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勇者の仲間ですが魔王の協力者です  作者: rocyan
第二章 見習い勇者の旅
32/34

不治



 それは突然の事だった。


『ロッカ!』


 手伝いが故に定期的にある休日。いつも通りにゆっくりと昼前に起き上がり、ゆるりと朝食兼昼食を食べている時だった。家の扉を突然の開け放って僕の名前を呼んだ人物がいた。

 僕の休日に訪ねてくるならば午後以降にと友人には全員お願いしている。僕の寝起きがとても悪いから。まだ眠たいのに起こされでもすれば殴ってしまうし、起きたとしても眠たい時に大声を出されて仕舞えばその人物を睨んでしまう。兎に角、機嫌が悪くなる系の寝起きが悪いタイプなんだ。

 そんな事を友人達は知っているはず。僕の名前を親しげに焦った様に呼んだ奴にも覚えがあった。だって最近良く遊ぶ相手だったし、仕事場でも良く顔を合わせていた。

 だから相手が誰かわかっていながら、気分が急降下するのを感じ、不機嫌を隠しもせず振り返った。


『……いつも大声出さないでって言って———』


 るでしょ? と言う言葉は続かなかった。ついでに不機嫌だった感情も何処かへ行ってしまった。だって彼がポロポロと涙を流しながら跪いていたのだから。

 思わず食事を放り投げて駆けつけた。同じ様に膝をつき、目線を合わせた。


『どうしたんだよ! お前がそんな表情見せることなんてないだろ!』


 いつも明るい彼が涙を流している。何があっても笑顔を絶やさず、心配をかけまいと振舞っている奴だ。そんな男が涙を、惜しみなく流している事に驚きが隠せない。


『ロッカ……! 母さんが……! 母さんがッ』


 助けてくれ、助けてくれ。

懇願するように僕の服の裾を掴んで頭を下げる友人の姿に少しだけ呆然としてしまった。けどそれじゃぁいけないと、要領の得ない言葉の羅列を繰り返す彼の肩を掴み揺さぶった。しっかりしろ! と、話せ! と力になるから、と。


『母さんが…………不治の病にかかったんだ』

『そんな……』


 病名を聞いても分からなかったけど、不治の病というのが事実なんだと言うことは友人の態度からわかる。

 今度は彼が僕の肩を掴んだ。


『ロッカ、なぁ! どうすれば良い!? 俺はッ! どうすれば———っ!』


 治る手立てはある。けれどそれは禁忌と呼ばれるものであり、だからこそ不治の病なのだと言われている。そう語った彼に、僕は決意したんだ。こんなになるまで追い詰められた彼に何かしてあげられるのではないか、と。その禁忌を破るかもしれないけど、どうにかしてあげないと。


『わかった……』

『ロッカ……?』

『君はお母さんについていてあげて、僕がなんとかするから!』


 これが、僕が犯罪に手を染めてしまった経緯。











「馬鹿か、テメェ」

「ぐふぅっ!?」

「何してんの先生!?!?」


 ロッカが話した動機を聴き終えた瞬間にシアンの平手打ちが炸裂した。強化魔法でも使ったのかという程に打たれてから宙に浮いたロッカは、あっという間に床に伏せる。その様子を見ていた英二が突っ込み、カクタスはロッカの側に寄る。


「うん、しっかりと頬に当たっているね。流石シアン! 見事な平手打ちだよ!」

「師匠!?」


 褒めるところそこなの!? と叫びながら英二はロッカの側に寄った。


「大丈夫か!? 怪我してない?」


 心の底から心配していますという表情をしながら近寄ってきた英二にロッカは意識が朦朧としながらも、自身を心配してくれる存在に嬉しくなり笑いながらサムズアップする。


「だい゛じょぶでず」

「声がもう既に大丈夫じゃないけど!?」


 きっと歯が取れてしまったのだろう、呂律がしっかりと回っていなかった。流石に気絶させるわけにはいかないので、シアンは近づいて回復魔法をかける。


「あんま、得意じゃないんだがな」

「人並みにはあるでしょ。シアンの言う得意は人並み以上だからね」

「そうか?」

「そうだよ」


 シアンが回復魔法を施したおかげで、ロッカの頬の腫れは引いたが抜けた歯までは返ってこなかった。治癒師と呼ばれる、回復魔法専門の者ならばもっと一瞬で終わらせる程の力を持つ。

 魔法は魔力があれば誰にだって使えるが、誰しも得意不得意がある。シアンの場合、補助魔法全般は得意だが、補助魔法でも回復系統のものは不得意だっただけである。攻撃魔法は言わずもかな。


