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失われた断片 ― 風の環 ―  作者: 半々月光
ビグトラス島編
55/61

第44話ー夜明けの刻──裂けて増えよ

>今回の更新では、物語が新たな局面へと進みます。


夜明けを迎えようとする広場で、二人がようやく辿り着いた「終わり」の感覚は、次の瞬間には別の不穏さへと変わっていきます。


静けさと絶望が交錯するこの場面は、物語全体の空気を大きく揺さぶるものになるでしょう。


時間:3670シヴン年 12月25日 AM 05:50

場所:ビコトラス島・港区中央広場


「この……しぶてぇ……!」


タリスは歯を食いしばる。


炎剣を無理やり押し込んだままの腕は、もう限界に近い。肩も肘も痺れ、指先の感覚さえ危うい。それでも手を緩めた瞬間にすべてが終わると分かっているから、力を抜くことができなかった。


ガサンも同じだった。


長刀を引き抜く気などまるでない。〈蒼嵐断界〉の流れはなお刀身の周囲に残り、金と蒼が重なって生まれたあの「境」は、いまも裂け目の奥で、何か硬いものを削り続けている。


「タリス、あと一息だ」


「……だったら、中ごと焼き潰す!」


タリスは炎剣をさらに深くねじ込んだ。


赤と金の火が傷口の内側で暴れ、閉じようとしていた肉膜を再び焼き裂く。白い蒸気が一気に噴き上がり、その向こうで、あの黒く濁った脈動が一瞬だけ完全に露わになった。


見えた。


中軸の、さらに奥だ。


ガサンの目が細まる。


「……そこか!」


彼は刀を引かない。


むしろ半歩だけさらに踏み込み、切っ先の角度をわずかに調整する。今度断つべきは外殻でも、裂け目そのものでもない。その奥でなお脈打ち続けている、濁った核そのものだった。


「タリス!」


「分かってる!」


二人の声が、ほとんど同時に重なった。


次の瞬間、ガサンは長刀をさらに深く押し込み、タリスは炎剣を真下へ叩き落とす。蒼と金赤の光が裂口の内部で激しくぶつかり合い、逃げ場を失った圧と熱が、一点へ向かって極限まで収束した。


バリシャハの眼が、かっと見開かれる。


「ガ……」


その声は途中で止まった。


喉奥に溜まっていた濁った響きは、ついに最後まで形にならない。


黒く濁ったあの脈動は、内側からひび割れ始めていた。


一本。

二本。


亀裂は一気に広がり、次の瞬間、蒼と金赤の挟撃に耐えきれず、まるごと砕け散る。


「ガアアアアアア——ッ!!」


その凄惨な絶叫は、広場そのものを引き裂くかのように響き渡った。


だが、それもほんの一瞬だった。


反り返っていたバリシャハの巨体は、ついに限界へ達し、前脚から先に完全に崩れ落ちる。裂けた胸口から腹部へ続く十字の断裂が一気に拡大し、黒紫の鱗が連鎖するように次々と弾け飛んだ。


黒ずんだ血が噴き上がり、重圧を満たしていた紫黒の靄もまた、支えを失ったように乱れながら外へ潰れていく。


バリシャハの巨大な身体は、ついに沈んだ。


前脚はまるで膝をへし折られたように崩れ、そのまま巨体全体が傾ぎ、広場の中央へ重々しく叩きつけられる。

石畳は砕け、砕石と血飛沫が一緒に吹き上がり、崩れた噴水台座の残骸まで激しく揺れた。


それでも、二人はすぐには離れなかった。



ガサンはなおも長刀を押し込んだまま、最後に残った抵抗感が完全に消え去るまで力を緩めない。タリスも同じく、炎剣を傷口へ食い込ませたまま、焼けつくような呼吸を歯の隙間から何度も絞り出していた。



「タリス!最後の一撃だ!」


「おお!くたばれ、化け物!」


次の瞬間、二人は残っていた力のすべてを叩き込んだ。


ガサンは歯を食いしばり、震える腕をなおも押し込みながら長刀をわずかに引いて、裂けた中軸の深さを見極める。そのまま腰を捻り、蒼金の流れを刃へ束ね切った。タリスもまた炎剣を傷口の奥で返し、焼けつくような熱をまとわせたまま、反対側から同じ高さへ狙いを定める。


