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第二話 イチゴ>俺

 風邪をひいてしまった俺は病院に行ったあと、みんなに看病されながら休んでいた。

 なかなか熱が引かず三日過ぎて、漸く微熱になって動けるようになってきた。

 休んでいる間に、悪友の常見の事務所員の明美ちゃんから何件かメールが来ていた。

 着信もあったみたいだ。

 順を追って読んでいくと、茉莉ちゃんに連絡したら俺が風邪だと聞きゆっくり休んでくれとなっていた。

 元気になってきたから、溜まっていた用件を処理して明美ちゃんに返信する。

 すると、直ぐに電話が掛かってくる。


「和樹くん大丈夫なの?

 茉莉ちゃんから高熱が続いてるって聞いたけど。」

「ああ、おかげさまでほとんど治ってきたよ。

 ごめんね。心配掛けて。

 常見の奴がいないから、処理できないものが溜まっていたんだね。」

「そうなのよ、ジョーちゃんはなかなか連絡つかないし、ついてもまだ暫く掛かるっていうし。」

「ったく、アイツはまだほっつき歩いて。

 さっさと帰ってこないかね。

 まぁ、いつものことだけど。」

「だよね。フラッといなくなって、フラッと帰ってくるからタチが悪いわ。」


 溜まっている書類に判子を押してほしいとのことらしく、事務所の出勤ついでにお見舞いも兼ねて持ってきてくれることになった。


 時間にはまだ余裕があるが、シャワーでも浴びて髭を剃ろうと思い風呂場へ行こうとする。

 すると、キッチンで作業をしていた綾瀬くんと茉莉ちゃんがやって来た。


「和にい。大丈夫?今さっき、明美さんからメッセージが来て和にいの体調も良くなってきているから、届け物ついでにお見舞いに来るって。」

「ああ、さっき仕事の件で、連絡していたらそうなったんだ。」

「ほんとに大丈夫?大木さん。」


 綾瀬君も聞いてくる。

 彼女は火事の怪我の静養が終わり来週から学校に復帰するので、知り合いに休みの間の授業内容を聞いて、お昼ご飯ついでにキッチンで実践していたようだ。


「熱も微熱だし、もう大丈夫。

 汗だくだったから、体がべたついて嫌だし髭も剃りたいからね。シャワーを浴びてくるよ。」

「あはは。そうだね。このままいくと熊五郎になるかもしれなかったよね。」

「だね、サッパリ身綺麗にしたいよ。」

「和にいが嫌じゃなければ、私たちが身体を拭いてあげたんだよ?」


 茉莉ちゃんたちは熱がある間、甲斐甲斐しく看病してくれたが、三人で俺の体を拭かなきゃといって顔を赤らめながら誰が拭くかで揉めていたっけ。

 いや、年頃の女の子に身体を拭いてもらうワケにはいかないから。

 なので、丁重にお断りして、出来るだけは拭いて着替えをしていた。


 シャワーを浴びて身綺麗になった俺は綾瀬君の作ってくれたお昼ご飯を食べて、大学に行く茉莉ちゃんを見送ってから明美ちゃんがやって来るまで少し休むことにした。

 綾瀬君も明美ちゃんと面識があるので、やって来たらリビングに通してほしいと伝えておく。


 しばらくして綾瀬君が俺を呼びにやってくる。


「大木さん、明美ちゃんが来てくれたよ!」

「ああ、今行くね。」


 俺はリビングに行き、コーヒーを飲んでいる明美ちゃんに挨拶する。


「明美ちゃん、ごめんね。わざわざ来てもらっちゃって。」

「いいのよ。ジョーちゃんがいないから、和樹ちゃんしか決めれないこともあったりするから。

 それに、結構ひどい風邪だったみたいでしょ?お見舞いも兼ねてね。」


 そういって、明美ちゃんは何やら袋を渡してくる。


「これはね、昔お店で私の常連さんだった人が引退しても毎年、お店に私とジョーちゃんにって経営する農園のイチゴを送ってきてくれててね。

 今年はジョーちゃんがアメリカから帰ってこないから、腐らせる訳にもいかないしお見舞いついでにみんなでどうぞ。」

「どうもありがとう。明美ちゃん。ありがたく頂かせてもらいます。」


 それから明美ちゃんが書類を出してきてくれて、説明を聞きながら押印していった。

 押印が終わってから少しだけ綾瀬君を加えて雑談をし、事務所を開く時間になったので事務所に向かっていった。



 夕方、茉莉ちゃん、楓ちゃんが一緒に帰ってきた。


