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第52話 魔道具とは

「うわぁ……」


 目の前に様々な魔道具が並べられているのを見てカナリアが思わず感嘆の声を漏らす。カナリアとルーにとってこれほど多くの魔道具を目の当たりにするのは初めてのことであった。

 2人の反応を見てコニーテも満足そうにしている。そして切りを見て話し始めた。


「それじゃあ説明するね。見て分かる通り、魔道具は基本的に装飾品や武器の形をしている」


 カナリアとルーも興味津々の様子でコニーテの話に耳を傾けている。

 2人の視線を受けながらコニーテは商品棚に置かれた魔道具の1つを手に取って掌に載せる。それは白い宝石がついた指輪型の魔道具であった。


「理由としては魔力を流す関係で直接体に触れていた方が効率がいいからだね。戦闘中でも基本的に身に着けているから、いつでも使えるという利点もある」


 そう言う意味で指輪は最もありふれた魔道具の1つだった。大きさが小さい分それほど劇的な効果を得ることはできないが、使いやすさの点ではこれが一番である。

 このタイプの魔道具を身に着けている人間は数多い。「雷光の槍」のヴァナヘルトとシャーリーもそうである。

 2人が身に着けているのは「変色の指輪」。魔力を流すとその指輪と対となる指輪の色が変わるというただそれだけの効果であるが、待ち伏せなどでタイミングを計る時には重宝されている。


「魔道具にはあらかじめ効果が決まっているから、魔法の上手い下手に関係なく魔力を流すだけで同じ効果を発揮できる。ちなみにこれは「発光の指輪」。いわゆる目潰し用の魔道具だね」


 それだけ説明してコニーテは指輪を棚に戻す。本当は実演したかったのだが、店内で攻撃用の魔道具を使うのは危ないため控えたのだ。

 代わりとばかりに、コニーテは少し遠くの棚に手を伸ばして別の指輪を手に取った。そして自分の指にはめてカナリアとルーの目の前に持っていく。


「こっちは「光源の指輪」。夜道や洞窟内を照らすための魔道具だよ」


 そう言ってコニーテが魔力を流すと、指輪から光が溢れた。収束された光はまっすぐ上に伸びて、天井に丸い円を描いている。

 カナリアとルーは指輪と天井を何度も見比べて驚きを表す。

 思わずと言った風にカナリアが呟いた。


「すごい便利ね……」

「そう、便利なんだ。その分値段もそれなりに高い」

「い、いくらなんですか?」


 カナリアの発言に被せるようにコニーテが大真面目な表情で言った。

 高いという言葉に気圧されたルーが恐る恐る値段を尋ねる。


「銀貨35枚」

「そ、そんなに!?」


 コニーテはもったいつけたりせずに簡潔に答えた。覚悟はしていたものの常識外れの金額にカナリアから悲鳴が上がる。

 銀貨35枚と言えば2人が金を出し合ってやっと足りるという額である。とてもではないが2人の手が届く物ではない。

 コニーテはその反応を予想していたようで、対照的に落ち着いて話を続ける。


「魔道具には魔石が不可欠だからね。安い物でもこれくらいはするんだ」

「それで安いんですか……」


 もはやルーは驚きを通り越して呆れの域にまで達していた。

 魔石はBランク以上の魔物からしか取れない。そんな魔物を討伐するのがいかに難しいかはついこの前のイオとアルバートの苦労から見てとれる。

 Bランク以上という希少性と、それを得るまでの労力を(かんが)みれば魔石が、すなわちそれを使った魔道具が高価になるというのは容易に理解できる。

 だからこそアルバートが魔石を魔法行使の媒体に使い捨てていることの異質さが際立つが、カナリアとルーはアルバートがそんな魔法を使うことも今も懐に魔石を忍ばせていることも知らない。知っているのはこの場ではイオだけである。


