第4話
甥は2人友達を連れて、3人お揃いで色違いのスニーカーを履いてやって来た。
大きくなれば、誰もがSNSでアカウントを作り、皆と繋がり合う。
でも、失敗したり、恥をかくのは御免だと、甥は話した。
オレは、SNS上で想定される対応策を、ノートパソコンとスマホを使って、3人に説明した。
3人の飲み込みが、予想以上に遅いことで、オレは若干、苛立たしくなった。
しかし子供の前で大人げない態度を取れば、オレの評判が下がる。
オレは優しい声で、違う話題を口にした。
「あのスニーカー、今、流行ってるんだよね。
いろんなインフルエンサーが、みんな、あれ履いてるもんな。」
「そうなんです!
だからボクたち、原宿のお店まで遠征して買って来たんです!」
「でも、あのスニーカーなら、ネットでいくらでも買えるじゃん。
そんなの、わざわざ実店舗に行く必要性が分んねえ。」
「そうだけど、みんな実物が見たくって。」
「非効率!」
「はぁ……」
あれっ?
対応ミスったか?
3人が急に、よそよそしくなった。
甥は誹謗中傷や炎上を、どう防いだらいいのかと、オレに尋ねた。
オレは普段仕事で、人の裏アカを特定して、表示させる手段を、3人に教授した。
「なっ、簡単だろ?
こうすれば、相手に勘づかれずに、何投稿してるか丸分かりだ。
デジタル機器に不可能はないんだよ。」
3人は驚いた様子で互いを見合っている。
「心配いらないよ。
偉そうなヤツらも、現実を知れば、クズばっかさ。
だから堂々と自分に誇りを持って、中傷するヤツらを、みんな笑い飛ばしてやれ!」
1人の友達が「飲み物とってきます」と立ち上がり、部屋を出ていくと、甥と、もう1人の友達も、その後に着いていった。
オレは、その間、暴露系動画で晒しものになっているヤツらを見て、笑っていた。
しばらくすると、遠くから3人の会話が漏れ聞こえてきた。
「……あれ、お前のオジさん、重度のネットジャンキーじゃね?」
「ネットジャンキーって?」
「デジタル中毒で、ネット中毒で、社会のゴミ連中。」
「おい、どうしてる?」
「ずっとスクロールしてニヤついてる、キッモ!」
「うわっ! やっぱジャンクな人だ!」
「だいたいデジタル至上主義って、オヤジ臭いよな。」
「加齢臭ムンムン。」
何だと、ガキども!
「SNSの相談乗って欲しいって、確かに頼んだけどさ、犯罪の手ほどきしてくれなんて、一言も言っちゃいないぜ。」
「オレらもネット漬けになれば、自分の全てが晒されて、ああした中毒ジャンキーや、そうした連中の企業に搾取されるだけの奴隷に堕ちるぞ。」
「常に切迫させて、必然だと思わせる。
でも実際、ジャンキーらの都合なだけ。」
甥は2人の友人に翻弄されながらも反論した。
「あれで普通じゃない?
大人の人たちは、みんな、あんな感じだよ。」
「普通の大人が、オレらには異常に見える。」
「中毒状況がノーマルだなんて、とても受け入れられない。」
「オレらは、ああした大人にはなりたくない。」
「大人は、みんなバカばっかりだ。
みんな中毒にされて、搾取されるままになってる。
オレたちは、御免だね。」
2人に押され気味の甥は、それでもオレの肩を持とうとした。
「それが日常として、まかり通っていて、社会が成り立ってるんだし。」
「この日常が本当に正常だと、そうオマエは信じてるの?」
「だって、みんなと同じじゃなきゃ……」
「孤立を恐れて、なし崩しに同化すれば、オマエも奴隷に堕ちるぞ。」
「なあ、このまま、あのジャンキーにオレらの個人情報渡したら、生涯、食いものにされる。」
「どうする? 逃げるか?」
「逃げようぜ。」
どたばたと足音がしたかと思うと、荒々しく玄関ドアが開く音が響いた。
「逃げろ!」
「ジャンクだ! ジャンクだ!」
「ジャンキーだ!」
「待って! 待って! 置いてかないで!」
ふざけるな!
誰がジャンキーだ!
クソガキどもが!
たまらず手にしていたスマホを壁に投げつけた。
とことん気分が悪い!
レッドブル・テキーラを呷りながら、ノートパソコンにおさめている、動画データの一覧を何気なしに見つめる。
そして、最も興がそそられる動画を再生する。
———私は美しくないし、可愛くもない。
———だからプロフの……
オレは反射的に、その動画をアップロードした。
“誰が買う? この女?”
そうテロップをつけた。
オレは彼女との約束を破った。
みるみるレスポンスが肥大する。
“オレだって、金貰っても抱かねえ!”
“屠畜所直行決まり!”
そら見ろ、世の中、同意見のヤツらばっかだ。
オレは、いつか甥も含めて、あの3人も晒しものにしてやると、固く誓った。