「お帰り二人とも。」

「和にーちゃん、ただいま。もう起きていて大丈夫?」

「うん、ほとんどよくなったよ。寝てばっかりだと体にも良くないしね。」

「ならよかった。緒方さんとは会ってみたかった。私だけ会ったことがない。」

「機会はまたあるよ。楽しみにしていて。」

「偶然、帰りに楓ちゃんと立花さんに会って一緒に帰ってきたの。

 明美さんとのお仕事は終わったの?」

「ああ、終わったよ。明美ちゃんがお見舞いにってイチゴをくれたんだ。」

「そうなんだ。」

「いま、綾瀬君が夕飯のデザートにって料理してくれてるよ。」

「それは楽しみ。」

「だね。なら急いで夕ご飯の支度をするから。待っててね。」


 茉莉ちゃんはキッチンで料理する綾瀬君と話をしてから自室に向かい、荷物を置いてから夕ご飯の支度をする。

 楓ちゃんも料理している綾瀬君に何やら話しかけて、味見させてもらってから二階に上がっていった。



 夕ご飯のあと、綾瀬君がもらったイチゴで作ったデザートを食べる。

 イチゴのムースに、イチゴシャーベット、イチゴクレープ、最後にそのままのイチゴが出てきた。

 茉莉ちゃんと楓ちゃんは目を輝かせている。


「みんな、いのり特製デザートだよ!召し上がれ!!」

「わぁ!!おいしそう!!いただきます!!」

「やっぱり、いのりんがここに来てくれて正解。おいしい料理がいっぱい食べられる。」

「そんなこと言っても、何も出ないよ~。」


 そんなこと言い、しなを作りながら楓ちゃんのイチゴムースにイチゴクリームを増量している綾瀬君。


「あ、いのりちゃん私も!!」

「はいよ~。」


 やっぱり女の子は甘くておいしい物には目がないんだね。


「おいしいね。これは。」


 明美ちゃんの持ってきてくれたそのままのイチゴをまずはいただいてみる。

 果肉も大きくしかっりとして、艶々としている。味も甘酸っぱさと甘みが程よくブレンドされていて素人にも高級品だってわかる。


「でしょ?このイチゴはこの近くのブランド物でなかなか食べられることはないよ?

 レストランにホテルとか、デパートに夜のお店専門の果物屋さんレベルにしか取り扱っていないんじゃないかな?

 だからわたしも張り切って調理したよ!!もう最高!

 大木さん、じゃんじゃん風邪をひいて明美ちゃんにお土産いっぱい持ってきてもらおうよ!」

「いやいや、毎回は持ってきてもらえないぞ。今回は常見の分をたまたま持ってきてくれたんだ。」

「でも、和にーちゃんの看病が出来るから私は嫌じゃない。ついでに次もって期待してしまう。」

「楓ちゃんっ!・・・と、言いたいけれど。和にいの看病とこのイチゴが出てきたら、否定が出来ないよ・・・。」


 三人ともイチゴの魅力に負けたのか、次を期待して俺が風邪を引くことを期待してないか?

 たしかに、このイチゴの味はそれだけの魅力があるのは確かだ・・・。

 でも、俺はイチゴを引き寄せるために毎回寝込めないぞ。


「そういえば、綾瀬君。このイチゴの産地って近いって言ったけどどれくらいのところなんだ?」

「そうだねー。ここから車で2、3時間くらいの所で、観光名所もある山中だよ?」

「そんなところで作られているなんて知らなかった。」

「私も。」


 そういっておおよその場所を教えてくれる。確かに俺も聞いたことがあるくらいには有名な場所だ。


「そうだ!明美ちゃんに聞いてみるけど、予約とか取れるんだったらイチゴ狩りにゴールデンウィークに行ってみないかい?」

「おっ。いいねー大木さん。わたし行きたい!!いろんな品種のイチゴがあると思うから、いっぱい味見してみたい!!」

「イチゴ狩り初めて。楽しみ。」

「だね。和にい私も行ってみたい!」


 そうして話がまとまった。

 これは予約が取れないと三人に大目玉だな。急いで明美ちゃんに連絡しておこう。

 イチゴ一つでこんなに明るい話が出来るようになるなんて思ってもいなかったよ。亜咲。


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はじめて一週間、本当に思っていた以上の方に読んでいただけて大感謝です!

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