「シアン・アシード君」


 不意にモスモギルド支部長のモモリから声がかかる。治癒していた手を戻し、そちらへと意識を向けた。


「ロッカ君には我々ギルドから厳重に注意をするので、手を出さないでくれますか」

「(……注意するだけか?)」


 実際には違うのだろう。ロッカはギルド職員にあるまじき行為をした。こうしたのは最初に契約書やら何やらを書かされるはず、なれば違反したという事で辞職を言い渡される。

 依頼書の詐称、ギルド支部が懇意にしていた貴族を陥れるような行為。友達の為とは泣ける話かもしれないが、それとこれとは別である。安易にクエストを受けて死んでしまう冒険者がいたかも知れない、今まで築いて来たギルドの信頼を崩したかも知れない、神聖なる生き物を狩るなど言語道断だ! と唯一神教の信者達にギルドを批判され、その責任で支部長であるモモリが辞職していたかも知れない。少し考えただけでこれだけで問題が出るのだ、ロッカのした事は悪戯では全く済まされないものだった。

 だだ確かにこれはギルドの問題。一冒険者が意見して良いものでもないのだ。シアンは大人しく口を噤み、ロッカから離れる。いつの間にか英二やカクタスも元の位置に戻っていた。


「さて、ロッカ君」

「は、はい!」

「貴方の事情はわかりました。そのご友人のお母様が不治の病に患い、それを治す為に耀竜の幼子を捕獲するクエストを横流しした」

「は、はい……」

「貴方は——————自分がした事をわかっているんですかッ!!!!!!!!!」


 ひゅっと息を吸うのを失敗した音がした。

 温厚そうな見た目からは考えられないほどの威圧感が刹那にして部屋中に広がった。それを予想していなかった英二が驚いたような表情をしていたが、正面から直に貰ってしまったロッカは腰を抜かしてしまった。


「貴方のその行動はッ!!! 他の人々に迷惑をかけるのもありますが、何より貴方自身にも危険が降りかかるようなもの!!! それを、わかってやっていたんですか……っ!」


 ロッカは思考がまとまらないまま首を横に振る。痛ましそうに目を細めるモモリに誰もが口を挟めない。そういう雰囲気ではないというのもあるが、ここはモモリに任せた方が良いという判断からでもあった。

 モモリはロッカの行った行動によってどんなリスクが舞い込むかを説いた。それは説教と言うよりも、まるで生徒に丁寧に物事を教える教師というもので、ロッカもその雰囲気から何も言わずにただ頷き続けている。

 先程挙げたリスクもさることながら、神聖なる生き物を狩るクエストを横流ししたロッカも唯一神教に刃向かう異端児として軽蔑されていたかも知れない。もしかしたら殺されたかも知れない。

 大きな被害の例を挙げた後に自分に降りかかる被害を挙げることでより実感を持たせる。怒り方が上手いな、なんてシアンは静観していた。


「しかし、君が無事で良かったです。何か事があってからでは遅いですが……今回は免れました。彼らが気づいてくれて本当に良かった……」


 いつのまにか立ち上がっていたモモリはゆっくりと椅子に座り直す。言いたい事は終えたらしい。目をゆるりと細めてロッカを案じていた。

 数回しか会ったことがない支部長という目上の人にそこまで心配させていたのか、とロッカは申し訳なくなる。腰を抜かしたまま項垂れてしまうが、それではいけないと勢い良く立ち上がり頭を下げた。


「すみませんでしたッ!!!! 僕っ、僕はただ友人を救いたいと思って、そんな事微塵も考えていませんでした……申し訳ありませんッ」


 罰ならなんだって受けます、ギルドだって辞めます! と頭を下げたまま言うロッカにモモリはゆっくりと首を振り、頭を上げるように進言した。


「貴方が友達思いなのは職員を通じて知っていました……ですが、今回は事がことです。貴方の処分はまた後日と言うことにします。ただ、ギルドを辞める事はないでしょう。貴方の仕事振りは聞いていますから」


 何という温情。シアンは軽い処分に驚いたが、ここはモスモ支部の最高責任者が決める事。一介の冒険者が口出しする事ではないと口を噤んだ。

 ロッカもそう思ったのか、もう一度勢い良く頭を下げてお礼を言っていた。ここに来るまでは何もしていないとシラを切っていたのにも関わらず、こうして罪を認めて謝ったという事は本当は根は素直なのだろう。それ故に横流しがバレていなかったのだが。


「さて、本題に入りましょうか」


 パン! と軽く手を叩き空気を一新したモモリにロッカは首を傾げる。犯人だからと連れてこられたのでこれで終わりだと思っていたのだ。何が始まるのかと周りを見ても、冒険者達は冷静にモモリを見ていた。


