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失われた断片 ― 風の環 ―  作者: 半々月光
ビグトラス島編

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第75話――古の禁忌――痕跡を喰らうもの

>第75話ですーー!


今回は、


久しぶりにナイトヴァル・崩壊施設へ戻ります


大型異獣との戦いを終え、


ようやく少しだけ静けさを取り戻した中枢区画


ですが、


どうやらその静けさは、


安心できるものではなかったようです


ここまで少しずつ姿を見せてきた、


「古の禁忌」


それが一体何なのか


なぜこの場所に存在しているのか


まだ答えは遠いままですが、


今回からその輪郭へ、

少しずつ触れていきます


静かになったはずの場所で、


今度は何が始まるのかーー


第75話


「古の禁忌――痕跡を喰らうもの」


よろしくお願いしますーー!


✧\(>o<)ノ✧

第75話――古の禁忌――痕跡を喰らうもの


時刻:3670シヴン年12月25日 AM 11:00

場所:ナイトヴァル・崩壊施設中枢区画


 灰霧は、まだ建物の奥に沈んでいた。


 大型異獣の骸は完全に崩れ落ち、砕けた骨板と黒い霧だけが石床へ染み込むように消えていく。


 誰も口を開かなかった。


 先ほどまで響いていた咆哮も戦いの音も、まるで最初から存在しなかったかのように静まり返っている。


 ただ、妙だった。


 静かすぎた。


 風さえ、息を潜めている。


 俺は胸元の六角切面箱へ視線を落とした。


 サフィールの気配は、眠りについたまま戻らない。


 小さな青白い光だけが、箱の奥でかすかに脈打っていた。


「風神様……」


 返事はない。


 その沈黙だけが、胸へ重くのしかかった。


「……移動する」


 キリム教授が低く言った。


「ここへ長く留まるのは危険だ」


 全員が頷き、崩れた通路へ足を向ける。


 その時だった。


「……む?」


 キリム教授の歩みが止まった。


 教授は周囲を見渡し、小さく眉を寄せる。


「私は……」


「何を確認しようとしていた?」


 ヘペニーさんが苦笑する。


「疲れすぎじゃない?」


 だが、その笑顔は数秒も続かなかった。


 彼女自身も足を止める。


「待って」


 雷杖を握る指先が止まった。


「私……」


「何を見てた?」


 空気が、少しだけ冷える。


 ミドが二人を見比べ、冗談混じりに笑おうとした。


「おいおい、大丈夫かよーー」


 そこまで言って、口が止まる。


「…………」


 義肢が小さく震えた。


「俺……」


「今、何を話そうとした?」


 沈黙。


 三人とも、自分がおかしくなっていることに気付き始める。


 俺は思わず一歩前へ出た。


「教授!」


 キリム教授はすぐ振り向く。


「どうした?」


「今、何を確認しようとしてたんですか?」


「確認?」


 教授は答えようとして、再び黙った。


「…………」


 答えが出ない。


 知識はある。


 思考もできる。


 それなのに、ほんの数秒前の目的だけが綺麗に抜け落ちていた。


 ヘペニーさんは雷杖を構えたまま、小さく首を振る。


「おかしい……」


「敵は?」


 視線だけが左右へ揺れる。


「イラン……だった?」


 その言葉に、俺の背筋が凍った。


「ヘペニーさん?」


「違う……」


「違うわ」


 彼女は額へ手を当てる。


「あなたはイランよ」


「でも今、一瞬だけ……」


 その先を言えない。


 言葉にした瞬間、それがまた霧へ溶けてしまうようだった。


 ミドは義肢を握り締める。


「くそっ……」


 一歩踏み出そうとして、身体が右へ傾いた。


「っ!」


 義肢が石床を削り、火花が散る。


「違う!」


 左足を出したつもりだった。


 だが動いたのは右足だった。


 義肢の制御ではない。


 自分自身の身体位置が、一瞬だけ狂っていた。



 ルキが息を呑む。


「始まってる……」



 彼女の声だけが震えていた。


 戦いは終わっていなかった。


 むしろ、ここからが本当の始まりだった。



 俺は三人の様子を見回した。


 キリム教授、ヘペニーさん、ミド。


 三人とも違うのに、どこか同じだった。



 ほんの数秒だけ、自分の目的や位置を見失う。


 それでも、しばらくすると何事もなかったように戻っている。



(……おかしい)



