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失われた断片 ― 風の環 ―  作者: 半々月光
ビグトラス島編

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第74話――途絶した接続――心理観測区画

>第74話ですーー!


前回、


第一研究区画で起きた異常を受けて、


物語は再びリプレイトのいる場所へ戻ります


外側では何が起きているのか


そして、


リプレイト本人には、

今どんな景色が見えているのか


同じ一つの出来事でも、


外から見えるものと、

本人だけが感じているものは少し違います


今回はその二つを行き来しながら、


少しずつ奥へ進んでいきます


ここで何が待っているのかは、


まだ何も言わずにおきマウスw


第74話


「途絶した接続――心理観測区画」


よろしくお願いしますーー!


(^∇^)ノ♪

時刻:3670シヴン年12月25日 PM 12:28

場所:ビグトラス遠古学院・地下第一研究区画・第一解析室


第二解析室を飛び出したレイヴァンは、学院術士に案内されるまま、地下第一研究区画の通路を駆け抜けた。


 重い扉が開く。


 その奥では、セレスティアが術式盤の前に立ち、何度も再接続を試みていた。


 装置の中では、リプレイトが静かに立ったまま、まったく反応を示さない。


「状況は」


 レイヴァンの低い声が響く。


 セレスティアは振り返らず、術式盤から視線を離さないまま答えた。


「心理観測術式との接続が完全に途絶しています」


「再接続、外部通信、意識層への呼びかけ」


「すべて反応がありません」


 レイヴァンはすぐに携行用解析装置を取り出し、心理観測装置の脇へ設置した。


 銀色の術式環が幾重にも開き、リプレイトの周囲へ淡い光を伸ばしていく。


「能脈接続を増幅します」


「内部反応を拾えるか確認してください」


「はい」


 セレスティアが即座に術式を組み替える。


 装置の周囲に浮かぶ術式環が震え、リプレイトの胸元へ細い光が伸びていった。


 しかしーー


 バチッ。


 光は途中で弾かれた。


 術式盤に赤い文字が再び浮かび上がる。


 《接続不能》


 プリヴィは両手を握り締め、唇を震わせた。


「リプレイト……」


 その時、解析室の扉が静かに開いた。


 入ってきたのは、校長だった。


 室内にいた学院術士たちが、一斉に姿勢を正す。


「現在の状態は」


 短い問いだった。


 レイヴァンは携行用解析装置から視線を離さず、静かに答えた。


「装置の暴走ではありません」


「外部干渉の痕跡も、現時点では確認できません」


「リプレイト本人の能脈と、胸元の何かが深く結びついています」


 校長は目を細めた。


「彼が装置に入る前、何か異常はあったか」


 セレスティアは一瞬だけ考え、静かに首を横へ振る。


「大きな異常はありませんでした」


「ただ……」


 彼女の視線が、装置の中にいるリプレイトの胸元へ向かう。


「彼は最初からずっと、胸元の徽環を大切そうに抱えていました」


「まるで、手放してはいけないもののように……」


 そこで、セレスティアの表情が僅かに変わった。


「まさか……」


 彼女は振り返り、プリヴィへ視線を向ける。


「プリヴィさん」


「あの徽環は、リプレイトさん自身のものではありませんね?」


 プリヴィの肩が震えた。


 握り締めていた手に、さらに力がこもる。


「……はい」


 小さな声が、解析室へ落ちる。


「あれは……」


「バライト先輩の徽環です」


 その名を聞いた瞬間、レイヴァンの指が止まった。


 セレスティアも息を呑む。


 校長は何も言わず、静かにプリヴィを見つめた。


 プリヴィは震える声で、ゆっくりと話し始めた。


 風穴で何が起きたのか。


 リクトを守るために、バライトが前へ出たこと。


 最後まで固定術式を維持し、崩れる足場を支え続けたこと。


 そして、リプレイトへ透明な無属性徽環を託したこと。


 言葉を重ねるたび、プリヴィの声は細くなっていった。


「バライト先輩は……」


「最後に、リプレイトに言ったんです」


「もう遠慮するなって……」


 解析室に、重い沈黙が落ちた。


 校長は静かに目を伏せる。


 セレスティアの頬を、一筋の涙が伝った。


 レイヴァンは奥歯を噛み締め、握り締めた拳を震わせる。


