はいつもの日々を過ごしていた。
そんな時、スマホが着信を知らせる。
画面を見るとアメリカをほっつき歩いている常見からだ。
「もしもし。俺だ。」
「よぅ、和樹。久しぶりだな。
お前んとこ面白いことになってんだってな?」
「ああ、おかげ様で楽しく過ごしてるぞ。
で、お前は今どこだ?」
「空港。」
「どこの?」
「成田。」
「ようやく帰ってきたのか。」
「ああ、それで夕方に事務所来れるか?
前に話していた新規事業の件で話がある。」
「問題ないけど、急な話だな。毎度のことだけど。
もちろん実りある話だな。」
「ああ、ちゃんとあるぞ。」
「わかった。なら夕方に向かう。」
電話を切り、夕方に向けての準備を始める。
いつものことだが急に物事が進み始める。
俺も明美ちゃんも、親父さんも巻き込んで行く常見の行動力には舌を巻くものがある。
だからこその成功があるのだがな。
その度に酷い目にあっているのは俺たちだよね。
いつか、倍返しできっちり仕返ししてやろう。
夕方、俺は久しぶりに事務所にやってきた。
明美ちゃんにイチゴ狩りのお土産とお礼を持ってきた以来だ。
「ちょっと、和樹くん。
ジョーちゃんが女の子連れて来て、その子と新しい事業を立ち上げるって聞かないのよ!
ウンちゃんも鼻の下伸ばしてるし!
もう、和樹くんだけが頼りよ。」
「まぁまぁ、いつものことだけどさ。
とりあえず話を聞いてみよう。」
「うん。そうね。
とりあえずはね。」
俺は明美ちゃんと一緒に応接室に入る。
そこには親父さんと常見、それにミディアムヘアーの黒髪を横に流した、すらっとした女性がいた。
目鼻立ちは外人のようにハッキリとしているけど肌とか瞳の色的に日本人にも見える。
「ジョー、これで全員?なら、はじめて。」
「ああ、やるか。
みんな集まってくれてありがとう。しばらく留守にしてすまない。
前々から話していた新規事業について俺はこの、カレン・最上・ダニエル君とポールダンスをメインとした事業を立ち上げることにした。詳しくは彼女から説明してもらう。」
「はじめまして、皆さん。
カレン・最上・ダニエルと言います。米日ハーフでポールダンサーをしています。
ジョーからビジネスの提案を受けて来日しました。よろしくお願いします。
簡単なプロフィールはこちらのページにありますので、一度ご覧ください。」
彼女はスマホの画面にQRを表示してくる。
プロフィールページへ各自飛んでから見てくれということらしい。
みんなスマホで読み込んで確認する。
センスのあるプロフィールページには名前以外の経歴などがざっくり書かれていた。
年齢は21歳
国籍 アメリカおよび日本
エール大経営学部休学中
最近までラスベガスのシアターのショーにプロとして出演
全米スポーツポールダンス数年連続上位入賞、他受賞歴多数
ポールダンスインストラクター資格取得済
ただ今怪我の為療養中
両親はロスでで小さなカフェを営んでいる
エール大ってアイビーリーグの一校でかなりの名門大学だ。しかも経営学部だ。
加えてポールダンスはプロクラスでインストラクター資格もある。
おまけに飲食店の知識もある。
これは、かなりの逸材だぞ?
一体どうやって捕まえてきたんだ?
まぁ、長い間留守にしてスカウトしてきた人材としてはこの上ない。
これだから、このチャランポランの風来坊は侮れない。
親父さんなんて唸ってるぞ。
明美ちゃんなんて空いた口が塞がらないらしい。
で、当の本人はというと、
「すごい!すごいぜ!
やっぱ、俺の目に狂いはなかった!」
初めて知ったんだな・・・。
常見に憐れみの視線が集まるが、本人は気づいていない。
言わないのが花だよね・・・。
しばらくして、再び彼女が口を開く。
「というわけで、私は今大学を休学中なの。プロフィールには記載していないけどもともとポールダンスで推薦してもらって奨学金をもらっていたんだけれど、靭帯をケガしてしまってね。最近はアクロバティックな演技が出来ていないから、結果が残せていないんで奨学金が止められているの。今回はジョーのビジネスと並行してこれの治療を目的としているわ。」
そう言ってから彼女はコーヒーを飲んでから本題に入る。
「私がジョーから話を聞いている限り、まず失敗するわ。
日本でショウビズをするにはまず相当な資金力と仕込みが必要よ。
だから、私からの提案。
私がポールダンスをインストラクターとして教える。他にヨガとか女性が好むフィットネスもインストラクターを入れて曜日ごとで教えるの。それに合わせてスタジオにロス風のカフェテリアを併設する。
もちろん、本場の雰囲気を味わえる、ね。
幸いこの辺りは私には伝手があるし、ジョーは有名な料理人の友達がいるんだからこれを利用するの。
女性受けを狙っているならSNS受けの良い環境を作るのよ。
もちろん、リピーター獲得が出来るように講習したらカフェテリアの割引券を配布するとか、本格的なアメリカっぽいイベントやワークショップも開くの。
どうかしら?」
「う~む」
「確かに・・・。」
親父さんと明美ちゃんがうなずいている。
「ま、すぐに結論が出ないと思うし、私とジョーは席を外させてもらうから、三人で話し合ってみて。」
そう言ってカレンは常見を連れて応接室から出て行った。
三人になって今のことを話し始める。
「親父さん・・・。これって。」
「ああ、間違いない。」
「だよねぇ。」
「「「いいカモだ!」」」
そう、これはどう考えたって、常見はカレンのいいカモにしか思えない。
まず、話や経歴を考えるに主導権はカレンが握っているだろう。
「でもね、彼女はジョーちゃんを裏切ったりはしないと思うわ。
最初にねジョーちゃんとカレンちゃんと契約金とかの話をしていたんだけど、契約金、年俸として提示された額はこの年頃の大手企業の社員よりも少し上くらい。
半信半疑だったけど、経歴やプランから考えるに最初の一年は頑張ってみて成果がなければ切ってくれて構わない。成功したらそれに応じて待遇を上げろってことだと思うわ。」
「ワシも話を聞いていると腑に落ちたところがあってな。
日本の法律上、この歳で国籍を二つ持つことが出来るのはもう限界だ。
アメリカだと高額な治療費、リハビリ代を請求されるが日本では健康保険で安く治療を受けられる。
それを計算に入れている節があっての。
最近、あ奴から、欧女の大学病院にいるスポーツ専門の外科医を紹介できないかって話があったんじゃ。
故に、今こちらで働いて健康保険に入って安価で腕の良い医者で治療しようとしているのじゃろう。
それに経歴に現在療養中と書いてあるってことは、いずれ良くなれば復帰する算段じゃなければ書かんだろうて。
ここに来る前はベガスでショーに出ていたのも治療費と学費捻出であれば納得がいく。」
「・・・つまるところ、常見はいいカモにされている。けれどもカレンは誠実に対応するし、責任は果たす。気に入らなければいつでも切ってくれてことですよね。
もちろん、ちゃっかりと本来の目的の怪我の治療を行いながら。
なんとまあ豪胆というかなんというか。
経歴と提案内容もかなりの物ですし、ちょっと調べていたら彼女の実家のカフェ、そこそこ有名みたいですよ。
提案に乗らない手はないと思います。」
「だね。」
「じゃな。我が息子ながら、呆れを通り越して感動すら覚えるぞい。」
そうして俺たちはカレン、常見の提案に乗ることにした。
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