 俺は床へ沈み続ける黒霧へ目を向けた。


 大型異獣は確かに倒した。


 結び目も切った。



 なのに、この違和感だけは消えない。



「何か気付いたの?」



 ルキが小さく尋ねる。



 俺は少しだけ考え、ゆっくりと首を振った。


「まだ分からない」


「でも……」



 俺はキリム教授を見る。


 教授は術式そのものを忘れてはいない。


 ヘペニーさんも、俺のことを思い出している。



 ミドも、身体がずれたことを覚えている。



(記憶を奪われたなら……)



(こんな風に戻るのか?)



 俺はもう一度、黒霧へ視線を落とした。


 灰霧は風に流される。


 けれど、あの黒い霧だけは違う。



 石床の亀裂を伝い、何かを探すようにゆっくりと流れていた。



(流れてる……)



 その言葉が胸の奥に引っかかった。



 次の瞬間ーー



 サフィールの最後の言葉が頭をよぎる。



『お前の痕跡を、少し留めただけだ』



(……痕跡)



(風神様は、記憶なんて一言も言ってない)



(留めたのは……痕跡)



 俺は無意識に、自分の足元へ視線を落とした。


 影もある。


 足跡も残っている。



(待て……)



(本当に失われているのは、記憶なのか……?)



 俺は隣にいるルキを見る。


 ルキは俺の視線に気付き、不思議そうに首を傾げた。



「どうしたの?」



「ルキ」



 俺は少し迷ってから問い掛ける。


「お前……さっき、おかしくならなかったよな?」



「え?」



 ルキは少しだけ考え、困ったように苦笑した。



「……うん」


「私、たぶん平気だった」



「なんで?」



 思わず聞き返す。



(異界から来たから……?)



(……いや)



(俺は、この世界の人間だ)



 胸元の六角切面箱へ視線が落ちる。



(風神様……)



 その時ーー



 ルキが何かを思い出したように口を開いた。



「あ……そういえば」



「何?」



「私ね」



 ルキは少し照れたように笑う。



「風神様が『見るな』って言った時、怖くなって……」


「そのまま目を閉じちゃったの」



 俺の心臓が大きく鳴った。



「……!」



「だから、その黒い影はちゃんと見てない」



 ルキは首を傾げる。


「それが関係あるの?」



 俺は答えなかった。



 胸の奥で、サフィールの最後の姿が蘇る。



『小僧、見るな』


『動くな』


『お前の痕跡を、少し留めただけだ』



(違う……)



(風神様は、ただ守ったんじゃない)



(あの時、何かを見せないようにしたんだ)



 俺は灰霧の奥へ視線を向けた。



(あいつは……)



(見た瞬間から、何かを書き換えている……?)