狙う場所はひとつだった。


まだ奥で脈打っている、あの黒く濁った核。


「今だ!」


「おおおおっ!」


叫びとともに、二人の刃が同時に走る。


ガサンの長刀は左から右へ、タリスの炎剣は右から左へ——裂けた胸口の奥、露出した核心の高さを正確に合わせ、互いに向かい合うように水平に薙ぎ払った。


蒼金と金赤の光が、核の中心で真正面から噛み合う。


その一瞬、黒く濁った脈動が止まった。


次の瞬間、二つの斬撃は交差するのではなく、同じ線の上でひとつに繋がり、核心そのものを横一文字に断ち切った。


バリシャハの巨体が硬直する。


だが、もう遅かった。


核を断たれた瞬間、内側へ押し込まれていた水風と炎の力が一気に均衡を失い、逃げ場をなくしたまま巨体の内部を暴れ狂う。

まず胸から腹へかけて一直線の裂断が走り、次いでその断面の内側から蒼金と金赤の光が一斉に噴き上がった。


「ガラーー」


鈍い破裂音が響く。


真っ二つに裂けた肉体は、そのまま崩れ落ちる前に内部から爆ぜた。黒紫の外殻も、どす黒い血肉も、砕けた骨も、術式の奔流に呑まれて一息に吹き飛び、大きな塊のままではなく、無数の肉片となって広場じゅうへ撒き散らされる。


蒸気と血霧と肉片が同時に噴き上がり、さっきまで中央に立っていた異形の巨体は、もはや原形をとどめないまま四散した。


そして——


広場を押し潰していた重圧が、そこでようやく断ち切れた。


石畳の裂け目を這っていた紫黒の靄が、霧が晴れるみたいにすうっと薄れていく。耳の奥を押していた鈍い圧迫感も、胸の内側へ沈んでいた重さも、少しずつ引いていった。


タリスの肩が、がくりと落ちる。


「……はっ、はぁ……」


笑おうとしても、もう声にならない。


ガサンもゆっくりと長刀を引き抜いた。蒼金の光はそこでようやく弱まり、刃にまとわりついていた流れも静かにほどけていく。


目の前には、原形を失った巨大な肉塊と、広場いっぱいに散った無数の残骸だけが残されていた。


「……終わった、のか」


タリスが掠れた声でそう言う。


ガサンはすぐには答えなかった。



「……少なくとも、今はな......はっ、はあ.....


ガサンの声は低く、ほとんど吐息に近かった。


その直後、タリスがふいに顔を上げた。


崩れた建物の隙間、その向こうに広がる空は、いつの間にか夜の底を越え始めていた。


濃い群青の端には少しずつ灰青が滲み、そのさらに向こうでは、ごく薄い光がゆっくりと輪郭を描き始めている。


夜が明けようとしていた。


ついさっきまで、世界はこの広場だけで閉じていたように思えたのに、空だけは何事もなかったみたいに、静かに朝へ向かっている。



「……朝かよ」


タリスはその場にどさりと腰を下ろし、炎剣を膝の横へ斜めに倒した。肩で大きく息をしながら、それでも口の端だけはなんとか持ち上げる。


「何が“今は”だよ……相変わらず厳しいな、隊長」


「甘く言って外れたら困る」


ガサンも長刀を杖代わりに地へ突き、ようやく片膝をついた。胸の奥はまだ痛み、腕も指も、力を抜いた途端に自分のものじゃないみたいに重かった。それでも、さっきまでのような重圧はもうない。