 誰もすぐには言葉を返せなかった。


 やがて、校長が小さく息を吐いた。


「……そうか」


 その声は深く、静かだった。


「よく話してくれた」


「つらかっただろう」


 校長はプリヴィの前で膝を折る。


 プリヴィは驚いたように顔を上げた。


 校長はそっと手を伸ばし、彼女の目元に残った涙を指先で静かに拭った。


「君たちは、本当によく戻ってきた」


「だから今は、自分を責めなくていい」


「心配するな」


 プリヴィの瞳が揺れる。


「校長……」


 校長はゆっくりと立ち上がり、再び装置へ向き直った。


 その表情から、先ほどまでの柔らかさが消える。


「おそらくこれは、強い残留思念とリプレイトの能脈が、徽環を介して共鳴している」


「強制切断は危険だ」


 レイヴァンが頷く。


「同意します」


「今切断すれば、リプレイト本人の能脈を傷つける可能性があります」


 校長は短く頷き、二人の副教授へ指示を飛ばした。


「レイヴァン」


「能脈接続の増幅を続けろ」


「はい」


「セレスティア」


「意識深層の反応を観測し続けろ」


「一瞬たりとも見逃すな」


「はい!」


 二人の副教授は同時に応じ、すぐに術式盤へ向き直った。


レイヴァンの携行用解析装置が、さらに低く唸りを上げる。


 幾重もの銀色の術式環が開き、リプレイトの周囲へ淡い光を重ねていった。


 セレスティアは術式盤へ指を走らせる。


「意識深層、第一層から第三層まで反応なし」


「第四層も……だめです」


 赤い文字は変わらない。


 《接続不能》


 それでも、その奥でーー


 リプレイトの胸元に抱かれた透明な徽環だけが、淡く、淡く光を放っていた。


 校長はその光を見つめ、僅かに目を細める。


「焦るな」


「こちらが無理に扉を開ければ、中にいる彼を傷つける」


 レイヴァンは奥歯を噛み締めたまま頷く。


「増幅を安定域で維持します」


 セレスティアも涙を拭い、術式盤へ視線を戻した。


「意識深層の反応、監視を継続します」


 プリヴィは装置の前で、震える両手を握り締めている。


 届かないと分かっていても、彼女は小さく呟いた。


「リプレイト……」


「お願い……」


「戻ってきて……」


 その声は確かに部屋の中へ響いた。


 けれど、リプレイトのいる場所には届かない。


 意識の奥。


 能脈のさらに深い場所。


 そこには、白い闇だけが広がっていた。


 上もない。


 下もない。


 風もない。


 音もない。


 ただ、どこまでも終わりの見えない白が、リプレイトの周囲を満たしている。


「……ここは」


 リプレイトはゆっくりと顔を上げた。


 足元に地面はない。


 それでも身体は沈まず、見えない何かに支えられるようにその場へ立っていた。


「セレスティア副教授……?」


 返事はない。


「プリヴィ……?」


 声は白の奥へ溶け、すぐに消えた。


「誰か……聞こえるか?」


 何も返ってこない。


 リプレイトは胸元へ視線を落とす。


 そこには、透明な無属性徽環があった。


 バライトから託された、あの徽環。


 光を持たないはずの輪郭が、今は淡く揺れている。


「……バライト」


 名前を呼んだ瞬間、徽環の光がわずかに強くなった。


 リプレイトは息を呑む。


 次の瞬間ーー


 白の向こうに、小さな光景が浮かび上がった。


 環風風穴。


 風球競技の訓練場。


 何度も風球を追いかけ、何度も姿勢を崩し、それでも前へ進もうとしていた頃の自分が見える。


 その少し後ろで、バライトが腕を組んで立っていた。


 声はない。


 ただ、口元だけがわずかに動いている。


 リプレイトはその表情を見て、胸が痛んだ。


 あの時ーー


 きっと気付かれていた。


 最後のところで、自分が力を抜いたこと。


 誰かを追い越すのが怖くて、誰かに嫌われるのが怖くて、前へ出ることから逃げたこと。


「……俺は」


 光景が揺れる。


 次に現れたのは、崩れた岩場だった。


 リクトを庇うように立つバライト。


 砕ける固定術式。


 飛び散る石片。


 それでも彼は、最後まで足場を支え続けていた。


 リプレイトの喉が詰まる。


「やめろ……」


「もう、見せないでくれ……」


 だが、光景は消えない。


 バライトが振り返る。


 透明な無属性徽環を差し出す。


