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失われた断片 ― 風の環 ―  作者: 半々月光
ビグトラス島編

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第72話――黒殻装置――その空間で

>第72話ですーー!


物語は再び本編へ戻り、


今回から舞台は、

学院地下の第一研究区画へ


これまで学院の中でも、


教室や研究棟、治療区画など、

いろいろな場所が登場してきましたが、


まだ描いていない場所はたくさんあります


同じ学院の中でも、


場所が変われば、

そこに流れる空気も少しずつ違うもの


今回はリプレイトとプリヴィと一緒に、


もう少しだけ学院の奥へ進んでみたいと思いますw


第72話、


「黒殻装置――その空間で」


よろしくお願いしますーー!


♪ \(^ω^\ )

時刻:3670シヴン年12月25日 AM 11:32

場所:ビグトラス遠古学院・地下第一研究区画・第一解析室


 リプレイトとプリヴィは、セレスティアに案内されながら、地下第一研究区画の奥へ歩いていた。


 治療区画とは違い、この一帯は静かな空気に包まれている。


 壁一面には幾重もの術式盤が並び、淡い光が規則正しく脈打っていた。


 通路の先では学院術士たちが慌ただしく資料を運び、顕影術式の準備を進めている。


 やがて、セレスティアが一つの部屋の前で足を止めた。


「こちらです」


 扉が静かに開く。


 室内中央には白い術式台。


 その周囲には、能脈観測用の術式環が幾重にも浮かんでいた。


 