「やっぱり私に魔道具は無理です。そんな高価な物は買えません」


 悲痛そうな顔でルーはきっぱりと決断した。もともと彼女は魔道具を買うことに乗り気ではなく、ここで魔道具の詳しい実態を聞くことでその思いがさらに強まったのだ。

 それを聞いて慌てたのはコニーテ。彼としては嘘偽りない真実を述べただけであって、まだ要望の魔道具の説明も何もしていない。商品を説明する前の前置きだけで購入を断られたとなれば焦りもするだろう。


「いや、ちょっと待って! そのために……」

「そのために値引きしてもらうんだろ?」


 ルーの意志を(ひるがえ)させようと慌てて口を走らせるコニーテに被せて後ろから声がした。

 商談が破綻しそうなのを見て割り込んだイオである。その隣には苦笑いのアルバートもいる。

 イオはとりあえずコニーテを無視してルーに話しかけた。


「ルー、魔道具が高価なのは分かってたことだ。その上でアルバートは魔道具を買うことに意義があると考え、ルーもそれに賛同した」

「そうだけど……」

「強くなりたいんなら形振(なりふ)り構うな。使える物はすべて使え。そうでないといざという時に後悔する」


 その言葉には確かな重みがあった。

 一般的な魔法に頼れないイオがどのようにしてここまで生きてきたか。プライドを捨てて地面を転げまわり、時には毒にまで手を出した。

 ルーはそれらをほとんど何も知らないが、珍しくイオが自分の過去に触れる発言をしていることから真剣な面持ちでその言葉を受け止める。


 するとイオは表情に浮かんだ陰り消し、かすかに口の端を上げてこう続けた。


「それに、コニーテさんの望みは駆け出しの冒険者に魔道具を使ってもらうことだ。そのためなら半額にくらいしてくれる。ですよね、コニーテさん?」

「え、は……? いや、さすがにそれは……」


 突然向けられた衝撃的な発言にコニーテはあたふたとしながら否定しようとする。

 しかし、イオはコニーテが何かを言う前にそれを制して言葉を発した。


「昨日強引に店に入れられたことに対する謝罪。にもかかわらず店に客を連れてきたことへのお礼」

「うっ……」

「良心的な金額を期待しています」


 言葉に詰まるコニーテを余所にイオはさっさともと居た場所、すなわち入り口付近の角へと戻っていった。コニーテはだらだらと嫌な汗をかきながらその後ろ姿を見送ることしかできない。

 しばらく誰も言葉を発さなかったが、少しして不審そうにカナリアが呟く。


「……何なのよ、あれ」


 颯爽と現れて場をかき乱しそのまま去っていく。無関心・不干渉を常とするイオには似つかわしくない言動だったという感想は全員に一致するところである。

 その中でアルバートだけはくつくつと笑いながら、


「まあイオにも思うところがあるんじゃないかな」


 と、濁すように口にした。

 カナリアが今度はアルバートに向けて不審の眼差しを向けるが、アルバートはそれを気にせずルーに語り掛ける。


「イオが言った通り、後悔してからでは遅い。とりあえずお金のことは忘れて話だけでも聞いてみよう」

「……そう、ですね。私はついこの前、自分がもっと強かったらって後悔したばかりです。魔道具でも、できるなら欲しい」

「決まりだね。ということでコニーテさん。続きをお願いします」

「え? あ、ああ、分かったよ」


 置いてけぼりをくらっていたコニーテはアルバートの言葉で再起動し、魔道具についての説明を再び始めた。といってもイオの言葉によっていまだに頬は引きつったままだが。

 魔道具を扱っているということでコニーテの知識はやはりかなりのもので、次々と語られる驚きの効果にカナリアとルーは幾度となく感嘆の声をあげる。それを一緒になって聞いていたアルバートも思わず驚きに目を見開いてしまうことがしばしばあった。


 3人の反応に気をよくしたコニーテの口はさらに滑らかになっていく。


 風の槍が飛び出す「風刺の指輪」。

 回転する火の車輪を生み出す「火炎車の腕輪」。

 遠隔操作型の小型土人形に変形する「疑似ゴーレム生成ホルダー」

 魔法の制御を補助する「新緑の魔杖(まじょう)


