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働きすぎのマドンナ

「お坊っちゃん、おはようございます」


「おはよう、佐々木さん」


 俺はいつも通り、彼女に挨拶を返す。

 その時、ふと彼女の首元に目が留まった。昨日、あの街で一緒に買ったアクセサリーが、彼女の細い首にしっかりと掛けられていた。


「お坊っちゃん、私が買ったアクセサリー付けてくれてるんですね」


 そう言って佐々木さんは、冷静を装いながらも、どこか頬を緩めたように微笑む。


「うん、せっかく佐々木さんが買ってくれたから、付けないともったいないし」


「……そうですか、嬉しいです!」


 彼女の優しい笑顔を見て、自然と俺の頬も緩む。

 俺たちの間に、あたたかな空気が流れていた。


「朝食の準備は出来ていますので、お早めに召し上がりください」


「うん、ありがとう」


 そのまま俺は彼女に軽く会釈をして、食卓へ向かった。



 ダイニングに入ると、そこには母の姿があった。

 テーブルに手を添え、相変わらずの怪訝な目つきで俺を見つめている。


「真ちゃん、貴方……最近、あのメイドと随分仲が良いようね?どういうつもり?まさか、自分より下の人間に情でも湧いた?」


 その一言で、朝の温かさが冷や水を浴びせられたように一気に消えていく。


「母さんに、そのことを話すつもりはないよ」


「真ちゃん、貴方、最近の態度は何?親に対してその言葉遣い……。忘れたの?貴方はこの家を継ぐ人間になるべき存在なの。そんな人が、しょうもない人間に構ってる暇なんてないのよ」


 母の口調は終始冷たく、俺の胸にチクリと刺さった。

 だけど、今の俺は昔のままじゃない。


「母さんから見れば、そうかもしれない。でも——俺はこの関係を終わらせる気はない」


 そう言い切り、俺はテーブルの前に座る。

 母の視線は無視して、ただ黙々と箸を動かした。


「……ごちそうさま」


 食事を終えた俺は、無言のまま席を立ち、ダイニングの扉へ向かう。


「どこに行くの?」


「学校だよ……」


「そう……行けるようになったのね」


「……ああ」


 そのまま背を向け、静かに扉を閉めた。



 佐々木さんを迎えに行こうと、いつもの場所へと向かう。

 その瞬間——俺の胸に嫌な予感が走った。


「佐々木さん、一緒に学校に行こ——」


 言いかけたその時。

 俺は思わず目を疑った。


 佐々木さんが、ぐったりと座り込んでいた。

 顔は青白く、額には汗が滲んでいる。


「佐々木さん!?大丈夫!?」


 慌てて駆け寄ると、彼女は力なく俺の顔を見上げた。


「ゆ、裕貴くん……?ごめん……少し……待ってて。今から……準備……」


「そんなこと言ってる場合じゃないよ!おでこ、ちょっと触るね!」


 恐る恐る彼女の額に手を当てた瞬間——

 明らかに熱い。明らかに異常だ。


「これ……相当ヤバい……!」


 すぐに俺は声を張り上げた。


「執事!早く来てください!」


 遠くから執事が急ぎ足で駆けてくる。


「佐々木さんが、高熱を出してる!今すぐ、病院に!」


「か、かしこまりました!」


 執事は慌てて手配に走った。


 俺はその間に、佐々木さんの体を慎重に背負い、急いで毛布を掛ける。

 彼女の体は思った以上に軽くて、少し切なくなる。

 そして、そのまま急いで手配された車に飛び乗った。



 病院に着くと、俺は待合室でぐったりとした佐々木さんの看病を続ける。

 彼女の呼吸は浅く、頬は汗で濡れていた。


「お待たせしました。こちらへ」


 女性医師の声がかかる。

 俺はすぐに佐々木さんを支え、診察室へ入った。


 そこで行われた検査の結果——


「……おそらく、疲労とストレスによる発熱ですね」


「疲労と、ストレス……」


「彼女から『バイトをしている』とも聞きましたが、働きすぎですね。特にウイルスなどは検出されませんでした。ですので、最低でも三日は絶対安静が必要です」


「わかりました……」


「お薬も出しておきますので、これからは無理させないようにしてください」


「はい、ありがとうございます」


 俺はふっと肩の力を抜き、佐々木さんの熱い体を再び支え直す。

 このまま絶対に——無理はさせない、と心の中で誓った。


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その時、ふと彼女の首元に目が留まった。昨日、あの街で一緒に買ったアクセサリーが、彼女の細い首にしっかりと掛けられていた。 「お坊っちゃん、私が買ったアクセサリー付けてくれてるんですね」 ここですが…
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