「正式な天賦顕影の前に、まずは能脈校正を行います」


「その後、簡単な心理確認を終えてから、顕影へ進みます」


セレスティアは振り返り、二人を見つめながら穏やかに微笑んだ。


 リプレイトとプリヴィは静かに頷いた。



セレスティアは術式台へ歩み寄ると、周囲へ浮かぶ術式環を一つずつ起動させた。


 淡い白緑色の光が静かに広がり、部屋全体を柔らかく包み込んでいく。


「まずは能脈校正から始めます」


「顕影そのものではありませんので、力を込める必要はありません」


「普段通りに呼吸をしてください」


「リプレイトさん、あなたから先に始めましょう」


「はい」


 リプレイトは静かに頷く。


「では、こちらへ」


 リプレイトは術式台の中央へ立った。


 セレスティアは両手を胸元で静かに重ね、淡く術式を展開する。


 幾重もの白緑色の術式環が、ゆっくりとリプレイトの身体を取り囲んだ。


 足元から柔らかな光が立ち昇る。


 胸元


 両肩


 両腕


 額


 それぞれの位置へ小さな光環が浮かび、一定の間隔で淡く明滅を繰り返した。


 プリヴィは少し離れた場所から、静かにその様子を見守る。


「緊張しなくても大丈夫ですよ」


 セレスティアは穏やかに微笑んだ。


「これは能脈の流れと、現在の安定状態を確認するための術式です」


「顕影に耐えられる状態かどうか、事前に確認していきます」


 リプレイトはゆっくり息を整え、静かに目を閉じた。


 術式環の光が、少しずつ一定のリズムを刻み始める。


 セレスティアは術式盤へ視線を移した。


「それではーー」


「能脈観測を開始します」



淡い光が、リプレイトの身体をゆっくりと包み込む。


 術式環は一定の速度で回転し、足元から胸元、そして頭上へ向かって順番に能脈を読み取っていく。


 部屋の片隅では、術式盤へ次々と淡い光文字が映し出されていた。


 『能脈流速』


 『循環安定率』


 『魔力反応』


 『共鳴波形』


 セレスティアは静かに術式盤へ視線を向け、一つひとつ確認していく。


「……流速、正常」


「循環反応も安定しています」


「魔力の偏りもありません」


 リプレイトは静かに目を閉じたまま、ゆっくりと呼吸を続ける。


「そのままで大丈夫ですよ」


「肩の力を抜いて、自然に呼吸を続けてください」


「はい」


 術式環の回転が、少しずつ速度を落としていく。


 やがて最後の術式環が淡く輝くと、静かに空中へ溶けるように消えていった。


 セレスティアは小さく微笑む。


「お疲れさまでした」


「能脈校正は問題ありません」


 リプレイトは静かに息を吐き、術式台から降りる。


「ありがとうございます」


 セレスティアは術式盤へ最後の記録を書き込み、小さく頷いた。


「では、次は簡単な心理確認へ移ります」



セレスティアは部屋の奥へ歩み寄り、壁際に置かれていた一つの装置へ静かに手を添えた。


 ブゥンーー


 低い駆動音とともに、黒い外殻がゆっくりと展開していく。


 装置全体は楕円形をしており、人一人が立てるほどの大きさだった。


 艶のない黒い外殻には、樹木の根を思わせる細かな溝が幾重にも刻まれている。


 その溝の奥では淡い蛍緑色の光が、まるで樹脈を流れる養分のように、ゆっくりと装置全体を巡っていた。


 静かな鼓動にも似た明滅が、一定の間隔で繰り返される。


 リプレイトは思わずその装置を見つめた。


「これは……」


 セレスティアは穏やかに微笑み、装置の表面を流れる淡い蛍緑色の光へ静かに視線を向けた。


「学院で使用している心理観測術式です」


「能脈だけでは分からない、精神の安定状態を確認します」


「危険なものではありませんので、安心してください」


 そう言って、装置の中央へ視線を向ける。


「リプレイトさん」


「こちらへどうぞ」


 リプレイトは装置を見つめたまま、小さく息を呑んだ。


 胸元の透明な無属性徽環へ、無意識に視線が落ちる。


 一瞬、足が止まった。


 やがて静かに息を整えると、一歩、また一歩と前へ進み、ゆっくりと装置の中へ足を踏み入れた。


 その瞬間ーー


 ふわりーー


 身体が一瞬だけ浮いたような感覚が走った。


「……!」


 思わず目を見開く。


 外から見れば、人一人が立てる程度しかない装置だった。


 しかし一歩踏み入れた瞬間、周囲の景色が静かに溶け始める。


 黒い外殻は遥か彼方へ遠ざかり、足元には終わりの見えない淡い光路が広がっていた。


 見上げても天井はない。


 左右にも壁は存在せず、果てのない静寂だけがどこまでも続いている。


「……ここは……」


 リプレイトは思わず周囲を見回した。


 外から見れば、ほんの数歩ほどの空間。


 だがその内側は、まるで一つの世界が収められているかのようだった。



リプレイトは思わず立ち止まる。


 どこまで歩いても、果てが見えない。


 振り返る。


 先ほど入ってきた入口も、もう見当たらなかった。


「……え?」


 思わず足元を見る。


 確かに地面へ立っている。


 しかし、踏み締めている感覚は驚くほど軽い。


 まるで何もない空間へ立っているようだった。


 その時だった。


 ブゥンーー


 どこからともなく、低く澄んだ音が空間全体へ響く。


 同時に、周囲を漂っていた淡い光がゆっくりと集まり始めた。


 一本、また一本。


 細い螢緑色の光が、大樹の根のように足元から広がっていく。


 それは地面ではなく、空間そのものへ根を張るように、静かに枝分かれを繰り返していた。


 やがて無数の樹脈はリプレイトを中心に円を描き、一つの巨大な術式環を形成していく。


 静寂の中、柔らかな女性の声だけが空間全体へ響いた。


『これより、心理観測を開始します』


『力を抜き、自然のまま、お進みください』


 それは、セレスティアの声だった。


 リプレイトは思わず周囲を見回す。


 しかし、どこにもその姿は見えない。


 その穏やかな声だけは、不思議とすぐ近くから聞こえてくるようだった。


 リプレイトは小さく息を整える。


「……分かりました」



リプレイトはゆっくりと一歩を踏み出した。


 足元へ広がる樹脈は、歩みに合わせるように淡く脈打つ。


 螢緑色の光は決して眩しくはない。


 だが一歩進むたびに、まるで心の鼓動へ呼応するように静かに明滅を繰り返していた。


『心を落ち着けてください』


『ありのままの自分で構いません』


 セレスティアの穏やかな声だけが、静かな空間へ優しく響く。


 リプレイトは小さく息を吸い、ゆっくりと吐いた。


 不思議と、先ほどまで胸を締めつけていた重苦しさが少しだけ和らいでいく。


 その時だったーー


 足元の樹脈が、ふっと一度だけ明るく輝いた。


 同時に、周囲の景色が静かに揺らぐ。


 無数の螢緑色の光粒が、空間全体へゆっくりと舞い上がり始めた。


 まるで、風に舞う木漏れ日のようだった。


『能脈反応、安定』


『精神波形、正常範囲』



 セレスティアの声が静かに告げる。


 リプレイトは安堵したように、小さく息を吐いた。


 