 その唇が、ゆっくりと動いた。


 もう遠慮するな。


 声は聞こえない。


 けれど、その言葉だけははっきりと胸へ刺さった。


 リプレイトは膝をつく。


 果てのない白の中で、両手を握り締めた。


「俺は……」


「また何もできなかった」


「リクトを守れなかった」


「バライトを止められなかった」


「託されたのに……」


 透明な徽環が、静かに震えた。


「俺はまだ……」


 声が掠れる。


「何をすればいいのかも、分からないんだ……」


 周囲の白が、ゆっくりと波打つ。


 遠くで、誰かの足音が聞こえた。


 一歩。


 また一歩。


 音のないはずの空間に、その足音だけが確かに響く。


 リプレイトは顔を上げた。


 遠くで淡い透明な光が集まり始める。


 人影のような輪郭。


 けれど、はっきりとは見えない。


 その影は、リプレイトの前で足を止めた。


 そしてーー


 聞き慣れた声が、静かに響いた。


「……まだ」


「そんな顔してんのか」



「バライト……?」


 リプレイトの声が震えた。


 淡い光は、ゆっくりと人の輪郭を形づくっていく。


 短く乱れた髪。


 少しだけ傾いた肩。


 どこか不敵に笑う口元。


 そこに立っていたのは、もう二度と会えないはずのバライトの姿だった。


「バライト!」


 リプレイトは反射的に手を伸ばす。


 だが、指先はその身体へ触れることなく、淡い光の中をすり抜けた。


「……っ」


 届かない。


 掴めない。


 そこにいるのに、そこにはいない。


 リプレイトは唇を震わせた。


「お前……」


「本当に……」


 言葉が続かない。


 バライトは、ただリプレイトを見下ろしていた。


 その瞳には、生きている者の熱はない。


 けれど、リプレイトへ向けられた何かだけは確かにそこにあった。


「泣きそうな顔すんなよ」


 聞き慣れた声が、果てのない白の中へ落ちる。


「似合わねぇぞ」


 リプレイトは息を呑んだ。


「……そんなこと」


「言うなよ……」


 視界が滲む。


「何でだよ……」


「何で、お前が……」


 バライトは答えない。


 ただ、少しだけ口元を上げる。


 まるで最初から、その問いに答えるつもりなどないように。


 リプレイトは拳を握り締めた。


「答えろよ……!」


「俺はまだ、何も聞けてない……!」


「何で俺に渡したんだよ!」


「何で俺なんだよ!」


 声が白の中に反響する。


 しかし、バライトの輪郭は揺らがなかった。


 返ってきたのは、問いへの答えではなかった。


「お前さ」


「いつまで、人の後ろに立ってるつもりだ?」


 リプレイトの肩が震える。


「……え?」


 周囲に、再び光景が浮かび上がった。


 風球競技の訓練。


 最後の一歩で力を抜く自分。


 誰かの順位を奪わないように、誰かの期待を壊さないように、いつも少しだけ後ろへ下がっていた自分。


 バライトはその光景を見つめ、静かに言った。


「気付いてないと思ったか?」


 リプレイトは何も言えなかった。


 胸の奥を見透かされたようだった。


「お前は弱くない」


「才能がないわけでもない」


「ただ、前へ出るたびに勝手に止まる」


「誰かを越えそうになると、勝手に力を抜く」


 その声が、深く胸へ突き刺さる。


「それを優しさだと思ってるなら、勘違いだぞ」


 リプレイトは歯を食いしばる。


「……違う」


「俺は……」


「俺はただ……」


 言いかけた言葉は、喉の奥で止まった。


 違わない。


 本当は分かっていた。


 怖かったのだ。


 誰かより前へ出ることが。


 誰かの期待を背負うことが。


 自分が選ばれることが。


 バライトは、ゆっくりと一歩近づいた。


「リプレイト」


 その声に、リプレイトは顔を上げる。


「俺の徽環を持ってるからって、俺になる必要はない」


「俺の代わりになる必要もない」


 淡い光が、リプレイトの胸元で揺れる。


「お前は」


「お前のまま、前に出ろ」


 リプレイトの瞳が揺れた。


「俺の……まま……」


 バライトは小さく笑った。


 あの日と同じように。


 環風風穴で、何度も背中越しに聞いた声で。


「だから聞くぞ」


 周囲の白が、ゆっくりと収束していく。


 透明な徽環の輪郭が、リプレイトの胸元で強く輝いた。


