好きな人とのペアルック
その日の夜。
俺は佐々木さんのことが気になりつつ、自室で勉強道具を広げていた。
けれど、ページを開いたまま、頭の中は彼女の笑顔でいっぱいだった。
「……今日は、泣き顔も、笑顔も……色んな佐々木さんが見れたな」
ぼそりと呟いて、俺は天井を見上げる。
彼女が涙を見せたのは、俺たちに心を許してくれた証拠だと思いたかった。
同時に、俺は自分が彼女に対してどう思っているのか、改めて考えさせられていた。
(俺は……佐々木さんのことを)
ピコン。
その瞬間、スマホから通知音が鳴った。
画面を見ると、佐々木さんからのメッセージだった。
『今日はありがとう。すごく元気が出たよ。明日、ちょっとだけでも会える?』
その一言に、心臓が跳ね上がる。
『もちろん! 明日、行くよ』
即座に返事をすると、佐々木さんからもすぐに返事が返ってきた。
『ありがとう、待ってるね』
(……なんだ、この気持ち)
俺はスマホを握りしめたまま、鼓動の速さを感じていた。
※
翌日。
日曜日の昼下がり、俺は彼女の家の前に立っていた。
インターホンを押すと、佐々木さんが自分でドアを開けてくれた。
「裕貴くん、来てくれてありがとう!」
「体調はどう?」
「うん、もうすっかり良くなったよ。薬も効いたみたい」
そう言って、彼女は優しい微笑みを浮かべた。
「じゃあ、中にどうぞ」
部屋に入ると、昨日と違って窓から柔らかい日差しが差し込んでいる。
昨日はベッドでぐったりしていた彼女が、今日はちゃんと元気そうに椅子に座っている姿に、俺は少し安心した。
「ごめんね、無理させて」
「いや、無理なんてしてないし。昨日も言ったけど、俺は……佐々木さんに頼ってほしいから」
「……うん」
佐々木さんはほんのり赤くなった頬を隠すように、カップの紅茶に口を付ける。
「それでさ、今日は……その、渡したいものがあって」
「渡したいもの?」
俺が問い返すと、彼女は机の引き出しから、丁寧にラッピングされた小さな箱を取り出した。
「これ、開けてみて」
言われるがままに箱を開けると、中にはシンプルなシルバーのブレスレットが入っていた。
中央には、さりげなく俺たちが昨日買ったペアアクセサリーと同じ、やば丸くんの小さなチャームがついている。
「これ……」
「お揃い、作っちゃった」
彼女は少し照れたように笑う。
「実は……昨日の帰り道、アクセサリー屋さんに寄って、これを注文してたんだ」
「わざわざ?」
「うん……ペアのアクセサリーだけじゃ物足りなくて」
「……佐々木さん」
俺はブレスレットをそっと握りしめた。
彼女がここまでしてくれるとは思ってなかった。
「ほら、手首出して」
彼女は俺の手首を取り、自分の手でブレスレットを付けてくれる。
手首に触れる彼女の指先がくすぐったい。
けれど、どこか心地良い。
「これで、ちゃんとお揃いだね」
佐々木さんは照れ隠しに笑ったあと、ふと真剣な目を俺に向けてきた。
「……ねぇ裕貴くん、私……」
「……」
「私ね、やっぱり……メイドも、友達も、どっちも大切なんだ」
「……うん」
「だから、まだこのままの関係でいさせてほしいの」
俺はその言葉を受け止め、ゆっくりと頷いた。
「……分かった。俺も……佐々木さんとは、今のままがいいと思ってる」
「ありがとう」
彼女は、ふっと肩の力を抜いたように笑った。
「でも……」
「え?」
「たまに、ちょっとだけ甘えてもいい?」
「……もちろん!」
俺の即答に、佐々木さんは思わず吹き出した。
「ふふ、素直すぎ」
「そ、そんな素直だったかな……」
「うん、でも、そういうところ……好きだよ」
「……え?」
小さく呟かれたその言葉に、耳が赤くなる。
彼女もすぐに誤魔化すように「冗談だよ」と笑ったが、俺の中でその一言はずっと響いていた。
※
帰り道、俺はブレスレットを見つめながら歩いていた。
(……佐々木さん)
胸の奥に灯った温かさが、ずっと消えそうになかった。
(俺、やっぱり……)
その時、ようやく自分の気持ちが、少しだけ形になった気がした。
──このまま、俺たちはどうなるんだろう。
そんなことを思いながら、俺は夕焼けに染まる道を家路へと向かっていった。




