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勇者の仲間ですが魔王の協力者です  作者: rocyan
第二章 見習い勇者の旅
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依頼



「こんにちは! 冒険者ギルド出張所モスモ支部にようこそ! ご用件は何でしょうか?」


 受付嬢が人の良さそうな笑みを浮かべる。貼り付けたような笑みに見えるが、そう思えるのは捻くれてる奴だけだろう。

 超美人の部類に入る彼女の笑みは老若男女問わず魅了する。幼い頃から整っていた容姿に誰もが彼女を好きになり甘やかした。誘拐犯だって虜にして帰ってきたことがあるのだ。成長した今だって皆、自分を見て目の色を変える。

 そう、彼女は自身の美貌には自信があった。自分は美しい。それが真実であるし、事実なのだと。

 だが、最近はその自信が崩れて行く音がしていた。


「このクエストを受けたいんだが」


 しれっとクエストボードから取ってきた紙を出してくる魔法使い姿の冒険者。

 彼は受付嬢と目を合わせるが、顔を赤らめる事もなくただ淡々と話してくる。感情が無いわけではないのは話していてわかる。けれど男であるのに、受付嬢の美貌に靡かないのだ。

 ひくりと笑顔が引きつる。受付嬢はこの冒険者が苦手であった。


「Dランクのクエストですね、可能ですよ。メンバーズカードをご提示お願いします」


 腰に付けたポーチから四角いカードを出し渡す冒険者。その時に受付嬢と指先が当たるが、ピクリともせずスルーした。受付嬢の笑顔が崩れそうになる。


「(動じなさすぎじゃない!?)」


 指先が当たったのは受付嬢の仕業であった。お近付きになりたい男性冒険者を見つけると、まずこうして小さなタッチから始める。自身の見た目で狼狽える者も多いが、この指先が当たる作戦(受付嬢命名)で殆どの者が狼狽える。そして此方を見た時に恥ずかしがっていた所作をすれば、この受付嬢は俺に気があると思うのだ。

 そうして何人もの男を侍らせてきたプレイガールな受付嬢だったが、見た目が好みであるこの魔法使い姿の冒険者は一向に靡かない。彼女のプライドが崩れ落ちそうになったのは、何回目だろうか。


「期限は一週間ですので、気をつけてください」

「あぁ」

「それでは、いってらっしゃいませ!」


 去っていく冒険者を笑顔で見送る受付嬢。

 周りの冒険者たちは、うっとりとした表情で受付嬢を見ているが、担当した冒険者は全くそんなそぶりすら見せず出て行ってしまった。


「(……ど〜なってんのよ! あの鉄仮面!! 何で靡かないのっ! 私のプライドがズタズタじゃない!!)」


 心の中で荒ぶっている受付嬢だが、表情にはおくびもださない。流石のポーカーフェイスだ。鉄仮面とは受付嬢の方ではなかろうか。

 手慣れた作業である受付の仕事を済ませながら、次はどんな手を使ってあの冒険者を落とそうか考える受付嬢。無理だなと思う事はしてこなかった彼女にしては珍しい事だが、それはもはや彼女の意地であり、やけくそに近い。

 この手で落とせなかった男性はいるはずもないのだから。


「絶対に落としてやるわ……!」


 彼女は握り拳を作って決意した。

 誰かが見たらこう思うだろう。どこの落とし神だと。


「あら、何か言ったかしら?」

「せ、先輩! な、何でもありませんことよ……?」

「そう?」


 ほほほほほと笑う彼女に、先輩受付嬢は首を傾げた。






 ところ変わって、件の魔法使い姿の冒険者改めシアン・アシード。


「っしゅ……! っつう……」


 急に来たくしゃみに怪訝そうな顔をしながらも、先ほど受けたクエストを遂行しようとモスモの街から出ようと冒険者として身分を示すカードを門番に示していた。


「何だ? 風邪か?」


 冒険者ギルドのメンバーズカードを見た後問題ないと判断した門番兵は、ずずっと鼻水を啜るシアンを心配して問いかける。

 シアンは門番兵の問いかけに首を振り、カードを受け取った。


「そんなことは無いはずですけど」

「気をつけろよ、冒険者は身体が基本なんだからな」


 この街に滞在してから何かと気にかけてくれる目の前の門番兵に礼を言ってから、大きな正門ををくぐった。

 門から続く街道の上を歩きながら、目的地を確認する為に“収納箱”からモスモ周辺の地図を取り出す。事細かに書かれているわけではないが、方角ぐらいはわかる。ただ、いつも使っている地図とは違って正確ではないのでシアンの眉間に皺が寄るのは必然ではあったが。