 バライトは真正面からリプレイトを見つめる。

「お前は誰だ」


 その問いが、白い闇の中心へ深く沈み込んでいく。


 リプレイトは唇を震わせた。


「俺は……」


 胸元の透明な徽環が、淡い光を揺らす。


「バライトに助けられた人間だ」


 何も起こらない。


 白い闇は静かなまま。


 バライトも何も言わず、ただリプレイトを見つめていた。


 その沈黙だけが、今の答えではないことを告げているようだった。


 リプレイトは拳を強く握り締める。


「俺は……」


「お前の徽環を預かった人間だ」


 それでも、何も変わらない。


 足元の感覚も戻らず、胸元の徽環だけが淡く揺れている。


 バライトは小さく息を吐いた。


「違うな」


 その一言に、リプレイトの表情が歪む。


「じゃあ、何だよ……!」


「俺は何て答えればいいんだよ……!」


 抑えていた声が、一気に荒くなる。


「俺は守れなかった」


「止められなかった」


「お前から託されたものだって、どうすればいいのか分からない!」


 リプレイトは唇を強く噛み締め、握った拳にさらに力を込めた。


 指先が掌へ食い込み、肩が小さく震える。


「そんな俺が、何を名乗ればいいんだよ……!」


 バライトは怒らなかった。


 責めもしない。


 ただ、いつものように少しだけ口元を上げた。


「だから言ってるだろ」


「俺になるな」


 リプレイトの肩が止まる。


「助けられた誰かでもない」


「預かった誰かでもない」


「守れなかった誰かでもない」


 バライトは一歩近づいた。


 その輪郭が、淡い光となって揺れる。


「お前自身の名前を言え」


 白い闇が、ゆっくりと静まり返っていく。


 過去の光景が、一つずつ消えていった。


 風穴。


 崩れた岩場。


 最後に差し出された徽環。


 すべてが白の中へ溶けていく。


 残ったのは、リプレイトとバライトだけだった。


 リプレイトはゆっくりと胸元へ手を当てる。


 透明な徽環が、掌の下で小さく震えていた。


 温かい。


 けれど、それは誰かに引き戻される温もりではなかった。


 自分の奥から、ゆっくりと灯り始める熱だった。


「俺は……」


 掠れた声が漏れる。


 リプレイトは一度強く唇を結び、握っていた拳をゆっくりと開いた。


 そして顔を上げる。


「俺は……」


「リプレイトだ」


 その瞬間ーー


 白い闇が、音もなく震えた。


 胸元の透明な徽環から、幾筋もの光が溢れ出す。


 無色の光。


 形を持たない光。


 それでも確かに、リプレイト自身の能脈へ向かって流れ込んでいく。


 バライトはその光を見つめ、満足そうに笑った。


「……やっと言ったな」


 リプレイトの握り締めていた拳から、ゆっくりと力が抜けていく。


 張り詰めていた表情も、ほんの少しだけ和らいだ。


「バライト……」


 バライトの輪郭が、少しずつ薄れていく。


 リプレイトは反射的に手を伸ばした。


「待て……!」


「まだ……まだ話したいことが……!」


 けれど、指先はやはり届かない。


 バライトはただ、あの日と同じ顔で笑っていた。


「もう遠慮するな」


 その言葉だけが、白い闇の中にはっきりと響いた。


>第74話を最後まで読んでいただき、

ありがとうございますーー!


今回は、


リプレイトの内側で起きていたことを、

かなり長めに描いてみました


バライトの徽環を受け取り、


その存在をずっと胸元に抱えていたリプレイト


けれど、


誰かから何かを託されたからといって、


その人の代わりにならなければいけないわけではありません


今回書きたかったのは、


「何を受け取ったのか」だけではなく、


それを受け取ったあと、


自分は誰として前へ進むのかという部分でした


そして現れたバライトも、


今ここで答えを全部説明してくれる存在ではありません


あの姿が何だったのか


なぜあの言葉が残っていたのか


そのあたりも、


これから少しずつ見えてくると思います


ただ一つ、


ずっと誰かの背中を追い続けてきたリプレイトが、


初めて自分自身の名前を口にしたこと


今回はそこを、

大切に書きたかった一話でした


そしてもちろんーー


これで全部終わったわけではありマウスw


♪ \(^ω^\ )

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