広場に残っているのは、砕けた石と血の匂い、それから生き残った者だけが吐ける荒い息だけだった。



「最悪の夜だったな」


「まだ終わってなければ、もっと悪い」


「こういう時くらい、少しは黙ってくれてもいいだろ……」


そう言って、タリスは今度こそほんの少しだけ笑った。笑みは薄かったが、それでも確かに笑っていた。


それきり、二人とも口を閉ざした。


ただ互いの乱れた呼吸だけが、崩れた広場の真ん中で途切れ途切れに重なっていく。


しばらくして、タリスが空を見たまま低くこぼした。


「……みんな、もう逃げ切れたよな」


「ああ」


ガサンは短く答える。


「少なくとも、あいつに追いつかれる距離じゃない」


「そっか……じゃあ、まあ……やることはやった、ってことだな」


ガサンは答えなかったが、否定もしなかった。ただ少しずつ明るみ始めた空を見上げたまま、長く張り詰めていたものをようやくゆっくりとほどいていく。


広場にはもう重圧はなかった。


風は弱く、冷たく、砕けた石と血の匂いを静かに攫っていく。


二人はその風に吹かれながら、ほとんど言葉もないまま、ただ夜明けを見つめていた。



どれくらい、そうしていたのかは分からなかった。


荒い呼吸も、痛みも、いつの間にか遠のいていて、ガサンは長刀を抱えたまま、ほとんど意識を失うようにその場へ沈んでいた。


眠ったつもりはない。ただ、張り詰めていたものが切れた瞬間、身体の方が先に限界を迎えていたのだ。


「…………」


静かだった。


さっきまで広場を満たしていた重圧も、咆哮も、血の匂いをかき回す熱も、もうない。

あるのは砕けた石畳の冷たさと、夜明けへ傾いた風だけだった。


そのはずだった。



「……サ、サ……」


どこかで、何かが擦れる音がした。


乾いた石を、濡れたものが引きずるような、ひどく小さな音だった。


「サ……ササ……」


ガサンの意識が、そこでゆっくり浮かび上がる。


瞼は重い。肺の奥もまだ痛む。けれど、その音だけが妙に耳へ残った。


風じゃない。


砕けた石が転がる音でもない。


もっと低く、もっと粘ついた、何かが地面を這うような音だった。


ガサンは眉を寄せ、ゆっくり目を開く。


最初に見えたのは、薄く白み始めた空と、崩れた広場の輪郭だけだった。視界はまだ霞んでいる。

だが、次の瞬間、その霞みの向こうで、広場の中央に散っていたはずの黒い肉片のひとつが、ぴくり、と動いた。


ガサンの呼吸が止まる。


「……っ」


夢じゃない。


見間違いでもない。


砕け、四散したはずのバリシャハの残骸が、黒ずんだ肉片が、石畳の上をじわりと擦りながら、ゆっくりとどこかへ寄っていく。


ひとつだけじゃなかった。


少し離れた場所でも、また別の肉片が震え、砕けた骨の欠片と血の混じった塊が、同じように石の上を這い始めていた。


まるで、ばらばらになったはずの何かが、もう一度ひとつの場所へ戻ろうとしているみたいだった。



「タリス……起きろ」


掠れた声だった。


だが、その一言には、さっきまでにはなかった緊張が戻っていた。


ガサンの視線の先では、広場の中央へ向かって、無数の碎肉がゆっくり、確実に集まり始めていた。



タリスはすぐには動かなかった。


浅い呼吸を繰り返したまま、炎剣に片腕を預けるように座り込んでいる。だが、ガサンの声色がさっきまでとは違うと気づいたのだろう。眉をわずかに寄せ、ゆっくりと顔を上げた。


「……なんだよ」


「見るなとは言わない。だが、すぐ立て」


タリスは舌打ちしながらも視線を追う。


次の瞬間、その顔からかすかな笑いが消えた。


広場の中央へ向かって、四散していた肉片が一つ、また一つと這い寄っていた。大きな塊だけじゃない。削げた鱗の裏にこびりついた血肉、砕けた骨の欠片に絡んだ膜、石畳へ飛び散っていた黒ずんだ臓のような塊まで、まるで目に見えない糸で引かれるように、同じ一点へ集まっていく。


「……おい」


タリスの声が低くなる。


「冗談だろ」


冗談ではなかった。


肉片は寄り集まるだけではない。触れた端からぬめるように繋がり始めていた。血と肉の境目が曖昧になり、ぐずぐずと溶け合いながら、何かひとつの塊へ変わっていく。


その中心が、脈打った。


どくり、と。


一度。


また一度。


重圧は戻っていない。だが、それとは別の、ぞっとするような生理的な嫌悪だけが、広場の空気にじわじわと満ちていく。


ガサンは長刀を握り直した。


力は戻っていない。胸も腕もまだ痛む。だが、目だけは逸らさない。


「核は砕いたはずだ……」


そう口にしながらも、確信は揺らいでいた。


目の前で起きているものは、再生と呼ぶにはあまりにもおぞましい。元の形へ戻ろうとしているのではない。もっと別の、何か不吉なものへ変わろうとしているようにしか見えなかった。


タリスも炎剣を拾い上げる。


「隊長……あれ、集まってるだけじゃねぇぞ」


「ああ」


中央の肉塊が、ゆっくりと盛り上がる。


いや、下から押し上げられていた。


ぬめる肉の山の底で、何か大きなものが蠢いている。血に濡れた膜が内側から押し上げられ、そのたびに寄り集まった塊がずるりと崩れ、また上へと持ち上がる。


「……来る」


ガサンの声が落ちた、その直後だった。


肉塊の中心が裂ける。


裂け目の奥から最初に現れたのは、黒く濡れた五本の指だった。人の手に似ている。だが大きさが違う。崩れた噴水台の縁を軽く越えるほどの巨大なそれが、血肉の山を内側から押し広げ、石畳へとぬらりと這い出してくる。