 下は銀貨30枚、上は金貨40枚と性能と金額にはかなりの差があったりもしたが、長い時間をかけてルーの要望に合う魔道具の説明は終わりを迎えた。すでに日は傾きかけており、聞く側の集中力は尽きかけていた。

 コニーテはまだ話し足りなそうにしているがこれ以上は無理ということで説明はいったん終わりになったのだ。


 その間新たな客が来ると言ったことはもちろんなく、カナリアとルーは存分に魔道具の魅力を教え込まれてどうしても魔道具が欲しいという気にさせられていた。恐るべき商売話法と言えるだろう。

 今も2人は商品棚と向き合いながらどれを買うべきか一緒に頭を悩ませ続けている。


「楽しい話をありがとうございました」


 アルバートは壁に背を預け一息ついているコニーテに歩み寄って礼を述べた。これは心からの言葉であり、アルバートもかなり話に引き込まれていたのだ。

 コニーテは肩を竦めて言葉を返す。


「いやいや、僕も楽しかったから礼はいらない。それにこれからどれだけ値切られるかと思うと……」


 コニーテはがっくりと肩を落としながら店の片隅に目をやる。

 イオは長い話の間も壁にもたれかかったまま全くそこから動いていなかった。フードに隠れて顔がよく見えないため、ともすれば眠っているようにも見える。

 意気消沈としたコニーテの様子を見てアルバートは思わずくすっと笑ってしまった。


「まったく、他人事だと思って……」

「いえ、すみません。我慢できなくって……」


 拗ねるように言ったコニーテにアルバートは素直に謝った。コニーテはそのまま何も返さなかったので自然とそこで会話が途切れる。

 しばらく無言の時が続き、カナリアとルーが何かを言い合う声と壁を挟んだ外からの喧騒のみが店内を支配する。

 ややあってアルバートが口を開いた。


「……コニーテさんは、ずいぶんとイオに気に入られたみたいですね」

「へ?」


 それはコニーテにとって予想外の言葉だった。

 そのためかコニーテはほぼ反射的に否定して返す。


「ありえないよ。僕はイオ君と出会ってこの方迷惑そうな顔しか向けられていない。今も弱みに付け込まれて法外な値切りを迫られているし。目をつけられているという意味では、確かに気に入られているかもね」


 早口にそうまくし立てるコニーテの口調は不機嫌という言葉そのものだった。すなわち、どうしてこうなった、と。

 初めコニーテは冒険者で尚且つおとなしそうな人間を選んで宣伝しようとしていた。冒険者は荒くれ物が多く、下手な人物を選んでしまうと何をされるか分かったものではない。

 警備の薄い魔道具屋があることを広められたり、最悪その場で暴力に訴えて脅されることもあるかもしれない。背が高くても細身のコニーテでは太刀打ちできない。

 その点ではイオは最良の相手だった。体は小さく見た限りでは理性的。加えるならイオのように体格で劣っている冒険者にこそ魔道具を買ってほしいという思いもあった。

 しかし現実はどうか。確かに理性的で暴力に訴えることは全くなかったが、代わりに的確にこちらの弱みをついてくる狡猾さがあった。非礼に対する(わび)は恩を重ねられて重みを増してしまった。コニーテにとっては冒険者というよりも商人を相手にしている感覚に近い。


 そこまで考えるとコニーテは一転して不機嫌さを収め、苦々し気な口調でそれに、と続けた。


「イオ君、無属性だよね。そんな子を魔道具屋に入れるなんて、嫌われても仕方がないよ」

「……気づいていましたか」

「まあね。ここまで興味を示さないとなると嫌でも分かるよ」


 そう言ってコニーテは自嘲気味に笑い、イオの方へと目を向ける。

 イオは本当に眠っているのか、2人の会話にまったく反応を示すことはなかった。

長くなったので分割しました。続きも近いうちに投稿できると思います。

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