 黒い影を見ようとして、すぐに視線を外す。



「教授!」



 キリム教授がこちらを見る。


「何だ」



「もう一度、あいつを見てください」



「何?」



「でも、違和感を感じたらすぐ目を逸らしてください」



 教授は眉をひそめた。


「何か分かったのか」



「まだ確信はありません」



「でも、風神様は最初に『見るな』って言いました」


「ルキも目を閉じていたから、最初は影響を受けていない」



 その言葉に、教授の目が細くなる。


 ヘペニーさんも息を呑んだ。



「つまり……視ることが引き金?」


「たぶん」



 俺は小さく頷く。



「俺も風神様の力で守られました」


「だから、完全には書き換わらなかった」



 キリム教授は黒い影へ視線を向けた。



 ほんの一瞬ーー



「……!」



 教授の瞳が揺れる。



「私は……」



 言葉が止まった。



 数秒ーー



 教授はゆっくりと息を吐く。



「なるほど……」


「視ることで、何かが乱されている」



 ルキは静かに息を吸った。



「……試してみる」



「無理するな」



 キリム教授が低く言う。



「深く繋ぐつもりはない」



 ルキは小さく頷いた。



「痕の流れだけを見る」



 石床へ指先を添えると、淡い白青の根が床の亀裂を伝って伸びていく。



 俺はその様子を見守った。



 その時だった。



「……む?」



 キリム教授の眉が再び寄る。



「私は……」



 教授の声が止まった。



 ほぼ同時に、ルキの肩も小さく震える。



「え……?」



 伸ばしていた根が、一瞬だけ違う方向へ逸れた。



「ルキ!」



「ご、ごめん……」


「今、一瞬……何を探ってたのか……」



 彼女は苦しそうに額を押さえる。



 数秒ーー



「あ……」



 ルキが大きく息を吸った。



「戻った……」



 だが、安堵する暇はなかった。



 ヘペニーさんも再び足を止める。



「待って……」



「今度は何?」



 ミドが振り向いた。



「あなた……誰だった?」



 空気が凍りつく。



 数秒ーー



「……違う」



 ヘペニーさんは額を押さえ、大きく息を吐いた。



「また戻った……」



 俺は思わず拳を握り締める。



(繰り返してる)



(話している間も)



(考えている間も)



(止まってない……!)



 ルキは呼吸を整え、もう一度石床へ手を添えた。



 今度は目を閉じたまま、細い根だけをゆっくりと床の奥へ伸ばしていく。



「見るな……」


「流れだけ……」



 白青い根が石床を伝い、崩れた術式痕の間を這っていく。



 数秒ーー



 ルキの肩がぴくりと震えた。



「見つけた……」



「何が見えた?」



 俺が問い掛ける。



 ルキはゆっくりと首を振った。



「違う……」


「見えたんじゃない」


「触れたの」



 苦しそうに息を吐く。



「痕は残ってる」


「全部」



「でも……」



 そこで言葉が止まった。



 ルキの表情から、ほんの一瞬だけ焦点が抜ける。



「私は……」



「ルキ!」



 俺は咄嗟に肩へ手を伸ばした。



 その瞬間、彼女ははっと息を吸う。



「あ……」


「ごめん」



「また、一瞬だけ分からなくなった」



 額には細かな汗が滲んでいた。



 それでもルキは、石床へ伸びる根から意識を逸らさない。



「でも今、はっきり分かった」



「消されてるんじゃない」


「元の痕が、そのまま別の痕で覆われてる」



 俺の胸が大きく脈打った。



(覆われてる……)



 サフィールの言葉が、もう一度頭をよぎる。



『お前の痕跡を、少し留めただけだ』



(あれは記憶じゃない)



(俺自身の痕跡が、別の痕で覆われないように……)



(風で繋ぎ止めてくれたんだ)



