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お弁当対決?先輩VS後輩

 佐々木さんの「浮気はダメだよ?」という言葉に、俺は反射的に背筋を伸ばしてしまった。


「そ、そんなつもりじゃないってば。俺が一緒にいたいのは……佐々木さん、なんだし……」


 言ったあとで、顔が熱くなってきた。うわ、俺いま何言った?

 あまりに直球すぎる。


 けれど、佐々木さんは驚くでもなく、ただ優しい目で俺を見ていた。


「……ふふっ。ありがと。裕貴くんが、ちゃんとそう言ってくれて、嬉しい」


 その笑顔は、なんというか、胸の奥にやわらかく染み込んでくるようだった。


「じゃあ、今日も屋上で食べよっか?」


「うん、もちろん」


 そう言って微笑み合った瞬間だった――


「うわーん! 先輩にフラれたぁあ!」


 教室の後ろのドアがガラリと開き、そこに現れたのはお約束のごとく五十嵐さんだった。


「な、なんでここに!?」


「だって、他のクラスの女子たちが“佐々木さんと裕貴先輩が仲良くしてた”って……そ、それで気になっちゃって……!」


 え、情報網広くない!?


「でも! 諦めません! 恋愛は戦いなんですから!」


 五十嵐さんは何やらキラキラした目で俺に詰め寄ってくる。その勢いに思わず後ずさった。


「……ねぇ、裕貴くん?」


 そんな時だった。佐々木さんが一歩、俺の横に立つ。

 彼女は穏やかな、けれど芯のある声で言った。


「私は別に、戦いとかじゃなくていい。でも……ちゃんと、伝えておくね」


 そして俺の袖を、そっと掴む。


「私は――裕貴くんの隣にいたいって、思ってる」


「……!」


 五十嵐さんが一瞬、言葉を失った。


 でもすぐに口を尖らせて、ぐぬぬ……と唸る。


「うぅ……じゃあ私だって! 先輩にお弁当作ってきますからねっ!」


「えっ」


「勝負ですよ、佐々木さん!」


「……うん。負けないよ」


 二人の間で火花が散る気配がした。

 なぜか俺の背筋には冷や汗が走る。


 ……これ、俺どうすればいいんだ。


(誰か助けてください)

 

 ※

 

 次の日の昼休み。


「裕貴先輩! 今日は私の手作り弁当、持ってきましたっ!」


 そう言って、教室の扉を勢いよく開け放ったのは、五十嵐さんだった。


「えっ、マジで……?」


「ふふん、今日のために昨晩から仕込んだんです。これが勝負弁当ってやつですよ!」


 彼女は得意げに、小ぶりな包みを掲げている。ピンク色のチェック模様の布。何だかやたらとキラキラして見える。


「そ、それは嬉しいけど……」


 俺が戸惑っていると、隣の席の佐々木さんが静かに鞄を開けて、いつも通りのお弁当を差し出してきた。


「はい、裕貴くん。今日も一緒に食べよ?」


 その声はいつもと同じ優しさを纏っているはずなのに、どこか、背中にぞくっとするものを感じるのはなぜだろう。


「な、なんで今タイミング被せてくるんですか佐々木さぁん!」


 五十嵐さんが抗議の声を上げる。


「ううん? いつも通り、私と食べるって約束してたから」


「うぅ……卑怯です、既成事実は……!」


 五十嵐さんがぎりっと歯を食いしばる。その視線は、完全に“戦闘モード”だった。


 あれ? 俺の意思とか、尊厳とか、そういうのはどこへ……?


「……でも、せっかくだし」

 佐々木さんがふっと笑みを見せる。


「五十嵐さんのお弁当、私も見てみたいな。ね、裕貴くん?」


「えっ、俺に聞く!?」


「決まりですねっ! それなら今日は三人で食べましょう!」


 どんどん話が進んでいく。俺の意思は……やっぱり風に流される枯葉のように、どこまでも無力だった。



 屋上。


 昼の風が心地良く、けれど俺の心は微妙に落ち着かない。

 目の前には二つのお弁当箱。


 一つは、いつも通り彩り豊かでバランスの取れた佐々木さんの手作り弁当。

 もう一つは、気合いが入りすぎて若干“キャラ弁”っぽくなっている五十嵐さんの弁当。


「さあ先輩、どっちから食べたいですか?」


 五十嵐さんがぐいっと身を乗り出してくる。


「……裕貴くん」


 一方、佐々木さんはにこやかに微笑みながらも、箸をこちらへ差し出してくる。

 あ、これ絶対逃げられないやつだ。


「じゃ、じゃあ……まずは五十嵐さんのから」


 そう言って一口食べると――


「……う、うまい……!」


 意外なほどしっかりした味。ほんのり甘めの玉子焼きに、丁寧に味付けされた肉巻き。

 見た目に反して、中身は本気だった。


「でしょ! 先輩のために、朝5時に起きたんですよ〜!」


「すごいね、五十嵐さん。……でも、こっちも食べてもらわないと」


 佐々木さんも負けじと、自分の作ったおかずを差し出してくる。


 一口、口に運ぶ。


 あぁ、やっぱり、落ち着く。佐々木さんのお弁当は、なんというか……“帰ってきた”って感覚がある。


「どっちが美味しいですか?」


 無邪気な目で聞いてくる五十嵐さん。


「どっちの方が、好き?」


 静かに、でも確かに揺れる瞳で見つめてくる佐々木さん。


「え、えっと……両方、うまい!」


 俺はそう答えるのが精一杯だった。


 この日、俺はようやく気づいた。


 ――青春は、胃袋にくる。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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