「今回の件、ロッカ君のご友人のお母様が不治の病に患った事ですが……サルビア君」

「はい支部長」


 今までずっと黙っていた秘書はモモリの言葉に一つ頷くと、この場にいた全員にとある資料を配った。それはロッカの友人の母が患ったとされる病の詳細。


「不治の病と呼ばれ、唯一の治療方法が耀竜にあると言われているのはこの世でたった一つです」


 配られた資料の題名にはその病の名が記されていた。


「……人体変性痛」

「その名の通り、身体が変性する事によって起こる痛みの事を指します」


 人の身体は一周期毎に生まれ変わる。

 この病を発見した医者はそう言ったそうな。

 細胞という人の身体を作るモノが生死のリサイクルを一定期間定期的に行う事で健康な身体を保つ。それ故に古くなった皮膚は捲れ、爪は伸びる。常に新しいものができるからこそ古くなったものは捨てられる。そんな事が身体の中で起きている、と医者は言った。

 当時はそんな馬鹿なと一蹴されたそうだが、今となってはその考え方は一理あると言われている。この病気がその考えを補うかのように一定期間だけ痛みを発するからだ。


「普通はそんな痛みはないために病気と定義され、しかし痛みを発するのみで何も異変は起きないために、治す手立てもなく不治の病とされました。痛みを発するのみなので死ぬ事はありません、しかしその痛みは人それぞれだと言われています」


 発見した医者と違い原因を突き止めた医者は、こう言った。

 何らかの偶然が起こり体内を巡る魔力が活性化し、本来感じるはずのない細部の痛みを感じてしまうようになるのが原因だと。

 魔力というのは血液のように専用の道などを持たず、ただ体内にあるだけ。何処から生み出されるのかどう止まっているのかはわかってはいない。しかし体内に充満している魔力を通じて細胞が生まれ変わるのを感じてしまった。


「実際に魔力量が少ない方は発症例は無く、発症した方は全員相当な魔力持ちです」


 ただその何らかの偶然は分かっていない。しかし原因がわかれば簡単である。


「つまり治療方法は一つ。活性化してしまった魔力を常に体外に放出し続ける事……ですがそれができるのは魔力の扱いに長けた魔法使いのみ。今回の様に何の力も持たない一般市民ではそれができず、常に苦しむ事になります」


 ペラリと資料が捲られる音がする。誰もがサルビアの言葉を聞き入っている中、シアンだけが資料を睨みつけていた。いつもより真剣な顔でその詳細な説明文を読みふける。

 この原因がもし本当なら確かに耀竜が的確だろう。だがシアンの頭にはある物が過った。


「一つ質問いいか?」


 確かめられずにはいられない。資料から目を離さずにスッと手を上げてから、サルビアを見た。


「何なりと」

「発症した奴は相当の魔力量持ちだと言っているが、なら溜めておくはずの器が小さく魔力を生成する奴だったらこの病は発症するか?」

「いえ、発症しません。魔力を溜める器が小さければ体内に充満する事なく、外に発散されます。器が大きい方とは魔力濃度が違うので発症することはないはずです」


 なるほど。

 体内にある魔力濃度が高いほど発症しやすい。活性化したとしても器が小さければ溜まることもなく外に出るために、痛みを感じることもないのか。


「体外に漏れ出る程ではない器を持ち、それなりの魔力生成の力を持つ者が発症しやすい。その為の耀竜……」

「はい。唯一の治療方法である耀竜の幼子は成長する為に肌を通じて母親の魔力を吸収すると言われています。つまりその皮を身に纏っておくか、幼子をそばに置くかをしておくと良いのですが」

「耀竜は唯一神教の聖獣だもんね、仕方ないよ」


 前にシアンが見た魔法道具は溢れ出る魔力を溜める道具であった。しかしそれでは病を治す事はできないだろう。一定以上溜めれば壊れる代物であるし、それ以前に体内の魔力でなく空気中にある魔力を溜める物であるからだ。


「(オレは複製はできるが……一から作り出す事はできない。ましては耀竜の特性を持つ魔法道具など…………いや彼奴なら)」


 今はこの場にいないもう一人の仲間を思い浮かべる。しかしすぐにかぶりを振って搔き消した。あの性格だ、見ず知らずの一般市民が困っているというだけで力を貸すような人間ではない。寧ろ貴族出身な為に下民など知るか、と一蹴しそうだ。

 思わず想像してしまい顰めっ面をしていたシアンの袖を隣にいたカクタスが引っ張った。自業自得で気分が悪いが、一応仲間の呼びかけに応じるわけにもいかずそちらを向く。


「……なんだ」


 しかしそこには苦笑するカクタスの姿が。


「その様子だと同じ事思ってたみたいだね」


 申し訳なさそうに眉を下げるカクタスにシアンは更に眉間の皺を増やした。どうやら考えることは同じな様で。


「分かってると思うけど敢えて言うよ。ドラジェの力を借りないかい?」


 かの軍事国家が送ってきた、帝国屈指の魔法技師の力をさ。



発見した医者は転生orトリップ。原因を突き止めた医者はただの天才です。


……ただの天才ってなんだ。

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