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勇者の仲間ですが魔王の協力者です  作者: rocyan
第二章 見習い勇者の旅
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鳥猫



 順調にトリネコを狩って行き、討伐証明部位を切り取ること数十分、シアンはトリネコの住処である森に足を踏み入れていた。

 緩やかな斜面ではあるが、人が踏み入れる場所ではないので足元が不安定だ。通常のDランク冒険者だと体力を奪われるだろう。しかし補助魔法において右に出るものはいないシアンである。“身体強化”をかけて、森の中心部に一速に駆けていった。

 森の中心部には他にはない大きな魔力が存在する。探知魔法と解析魔法の合わせ技という高難易度の技術を用いたことでわかった事柄だ。“身体強化”まで使っていながらなので、補助魔法においては勇者クラスを超えていると言っと過言ではない。

 普通、魔法使いは魔法の並行使用はできないのだ。一つ一つの魔法に魔力を使うため、その分魔力操作の機密性を問われる。その機密性はイメージが大事であるので、魔法名をすれば攻撃魔法を打てるなんて事しか考えていない魔法使いでは並行使用はできない芸当だ。そもそも二つの魔法を並行して使うという認識がないために、魔力操作云々以前の問題である。

 ともかく、彼がトリネコの住処の中心部に向かっているのはその魔力の源をハッキリさせる為。討伐だけ済ませて、この調査はギルドに任せれば良いはずだが、どうしても気になった様だ。いつになく真剣に野山を駆けている。


「(普段テリトリーから出ないトリネコが出て来た事、そしてあの必死な形相……確実に何かあるな。あいつらは決して馬鹿じゃない……格上に仕掛けるなんて事ないはずだが……)」


 考えられる可能性は二つ。トリネコよりも強い者に住処を取られたか、トリネコに命令できるものが現れたか。

 どちらにしろ異変である。トリネコは一体でDランク冒険者と同等の力がある。このクエストも本当であれば、パーティで受ける方が安全だ。そんな其れなりに強いトリネコが指揮官というモノを持ったならば、脅威となりうる。

 そして、その指揮官の存在がどういうものなのかというのがシアンにとって大事な事柄である。もしその指揮官が魔人という魔物の上位存在ならば、放っておくわけにはいかない。シアンの立場は勇者の仲間でもあるが、それ以前に魔王の協力者である。魔王直々に命令されているならいざ知らず、独断で生態系を壊し人間に迷惑をかけているなら、例え此方側とて討伐対象となるのだ。

 トリネコの魔力反応が尋常でないほどになった頃、シアンは気配を消して身を潜めた。改竄魔法である“隠蔽”を自分自身にだけ使って、まるで何もないように見せた。

 改竄魔法は干渉魔法に似ているが、あくまで違う魔法だ。干渉魔法に分類されないこれは主に周囲の法則を変えているからだと言われている。干渉魔法が人や生き物なのに対して、改竄魔法は自然を相手とする。まぁ区別をつけてはいるが根本的には同じではないかと言われていたりするが、そこは今重要ではない。


「にゃぶ、にゃにーにゃ?」

「ニャニャニャニュー!」

「にゃば! にゃふー!」


 二匹のトリネコが何かを話し合っているが、全くもって何を話しているかわからない。シアンも首を傾げたくなるが、それをすれば気づかれてしまうかも知れないので我慢する。

 二匹のトリネコは同時に頷くと、近くの小さな丘の下にできた洞窟へと入って行く。何かを決意したような顔だ、もしかしたらその奥にボスがいるのかもしれない。

“隠蔽”を継続させながら、トリネコ達の数メートル後を歩く。入り口は狭かったが、入ってしまえば人間であるシアンでさえ余裕に歩けるスペースがあった。

 ところどころで発光する苔を尻目に、足音を立てないように何かを蹴らないかどうかを気をつけながら歩みを進めた。

 既にかけてあった改竄魔法“消音”によってシアンが触れたものについては音は立たないが、それ以外に関しては別である。


「にゅにゃ! にゃににゃにゃはにゃぶ」

「ニャァ。ニャニュニッ!」


 相変わらず何を言っているのかわからないが、重要なことを話しているのだとはわかる。それだけ二匹の顔は真剣だった。

 ……猫顔なのに何故わかるのかだなんて、野暮なことは突っ込んではいけない。

 やがて洞窟の中とは思えないほどの大きな広場に出ると、二匹は何かを呼ぶように叫んだ。


「「ニャバァ!!」」


 途端に広がる光。とある一点が光ったと思えば、そこには猫がいた。

 白い体毛のトリネコとは違い黒い体毛を持った猫。背中には鳥のような羽根ではなく、蝙蝠のような羽根が付いていた。トリネコだとは思われるが、それにしては内包している魔力がトリネコとは桁違いであり、何よりそのトリネコは後ろ足で立っていたのだ。