「覆う……」



 キリム教授がその一言を繰り返した。



「痕跡を……別の痕跡で……」



 その視線が黒い影へ向く。



「……!」



 教授の言葉が止まった。



 さっきまで浮かんでいた確信だけが、表情から抜け落ちる。



「私は……」


「何を……」



「教授!」



 俺が声を掛ける。



 数秒ーー



 教授はゆっくりと息を吐いた。



「……そうか」



 額へ手を当てたまま、小さく呟く。



「思い出した……」


「学院の禁書庫で、一度だけ読んだ記録だ」



「古代禁忌魔獣……」



 そこで再び言葉が途切れる。



「っ……!」



 ヘペニーさんが息を呑んだ。



「また?」



 教授は苦しそうに額を押さえる。



「名前が……出てこない」



「教授!」



 俺は思わず声を張った。



「……くっ」



 キリム教授は荒く息を吐きながら、必死に記憶を辿る。



「学院の……禁書庫」


「最古層に保管されていた……古代文献」



 そこまで言って、再び視線が宙をさまよう。



「名前だ……」


「名前が思い出せない……!」



 ルキが小さく呟く。



「名前まで……」



「違う」



 教授は苦しそうに首を振った。



「名前だけじゃない」


「読むたびに、記録そのものが頭から滑り落ちる」



 ミドが眉をひそめる。



「そんな文献、読めるのかよ」



 教授はかすかに笑う。



「だから……禁書なんだ」


「読む者すら、安全ではない」



 その言葉を言い切る前だった。



 床へ沈んでいた黒霧が、ゆっくりと逆流を始める。



 石床の亀裂という亀裂から、黒い糸が一本、また一本と浮かび上がった。



「……動いた」



 俺が息を呑む。



 ルキも根を通して流れを探る。



「違う」


「集まってる……」



 俺はその黒い流れを見つめ、ゆっくりと顔を上げた。



「教授たちは、思い出せないんじゃない」


「思い出したものを、また見失ってる」



 ルキが小さく頷く。



「うん」


「根で探って分かった」



「元の痕は残ってる」


「でも、その上から違う痕が重なってるの」



 キリム教授が額を押さえた。



「覆われて……いるのか」



 俺は胸元へ手を添える。



 六角切面箱の奥には、サフィールが残した風がまだ微かに息づいていた。



(留める……)



(風は流すだけじゃない)



(絡みついた流れを……)



(剥がすこともできる)



