037●ドクター・ミヤシタ
「そうか。これほど違っていても、遺伝子的には同じということか。」
捕虜となった3万のベータ船団の乗組員データを見て、俺は驚いた。
ディスプレイに表示された解析結果は、意外なものだった。
「大佐、これは極秘です。ファースト・コンタクトした我々だから閲覧できます。もちろん、口外無用、部外秘、トップシークレットです。」
「せやかて、クドー、そうなるとあの辺境宙域まで、連中はいつたどり着いたんや?わしらの記録にはないで!」
「それがどうも、テラ時間で1万年以上前には、あの星域に存在していたようなんです。」
「1万年!なんやて?!そんなことがあるんかいな?!」
「大佐、落ち着いてください。ここは、本気で興奮せずに聞いてください。」
「いや、悪かった。すまん。それで?」
「まだ翻訳のためのデータ収集と分析が十分ではありません。ですから、はっきりとはしないのですが・・・。」
クドーはそう言うと、ディスプレイに映し出された資料を指差した。
「共通の祖先が地球とあの星域にいたというのは、今のところ説明がつきません。今回、分析チームにたまたまいた、マニアックな研究者が、ドクター・ミヤシタが提唱した、いわゆる’神々の足跡’ではないか、と言っています。」
「なんだ、それは?そのミヤチタは、具体的に何といっているんだ?」
「ドクター・ミヤシタです。彼は生前、学界では異端視され、黙殺されてきました。しかし、彼の著書’神々の足跡’が今回のファースト・コンタクトを説明できるのではないか、と。」
ディスプレイには、ドクターの著作内容が映し出される。
「神々の足跡」(Ming-May press, 568-569ページより抜粋・編集済データ)
約2万年前、地球文明に先行して存在したアザートリアン。
超高度な生命体が、意図的に生命の種を銀河中に蒔いた。
これが地球でも見られる数々の遺跡に残る「神々の足跡」だ。
アザートリアンは、地球だけに留まらず、
他の星雲系の惑星にも適応する生命のテンプレートを創造し、
散布しているに違いない。
彼らの目的については、壮大な実験、自らの遺伝子を保全するための保管庫、
あるいは種の継承者を育てるためなど、複数の意図が考えられる。
アザートリアンの痕跡、
すなわち「神々の足跡」は、いずれ他の星系でも発見される。
その時にこそ、わたしの、この説が正しいと証明されるに違いない。
「うーん、昔から有るような無いようなトンデモ学説だが、合致するところが、無きにしも非ず、だな。」
「わたしも、興味深く読みました。」
ふたりだけの密談は、まだまだ続く。