 四足歩行の猫が立ち上がったような姿勢ではない、元から二足歩行ではないかと考えさせられるきちんとした姿勢。ゆるりと二匹のトリネコに向かう様は、まるで人間が猫の皮を被ったように見えた。


「(やっぱ魔人か……)」


 魔人とは魔物の上位種。魔物が強くなり進化して、より人間の姿に近くなる事を魔人化と言うが、分類としては魔物に近い。

 魔族の中には悪魔という種族もいるが、彼らは基本的に生まれながらに人型であるため、魔人とは全く違う種だ。

 だが。


「おやまぁ、君たち良く私のところに来る子達じゃないか。今日はどうしたんだい? また誰かヘマしたのかい?」


 魔物に近いとはいえ魔人。話せるほどの知能は持っている。

 話している言語は世界共通のティリア語であり、どうやって取得したのかは不明だ。だが、魔人がティリア語を話せることについてはまだ解明されていないために、そういうものとして受け取る。

 因みに獣型の魔人に似た亜人種である獣人達がいるが、魔物ではない。だが人間側は獣人達を魔人と同じ区別をしているらしい。

 それはともかく、ゆらりと二本の尾を揺らして微笑む黒い魔人トリネコを見た。仕草は妙齢の女性を思わせる。雰囲気からもそうだが解析魔法によれば、それなりに年月を生きた魔人であることがわかった。

 面倒だな、と心の中で呟く。


「にゃふ」

「おや、違うのかい」

「ニャニャニャ、ニャニュ。ニャバビー」


 一匹のトリネコが首を振り、もう一匹は何かを説明するようにジェスチャーを取り入れながら話している。ふむふむと頷きながら聞いていた魔人は、そうかいと笑った。挑戦的な笑みだ。


「何匹かやられたのかい……本格的に人間が関与してきた可能性があるさね。しかしまぁ、人間を見たら攻撃しておけとは言ったものの……もしや、焦ってヘマした、とかないだろうねぇ?」


 黄色い瞳が光る。細めた目は怒りを表しているのだろう、とても鋭い。

 視線を受けた二匹のトリネコは一瞬だけ肩を跳ねさせた後、勢いよく左右に首を振った。


「なら良いけどねぇ。私は寛容だ、結果さえ出せれば何も文句は言わないさ。ただ、何かあれば報告だけはするように。お前達では荷が重いだろうさ」


 二匹のトリネコが頷いたのを確認すると魔人トリネコは薄く笑い、登場の時とは逆に静かに消えていった。瞬きの間にいなくなったことから、“空間転移”を使ったのは明白だ。

 探知魔法と解析魔法を使い、どこに消えたのか探る。


「(いた)」


 広間の奥、壁の向こう側にいることがわかるが、突撃するのが憚られる。彼らの目的がわからないからだ。


「(しかし、時空間魔法の担い手となると厄介だな……)」


 時空間魔法を使う人間すら少ないのに、その更に少ないとされる魔人が使えるとなると厄介極まりない。通常の冒険者であれば、撤退して対策を練るために街に戻っていただろう。