 俺は息を吸った。



「ルキ」



「うん」



「元の痕だけ、追えるか?」



 ルキは一瞬だけ驚き、すぐに力強く頷いた。



「できる」


「重なってる流れだけなら分かる」



「お願い」



 ルキは再び石床へ手を添えた。



 淡い根が床を這い、白青い光が本来の痕跡だけをなぞっていく。



「イラン!」


「右!」



 その瞬間ーー



 俺は風環を大きく放たなかった。



 細く。


 柔らかく。



 風を刃ではなく、流れとして解き放つ。



 青白い風が黒霧へ入り込み、覆い被さっていた痕だけをゆっくりと引き剥がしていく。



 斬らない。


 裂かない。


 押し返さない。



 ただ、流れを変える。



 黒霧が小さく揺れた。



「……効いてる」



 ルキが息を呑む。



「重なってた痕が……剥がれていく……!」



 俺はさらに風を細く操る。



 本来の痕まで乱さないように、表面へ重なった黒い痕だけを薄く流していく。



 その瞬間ーー



「……!」



 キリム教授が大きく息を吸った。



 額へ当てていた手が、ゆっくりと下りる。



「戻った……」


「今度は、途切れていない」



 ヘペニーさんも目を瞬かせた。



「あれ……?」



 言葉が止まらない。



 先ほどまで何度も繰り返していた違和感が消えている。



 ミドも義肢を握り直した。



「身体もずれねぇ」



 義肢は狙った通りに動く。



 キリム教授はゆっくりと俺を見る。



 その瞳には、失われていた思考の連続性が戻っていた。



「そうか……」


「そういうことだったのか」



 俺は風を止めなかった。



 まだ黒霧は残っている。



 少しでも止めれば、再び覆われる。



 キリム教授は息を整える。



「今なら……思い出せる」



 黒い影を真っ直ぐ見据えた。



「……間違いない」


「古代禁忌魔獣」



「マフェートトだ」



 その名が告げられた瞬間、誰も口を開かなかった。



 灰霧の奥に立つ黒い影が、まるで自分の名を呼ばれたことを理解したように揺らぐ。



「学院最古層の禁書庫に、一度だけ記録が残っていた」


「古代文明末期に確認された禁忌存在」



「記憶を奪う魔獣ではない」


「痕跡そのものへ干渉しーー」



 その時だった。



 黒い影の輪郭が、ゆっくりと崩れ始めた。



 いやーー



 崩れているのではない。



 剥がれていた。



 人のようにも獣のようにも見えていた黒い外殻が、一枚、また一枚と音もなく剥がれ落ちていく。



 床へ落ちる前に、黒片は灰となって消えた。



「……!」



 ルキが息を呑む。



「まだ終わってない!」



 外殻が剥がれるたび、その内側から濃い灰紫色の霧が噴き出した。



 灰霧とも、先ほどまでの黒霧とも違う。



 もっと重く、もっと静かで、風そのものを拒絶するような色だった。



 六角切面箱が、かすかに震えた。



 その微かな振動だけで、俺の背筋を冷たいものが走る。



「まずい……」



 キリム教授の顔色が変わる。



「第一形態は……」


「外殻だったのか……」



 黒い外殻が、一枚ずつ剥がれ落ちていく。



 砕ける音も、軋む音もない。



 ただ剥がれた欠片だけが灰となり、風にも乗らず消えていった。



 その奥から、一つの影が姿を現す。



 誰も動けなかった。



 それは異獣だった。



 けれど、今まで見てきた異獣とは何もかもが違っていた。



 全身は半透明の灰白色。



 霧とも硝子とも違う質感を持つ幾重もの薄膜が、人型を保つように揺れている。



 胸の中央だけが、ぽっかりと空いていた。



 そこに心臓はない。



 黒。


 白。


 灰。



 無数の細い痕跡だけが、渦を巻きながら回転している。



 歩いた跡。


 裂けた跡。


 焼けた跡。


 血の跡。


 文字の跡。



 何百、何千という痕跡が、一つの空洞の中で絡み合っていた。



「顔が……」



 ルキが小さく呟く。



 頭部には、顔と呼べるものが存在しなかった。



 縦に走る一本の裂け目。



 その奥で、一瞬だけ誰かの目が現れる。



 老人。


 少女。


 防衛隊員。


 子供。



 次の瞬間には、もう別の顔へ変わっている。



 誰一人、同じ顔は二度と現れなかった。



 両腕は異様に長い。



 その先にある指は三本。



 細く鋭く、まるで文字を刻む筆先のようだった。



 足元には影がない。



 代わりに灰白い霧だけが漂い、床へ触れているはずなのに一切の足音を残さない。



 背後では六本の半透明の帯が、風もない空間をゆっくりと漂っていた。



 布ではない。


 霧でもない。



 近くで見れば、それは無数の痕跡そのものだった。



 誰かが歩いた足跡。


 振るわれた剣筋。


 焼け焦げた術式。


 失われた文字。



 何もかもが細長い帯となり、その背中から流れていた。



 キリム教授の表情が変わる。



「……違う」


 教授はゆっくりと首を振った。


 その表情から、わずかに血の気が引いていく。


「これこそが……」


「古代禁忌魔獣――マフェートト」


 その名が響いた瞬間ーー



 胸の空洞で回り続けていた無数の痕跡が、ゆっくりと回転を速め始めた。



 誰も動かなかった。



 いや、動けなかった。



 風は吹いていない。



 それなのに、背後の六本の帯だけがゆっくりと揺れている。



 まるで、そこにいる全員の痕跡を探しているかのように。



 三本の細長い指が持ち上がる。



 何かを掴むわけでもない。


 振り下ろすわけでもない。



 ただ、こちらへ向けられただけだった。



 胸の奥が、理由もなく強く脈打つ。



(……来る)



 俺は無意識に風環へ手を添えた。



  裂け目の奥で、幾つもの顔が一斉にこちらを見る。


 先ほどまで次々と入れ替わっていた無数の顔が、今度は同時にこちらへ視線を向けていた。


 そのすべてが、音もなく口を開いた。


 けれど、声だけは聞こえない。



 キリム教授が小さく息を呑む。



「全員ーー」



 その声が終わるより早く、胸の空洞が深く脈を打った。



 


>第75話を最後まで読んでいただき、

ありがとうございますーー!


今回は、


これまでの異獣との戦いとは、

かなり違う形になりました


殴る、斬る、術式をぶつける


それだけではどうにもならない相手を、


イランたちがどうやって理解し、

どうやって対抗していくのか


書いている途中、


自分でもなかなか面倒な相手を作ったなぁ……


と思いましたw


(笑


そして今回、


「痕跡」というものを通して、


名前や記憶だけではなく、


誰かと誰かが一緒に歩いてきたこと


助けたこと、助けられたこと


そこに確かに存在していたというものまで、


少しずつ形として見え始めました


消えたように見えるものは、


本当に消えてしまったのか


それとも、


ただ見えなくなっているだけなのかーー


古の禁忌についても、


まだ見えているのはほんの一部です


そして最後、


どうやらマフェートトは、


また何か面倒なことを始めそうです……


アハハッーー


♪ \(^ω^\ )

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