静寂がさらに深まる。


 やがて足元を巡っていた樹脈が、ゆっくりと収束を始めた。


 無数に枝分かれしていた螢緑色の光は、一筋、また一筋と中心へ戻っていく。



『第一段階、終了』


『続いて、心理深層観測へ移行します』


 セレスティアの穏やかな声が、再び空間へ響いた。


「心理深層……」


 リプレイトはその言葉を小さく繰り返した。


 その言葉が終わると同時に、空間全体がゆっくりと暗くなり始めた。


 淡く広がっていた白い光は静かに薄れ、代わりに足元を流れる樹脈だけが、より鮮やかな螢緑色を帯びていく。


 一本だった幹は幾重にも枝分かれし、巨大な樹木の根のように果てのない空間を埋め尽くしていった。


 ブゥンーー


 低い鼓動のような音が、一定の間隔で静かに響く。


 それは機械音ではない。


 まるで一つの生命が、ゆっくりと呼吸しているようだった。


 リプレイトは思わず周囲を見回す。


「……何だ、この感じ……」


 胸の奥が、わずかにざわつく。


 言葉では説明できない感情、


 懐かしいような、それでいてどこか近づいてはいけないような感覚。


 ピッーー


 乾いた電子音にも似た音が、いきなり静かな空間へ短く響く。


 リプレイトは思わず足を止めた。


「……?」


 足元を巡っていた螢緑色の樹脈が、一瞬だけ明滅を止める。


 続いて、ゆっくりと流れを変え始めた。


 一本。


 また一本。


 樹脈はリプレイトの身体ではなく、胸元へ集まり始める。


 ずっと胸元に抱いていた、透明な無属性徽環だった。



 徽環そのものには、何の変化も見られない。


 光を放っているわけでもなかった。


 それなのに、心理観測術式だけが、まるで別の対象を観測するように静かに徽環を取り囲んでいく。


 ブゥンーー


 低い振動音が空間全体へ広がった。


 同時に、セレスティアの声が不意に途切れる。


『────』


「……?」


 リプレイトは声の消えた空間へ、ゆっくりと顔を上げた。


「セレスティア副教授?」


 返事はない。


 静寂だけが、果てのない空間を満たしていた。


 その頃――


「……?」


 セレスティアの表情から、穏やかな笑みが消える。


 術式盤へ映し出されていた能脈波形が、一つ、また一つと停止していく……


「そんな……」


 隣にいた学院術士が息を呑んだ。


「副教授!」


「心理観測空間との通信が切断されています!」


「観測術式も応答しません!」


「能脈反応が取得できません!」


 術式盤には、次々と赤い光文字が浮かび上がる。


 《観測不能》


 《通信断》


 《接続先――不明》


 学院術士たちの表情が一変した。


「あり得ません!」


「心理観測術式ですよ!?」


「今まで一度もこんなことは……!」


 セレスティアは術式盤を見つめたまま、静かに息を吸う。


「慌てないでください」


 声だけは、いつもと変わらず落ち着いていた。


「観測術式を再起動します」


 術式盤へ手を添え、術式を再構成する。


 ブゥンーー


 白緑色の術式環が再び展開される。


「通信回復を試みます」


 数秒ーー


 術式盤は静かな駆動音を響かせたまま、何の反応も返さない。


 やがて術式盤中央へ、一行だけ赤い文字が浮かび上がった。


 《接続不能》


 部屋の空気が、一気に張り詰める。


 セレスティアは僅かに眉を寄せ、術式盤から視線を離さなかった。


「副教授!」


「リプレイトさんが……!」


 

 プリヴィは思わず一歩前へ踏み出す。


 胸の奥が、強く締めつけられた。


 バライトを失ったばかりなのに、その悲しみさえ、まだ癒えていないはずなのに――


 どうして、またリプレイトに......


「リプレイト!」


「聞こえてる!?」


 駆け寄ろうとしたプリヴィを、セレスティアは静かに手で制した。


「待ってください」


「今、術式へ触れるのは危険です」


「でも……!」


 プリヴィは唇を強く噛み締めた。


 学院術士の一人が、慌てて振り返る。


「副教授!」


「ルシアン副教授をお呼びしますか!」


 セレスティアは一瞬だけ考え、静かに首を横へ振った。


「いいえ」


「ルシアン副教授は、現在、港区支援のため学院を離れています」


「今は戻るまで待てません」


「校長へ至急報告してください!」


「それから、レイヴァン副教授をお願いします!」


「心理観測術式との接続が、完全に途絶えたことも併せてお伝えください」


「は、はい!」


 学院術士は深く頷くと、慌ただしく部屋を飛び出していった。


 残された術式盤には、なお赤い文字だけが静かに点滅を繰り返していた。


 《接続不能》



>第72話を最後まで読んでいただき、

ありがとうございますーー!


今回は、


能脈校正から心理観測まで、


学院で行われる天賦顕影前の流れを描いてみました


特に黒殻装置については、


単純に「装置の中で検査をする」という形にはしたくなかったので、


外側から見た大きさと、


内部へ入った時に感じる空間そのものの違いを意識して書いています


螢緑色の樹脈が広がり、


どこまで続いているのか分からない空間を歩いていくーー


学院には、


まだこうした表に出ていない場所や設備が、

いろいろありマウスw


そして今回は、


最後まで読んだ方なら、


「……ん?」


となった部分もあったと思います


ただ、


今の段階ではまだ何も言いませんw


ここで見えたものが何なのか


何が起きているのか


それも含めて、


この先の物語の中で見届けてもらえたら嬉しいですーー!


♪ \(^ω^\ )

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