幕間の十八・追いつきたい背中──環風風穴で
>環風風穴といえば、
これまでにも何度か物語の中に登場してきた場所ですが、
今回はまだ学院杯へ向けて練習を重ねていた頃まで、少し時間を戻します。
放課後になれば風穴へ向かい、
何度も飛んでは戻って、また飛び込んでいく。
上手くいかなければ悔しがって、
少し上達すれば、それだけで次の挑戦が楽しみになる。
そんな学生らしい時間も、彼らにはありました。
今回登場するのは、
いつも少し前を飛んでいるバライトと、
その背中へ追いつこうとするリプレイト。
二人が普段どんなふうに練習し、
どんな言葉を交わしていたのか。
本編ではなかなか描けなかった、
二人の放課後を少し覗いてみたいと思います
幕間の十八、始まりマウスーーw
放課後の環風風穴には、今日も絶え間なく風が吹き抜けていた。
風穴の壁面を伝う気流は幾重にも重なり、少しでも流れを読み違えれば、すぐに姿勢を崩して岩壁へ叩きつけられる。
学院杯を目指す学生たちにとって、ここは技術を磨くための最高の訓練場だった。
その風穴を、二つの影が駆け抜ける。
先頭を飛ぶのは、バライト。
迷いのない軌道で風脈を渡り、幾つもの気流を正確に繋ぎながら、滑るように出口へ到達する。
少し遅れて、もう一つの影が風穴を抜けた。
「はぁ……っ!」
リプレイトは着地と同時に片膝をつき、肩で大きく息を繰り返した。
「……やっぱり駄目だ」
悔しそうに俯き、額の汗を拭う。
「全然追いつけない」
バライトは笑った。
「当然だ」
「俺は三年連続一位だからな」
そう言いながら、リプレイトへ手を差し伸べる。
「立て」
リプレイトは苦笑しながらその手を掴み、ゆっくり立ち上がった。
「次はもっと近づいてみせる」
「その意気だ」
バライトは風穴の奥へ視線を向ける。
「でも、お前」
「少し勘違いしてる」
リプレイトが首を傾げた。
「え?」
「速く飛ぼうとし過ぎなんだ」
バライトは足元を流れる風へ視線を落とす。
「速さじゃない」
「まず風を感じろ」
「風に逆らうな」
「風と一緒に流れるんだ」
リプレイトは静かに頷いた。
「……分かった」
「もう一回」
二人は再び風穴へ飛び込む。
リプレイトは教えられた通り、風の流れへ意識を向ける。
だが、一瞬だけ読みを外した。
身体が傾き、岩壁へ肩をぶつける。
「いてっ……!」
それでもすぐ立ち上がる。
「もう一回!」
バライトは笑う。
「そうだ」
「諦めるな」
夕暮れまで、二人は何度も風穴を往復した。
失敗して、立ち上がり、また挑戦する。
その繰り返しだった。
何度目かの挑戦ーー
リプレイトの身体が、今までで一番自然に風へ乗る。
乱れていた姿勢も、少しずつ安定し始めた。
バライトは前を飛びながら、後方を一度だけ振り返る。
(……)
(また最後で少し力を抜いたか)
小さく笑う。
何も言わず、ただそのまま前を向いた。
二人は同時に風穴を抜ける。
やはり先に着いたのは、バライトだった。
少し遅れて、リプレイトも着地する。
「惜しかったな」
「……うん」
「でも」
バライトは頷く。
「悪くない」
「ようやく形になってきた」
その一言に、リプレイトの表情が少しだけ明るくなる。
二人は風穴の出口へ腰を下ろした。
夕陽が島の向こうへ傾き、吹き抜ける風が汗を静かに乾かしていく。
しばらく無言の時間が流れた。
やがて、リプレイトが口を開く。
「学院杯までには」
「今年こそ、絶対に勝つ」
バライトは笑った。
「いいぞ」
「その時は、全力で返り討ちにしてやる」
リプレイトも笑う。
「負けないから」
バライトは立ち上がり、服についた砂を軽く払った。
「学院杯が終わったら」
「飯でも行くか」
リプレイトは少し驚いたように顔を上げる。
「本当?」
「ああ」
「もし勝ったら、甘い物も奢ってやる」
リプレイトは思わず笑った。
「じゃあ、本当に勝たないとな」
バライトは風穴へ向き直る。
「その前に」
「まずは追いついて来い」
そう言って笑うと、再び風穴へ飛び込んだ。
「待って!」
リプレイトも笑いながら、その背中を追い掛ける。
二人の姿は、吹き抜ける風の中へ静かに消えていった。
>幕間の十八、いかがでしたでしょうか。
今回はあえて大きな出来事を入れず、
バライトとリプレイトが普段どんな時間を過ごしていたのかを、そのまま一つの場面として書いてみました。
バライトに追いつこうと何度も挑戦するリプレイトと、
そんな彼へ当たり前のように助言するバライト。
でも、よく見てみると......
どうやらバライトは、リプレイトが思っている以上に色々と気付いていたようですねw
それでも何も言わず、
いつものように競って、笑って、また風穴へ飛び込んでいく。
こういう何でもない時間を書くと、
本編だけでは見えなかった二人の距離感も、少し違って見えてくる気がします。
そして学院杯が終わったら、二人で飯を食べに行く。
勝ったら甘い物も奢る。
そんな何気なく交わされた約束も含めて、
この日の風穴で過ごした時間を覚えていてもらえたら嬉しいですよ〜
(^∇^)ノ♪




