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好きな人とのペアルック

 その日の夜。


 俺は佐々木さんのことが気になりつつ、自室で勉強道具を広げていた。

 けれど、ページを開いたまま、頭の中は彼女の笑顔でいっぱいだった。


「……今日は、泣き顔も、笑顔も……色んな佐々木さんが見れたな」


 ぼそりと呟いて、俺は天井を見上げる。


 彼女が涙を見せたのは、俺たちに心を許してくれた証拠だと思いたかった。

 同時に、俺は自分が彼女に対してどう思っているのか、改めて考えさせられていた。


(俺は……佐々木さんのことを)


 ピコン。


 その瞬間、スマホから通知音が鳴った。

 画面を見ると、佐々木さんからのメッセージだった。


『今日はありがとう。すごく元気が出たよ。明日、ちょっとだけでも会える?』


 その一言に、心臓が跳ね上がる。


『もちろん! 明日、行くよ』


 即座に返事をすると、佐々木さんからもすぐに返事が返ってきた。


『ありがとう、待ってるね』


(……なんだ、この気持ち)


 俺はスマホを握りしめたまま、鼓動の速さを感じていた。



 翌日。


 日曜日の昼下がり、俺は彼女の家の前に立っていた。


 インターホンを押すと、佐々木さんが自分でドアを開けてくれた。


「裕貴くん、来てくれてありがとう!」


「体調はどう?」


「うん、もうすっかり良くなったよ。薬も効いたみたい」


 そう言って、彼女は優しい微笑みを浮かべた。


「じゃあ、中にどうぞ」


 部屋に入ると、昨日と違って窓から柔らかい日差しが差し込んでいる。

 昨日はベッドでぐったりしていた彼女が、今日はちゃんと元気そうに椅子に座っている姿に、俺は少し安心した。


「ごめんね、無理させて」


「いや、無理なんてしてないし。昨日も言ったけど、俺は……佐々木さんに頼ってほしいから」


「……うん」


 佐々木さんはほんのり赤くなった頬を隠すように、カップの紅茶に口を付ける。


「それでさ、今日は……その、渡したいものがあって」


「渡したいもの?」


 俺が問い返すと、彼女は机の引き出しから、丁寧にラッピングされた小さな箱を取り出した。


「これ、開けてみて」


 言われるがままに箱を開けると、中にはシンプルなシルバーのブレスレットが入っていた。

 中央には、さりげなく俺たちが昨日買ったペアアクセサリーと同じ、やば丸くんの小さなチャームがついている。


「これ……」


「お揃い、作っちゃった」


 彼女は少し照れたように笑う。


「実は……昨日の帰り道、アクセサリー屋さんに寄って、これを注文してたんだ」


「わざわざ?」


「うん……ペアのアクセサリーだけじゃ物足りなくて」


「……佐々木さん」


 俺はブレスレットをそっと握りしめた。

 彼女がここまでしてくれるとは思ってなかった。


「ほら、手首出して」


 彼女は俺の手首を取り、自分の手でブレスレットを付けてくれる。

 手首に触れる彼女の指先がくすぐったい。

 けれど、どこか心地良い。


「これで、ちゃんとお揃いだね」


 佐々木さんは照れ隠しに笑ったあと、ふと真剣な目を俺に向けてきた。


「……ねぇ裕貴くん、私……」


「……」


「私ね、やっぱり……メイドも、友達も、どっちも大切なんだ」


「……うん」


「だから、まだこのままの関係でいさせてほしいの」


 俺はその言葉を受け止め、ゆっくりと頷いた。


「……分かった。俺も……佐々木さんとは、今のままがいいと思ってる」


「ありがとう」


 彼女は、ふっと肩の力を抜いたように笑った。


「でも……」


「え?」


「たまに、ちょっとだけ甘えてもいい?」


「……もちろん!」


 俺の即答に、佐々木さんは思わず吹き出した。


「ふふ、素直すぎ」


「そ、そんな素直だったかな……」


「うん、でも、そういうところ……好きだよ」


「……え?」


 小さく呟かれたその言葉に、耳が赤くなる。


 彼女もすぐに誤魔化すように「冗談だよ」と笑ったが、俺の中でその一言はずっと響いていた。



 帰り道、俺はブレスレットを見つめながら歩いていた。


(……佐々木さん)


 胸の奥に灯った温かさが、ずっと消えそうになかった。


(俺、やっぱり……)


 その時、ようやく自分の気持ちが、少しだけ形になった気がした。


──このまま、俺たちはどうなるんだろう。


 そんなことを思いながら、俺は夕焼けに染まる道を家路へと向かっていった。


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