「(方角がわかるだけで儲けものか……流石に魔法を使うのはなぁ)」


 いつも使っている地図とはシアンが得意な補助魔法を組み合わせたものだ。主に解析魔法と探知魔法、さらに広域魔法を使う。

 術者自身を中心とし、解析魔法と探知魔法を同時発動させたのち広域魔法で範囲を広げる。それにより周りに何があるのかがわかるのだが……この方法を使うと情報量の多さに頭が痛くなる。

 そして、得た情報を創造魔法“製紙製造”で地図のような紙を作り出す事で地図が完成する。

 ただわかるように、途中の頭痛があまり使いたくない理由だ。凡ゆる情報を拾う解析魔法を使っているのだから、当たり前のペナルティーではある。しかしやはり嫌なものは嫌だ。

 因みに普通の魔法使いがこれを真似しようとすると魔力が足りない、または魔法の同時発動ができない、もしくは解析魔法で頭が割れそうになり気絶する。地味なようで、離れ業なのだ。

 そもそも、創造魔法を使える魔法使いの方が少ないと言えよう。

 シアンは使わないことを決め、手元にある地図とは違う紙を“収納箱”から取り出す。依頼書だ。


「トリネコの討伐は良いとして、数が多いな。十匹か……そりゃ一週間もなるな」


 もう少し考えてから受けるべきだったか、と後悔する。後の祭りであるが。

 今回受けたクエストは、Dランククエスト“トリネコの討伐”。難易度が低いが数が多いので、一週間と期間が長い。

 冒険者にはランクがある。Aから始まりEで終わるランク。Eが一番下であり、所謂お試し期間というものであり新規冒険者が多い。

 次にDランク。一般冒険者が多いランクだ。所謂普通のランク。冒険者の六割がこのランクであり、シアンもこの部類に入る。

 Cランクともなると中級冒険者、B、Aは上級冒険者だ。本来ならここで終わりだが、Aの上にSランクが存在する。

 Sランクは特級冒険者と呼ばれ、国一つ程の戦力があると云われている。ただ全くいないので伝説のランクと化しているが、先代勇者はこのランクだったらしい。


 閑話休題。


「“身体強化”」


 方角がわかったシアンは自身に強化魔法をかけて走り抜ける。その速さは人の限界を超え、馬をも超えて超人の域だ。力を上手く制御しているのか、加速のために足をついたところにはクレーターはない。

 街道からは外れて、遠くに見える小さな山を目指す。そこが目的地。トリネコの住処だ。

 本来彼らはその住処から出てくることは滅多にない。数が少ないのもあるが、縄張りの外に出ることを極端に恐れるからだ。

 基本的にビビりだが、縄張り内だと気が強いトリネコが縄張りである山を出て近くの里に降りてきたというのがこのクエストの発生理由。


「(何かあったんだろうが)」


 トリネコは強者ではあるがそこまで強くはない。Dランク冒険者一人で倒せる程だ。一般市民には荷が重すぎる相手だが。

 そんな彼らが外に出てきた。つまりはDランク以上の何かがいる。トリネコ達が恐れる何かが。

 まぁ、ただ単に食料がないということかも知れないが、それはそれで異常なので調べてみないことに変わりはない。


「面倒だ」


 けれど、やるしかない。

 元々丈夫な素材であるトリネコ達は欲しかったのだし、それなりに面倒な相手なので金にはなる。一石二鳥だ。

 暫くすると目当ての森が見えた。平地にある林とは違い、それなりに斜面のある森。体力のない者には少し登るのを躊躇するぐらいだが、そこは冒険者だ。シアン含め彼らは身体が基本である。