 あの魔人が人間と敵対しているのは話を聞いていてわかる。ただ魔人の自然発生というのが珍しいので、魔王側としてはどうにかして魔界に移せないだろうか。


「(…………こういうのは上司に判断を仰ぐものだよな)」


 何でも出してくれる狸に泣きつく小学生のように、自分の使い魔に泣き付こうとする魔法使い。プライドはないのだろうか。

 ただ使い魔は主人の言う事を聞くもの。頼るのは当たり前かもしれない。


〝あーあーテステス。こちらシアン・アシード。現在人間に危害を加える魔人を確認、指示を仰ぎたい、どうぞ〟


 念話を使い、魔界にいる自身の使い魔と連絡を取る。まるで異世界の軍隊での連絡手段であるトランシーバーを使っているように話し出した。

 念話を受け取った使い魔であるサタンは、持っていた資料をめくりながら念話に応じる。


〝なんじゃ。今書類整理で忙しいのだ。巫山戯るなら後で……とは言いたいものじゃが、お主がそんな態度をとるのは事が大きい時のみ……何があった?〟


 普段真面目な方であるシアンが巫山戯るのは、大抵切羽詰まった時や緊急事態のみ。と言ってもその巫山戯方が周りと比べて小さいため周囲にはいつも冷静沈着と言われている。

 つまりこの一瞬で何かあったのかわかるのは、単に付き合いの長さだろう。シアンが子供の頃から知っているため、彼の性格は網羅していると言って良い。


〝さっき言ったとおりだ。トリネコが進化して魔人になっている。トリネコを黒くして蝙蝠羽を生やせば、それだ〟


 そう言うとサタンは驚いたような声を出した。ドンと何かを押し付ける音が聞こえたことから、書類に判を押したのだろう。紙をめくる音も聞こえた。


〝なんと! あのトリネコが魔人化じゃと? 珍しい事もあるもんじゃな……〟


 トリネコは魔族の中では比較的弱い方だ。魔族で最も強い種族となるとやはり竜種だが、その他の種族含めて、力の強い者は魔界にいる。人間界にいるのは弱い者達ばかりだ。

 魔族は人種を侮っている傾向にある。種族の問題として、身体能力が隔絶されているからだと思われる。何も訓練を受けていない最下級の魔物でさえ、同じく何も訓練を受けていない村人達を圧倒できるのだから、その差はわかるだろう。

 しかし魔人は人間界では生まれにくい。弱い者ばかりを相手にしていても一向に強くはならないので、進化という過程を得ることができない。

 その為、魔人という存在が出るだけで人間界は大騒ぎする。ランクD冒険者程の他の者から見れば力のある方であるトリネコは魔界の魔族達からすれば赤子同然だが、人種から見れば脅威以外の何者でもないため、本来なら街総出で事に当たるだろう。

 とにかくそんな弱いトリネコが、人間界で進化して魔人化するとなると結構珍しい事なのだ。


〝しかも人間に危害を加えているとな……またもや、父上に恨みが募るのう。魔王となった自業自得じゃがな〟


 面倒だ、とため息を吐くサタン。シアンの脳には頭を抱えるサタンの姿がありありと見えた。

 自身の使い魔がいつも苦労している事に苦笑しながら、どうするか持ちかける。どうせなら其方に送る、とも。


〝そう、じゃなー…………うん、そうしてくれ。ここ最近トリネコの魔人は目撃されていないからのう。城の研究者達が喜ぶじゃろうて〟


 魔族が魔物とはいえ、魔人を実験動物扱い。魔族には倫理とやらが加わっていないため仕方のない事なのだが。


〝了解した。じゃ、今すぐ送る〟

〝えっ!? 今すぐじゃと!? ちょっと待つのじゃ! シア---〟


 慌てたようなサタンの声を無視してぷつりと念話を切ったシアンは、さっそくとばかりに立ち上がる。

 もうあの二匹のトリネコは去っていて、あの広場には誰もいない。魔法で確認しても魔人の反応だけなのでオールクリアである。


「(“身体強化”二倍かけ、“武器製造”、探知と解析……よし、狙いは定めた)」


 広場の入り口に立っていたシアンは“武器製造”によって作り出された鉄製の巨大ハンマーを握りしめて、倍かけした“身体強化”に物を言わせて突撃する。

 壁にぶつかる直前に一回転して、遠心力の応用でハンマーを思いっきりぶつけた。


———ズッドォォオオン!


 地響きのような音が鳴り、壁が崩れる。解析魔法の結果一、二メートル以上あったと思われるその壁はまるで握りつぶした豆腐のように粉々に砕け、あたりに散って行った。

 シアンの方にも破片が飛んでくるが、ハンマーを振り回して弾いていく。


「なんの騒ぎ!?」


 魔人のトリネコが慌てて奥から走ってきている。彼女はハンマーを担いだ人間のシアンの姿を見て固まってしまった。どうやら、攻めてくるだなんて思っていなかったらしい。

 確かにトリネコの縄張りの中心地。入ってくる人間などいないだろう。いや、ここにはいたが。

 固まった彼女への同情も程々にシアンはやるべき事を実行するべく、彼女の黄色い目を睨みつけた。



デビルトリネコ。

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