 シアンは魔法使いではあるが、接近戦が得意故にそれなりに身体は鍛えている。普段“身体強化”等使っているので認知され難いが、そもそも“身体強化”は身体の力を引き上げるもので鍛えていなければ後日、筋肉痛でダウンしてしまう。

 しかし、ほとんどの魔法使いは身体を鍛えてはいない。遠距離の強力な攻撃魔法を打ち込めるのだから、鍛える必要があるだろうか? そんな考えをしているためだ。

 シアンに言わせれば、鍛えといて損はないというのに。


「いた……」


 猫のようなしなやかな身体に、肩甲骨あたりには鳥のような翼が生えている。間違いないトリネコだ。

 報告にあったように森から出ている。流石に遠くへは行かないようだが、山の麓付近に村を築いていた人達には傍迷惑な話だろう。まぁ、人間が後からそこに人里を築いただけだが。

 シアンがいる方角には村はないが、地図によると反対側にあるらしい。本当はそこにいるトリネコを退治して、強い者がいると認識させるのが一番だが、シアンにそんな優しさはない。取り敢えずクエストを終わらせれば良いのだし、何も指定をしてこなかったのでセーフだろう。


「まずは一匹」


 一瞬で距離を詰め、トリネコの首に創造魔法“武器製造”で作り出した短剣を突き刺し絶命させる。

 一撃でこの世を去ったトリネコはだんだんと変色していき、大地に根を張る。暫くすると一本の樹ができていた。トリネコの樹である。

 この魔物は猫と鳥が混ざった容姿をしている事と、死んでしまうと樹になるという特徴からトリネコと名付けられた。

 そもそも、各地にあったこの樹にトリネコという名前が付けられ、その後にこの魔物が変化した姿だと知って一悶着あったが、魔物の容姿にぴったり当てはまる名前であったのでそのまま採用されている。ネーミングセンスは求めてはいけない。

 シアンの背丈以上になっている樹の枝を選別した後、ナイフで切り落とし“収納箱”へと入れた。

 トリネコの樹はよくしなる上に丈夫なので、弓や魔杖作成に使われるが、魔物であった時のトリネコに強度が左右される為に上級者向けの素材になっている。生前が強ければより強い素材に、弱ければ弱い素材に。人間からすれば魔物の時点で判別し難いので、絶命させてからしか判断できない。

 そんなトリネコの樹を回収したシアンは、討伐の証である元々尻尾の部分であった小さな枝を切り落とす。尾の部分だった枝は他とは違い特徴的な形をしているので、討伐の証にはもってこいなのだ。


「よし、次だ」


 縄張りである森の外にいるトリネコのみ討伐という制限があるので森には踏み込まず、周りを調べるために足に力を入れた。

 爆速的に速くなる視界。音速に迫るその速度の中で、滑らかな白い毛をしたトリネコを見つける。短剣を取り出し後ろに回ってから首に突き刺した。短剣を抜くと動脈の血が勢い良く吹き出した。

 血が服に付くのを防御魔法で防ぎながらトリネコが変化するのを待つ。


「に゛ぃぃ……」


 力尽きたのか、自身を殺したシアンを恨めしそうに睨みながら、その瞳から光が消えていった。真っ白な毛が茶色に染まっていく。

 樹に変化したトリネコの尻尾を切り取って“収納箱”に入れた。これで二匹目だ。


「順調だな。一日で終わりそう」


 風で吹き飛んでいきそうである三角帽子のつばを掴んで抑えながら、空を見上げる。三角帽子の影から、太陽光が入り込んできた。


「まぶし」


 思わず目を細め、創造魔法“武器製造”で新たな長剣を即座に作り出したシアンは、差し込んだ影に剣を振り抜いた。


「ぐにゃ!」


 変な声を出しながら新たに襲ってきたトリネコが絶命。胴体が上下で分かれていた。

 先程も言ったようにトリネコは縄張り以外ではビビリであり、例え相手が格下だとしても襲うことはない。だが、今のトリネコは襲ってきた。それはもう必死な形相で。

 ということはつまり。


「本当に何かいるんじゃねぇか? これ」


 森を見上げてそう呟く。

 嫌な予感しかしないな、とシアンはため息を吐いた。



動植物とはこのこと。

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