「っ……!」


タリスが息を呑む。


その手は一度、空を掴むようにゆっくりと開き、それからぎしり、と嫌な音を立てて握られた。掌の中心には、まだ完全に消えきっていなかったどす黒い脈が、蜘蛛の巣みたいに走っている。


次いで、もう片方の手が現れた。



二つの巨手は、広場の中央でまるで何かを掴み起こそうとするように石畳へ深く食い込み、寄せ集められた肉片をさらにぐしゃりと押し潰した。その圧で、残っていた血肉が四方へ跳ねる。


「なんだよ……これ……」


タリスの声は、今度こそ笑いを完全に失っていた。


ガサンは答えない。


答えられなかった。


目の前のそれは、もうバリシャハの成れの果てですらない。喰らい、潰し、寄せ集め、その奥から無理やり別の何かを生み出そうとしている。


そのとき、二つの巨手のあいだで盛り上がっていた肉塊が、どくり、と大きく脈打った。


寄せ集められた血肉の中央が内側から裂け、ぬめる肉と黒ずんだ膜の奥から、まだ完全には潰えきっていなかった黒濁の核が、ずるりと押し出される。


ガサンの目が見開かれた。


「あれは……!」


核だった。


さっき二人が断ち砕いたはずの、あの中軸の残滓——まだ死に切っていない脈動の塊が、肉の底から無理やり掬い上げられていた。


次の瞬間、どこからともなく、低く濁った声が落ちる。


「裂けて増えよ」


その声は遠いはずなのに、耳ではなく、頭の奥へ直接触れてくるようだった。


二つの巨手が、そこで同時に動く。



逃がさない。


そう言わんばかりに、左右からその黒濁の核を掴み込み——


ぐしゃり、と。


湿った嫌な音を立てて、完全に握り潰した。


「っ……!」


タリスが息を呑む。


潰れた核から、どす黒い血と肉の光が一気に噴き出す。だがそれは飛び散って終わらない。


空中へ散った一滴一滴が、まるで意思を持っているみたいに震え、広場のあちこちへ降り注ぎ、それぞれ別の場所で蠢き始めた。


砕けた石柱の根元、噴水台座の残骸の陰、血だまりのそば——落ちた先の肉片は、そこからまた新たな鼓動を打ち始める。


小さい。


だが、ひとつじゃない。


「……まだ、増えるのかよ」


タリスの喉が鳴る。


夜明けの光は、もう広場の端へ届き始めていた。


それなのに、その薄い朝の色の中で蠢く無数の肉片だけが、まるでまだ夜の底に取り残されているみたいに黒く濁っていた。


ガサンは長刀を構えたまま、低く吐く。


「……終わってなかった」


その声は、もはや疲労だけのものではなかった。


はっきりとした、底の見えない絶望が混じっていた。



中央では、二つの巨手のあいだから、ついに最初の“顔”が持ち上がろうとしている。


そして同時に、広場のあちこちでも、別々の肉塊が次々と裂け始めていた。


大きさの違う新たなバリシャハが、それぞれこの広場そのものから産まれようとしていた。


人の背丈ほどの塊からは、細長い頸を持つ小さな異形がのたうちながら這い出しかけ、別の低い塊からは獣じみた四肢が石畳を掻いた。


さらにその向こうでも、まだ拳ほどの肉片が、次の脈動を待つように小刻みに震えている。


数が、違いすぎた。


一体ではない。


二体でもない。


タリスは炎剣を握ったまま、しばらく声も出せなかった。


さっきまで命を削ってようやく倒したはずの災厄が、今度は数を増やして立ち上がろうとしている。


その光景は、戦いの続きというより、世界の理そのものが一段ひどい方へめくれたようにしか見えなかった。



「……っざけんなよ」


ようやく絞り出した声は、怒鳴りにもならない。


ガサンも長刀を構えたまま、目の前の異変から視線を逸らさなかった。

腕は重く、呼吸も浅い。術式の残光ももう長くはもたない。


それでも、広場の中央で持ち上がろうとしている巨大な肉塊と、その周囲で脈打ち始めた無数の小さな塊からだけは、どうしても目を離せなかった。


この広場に散った血肉の数だけ、絶望が芽吹こうとしていた。


夜明けの光は、もう崩れた建物の壁を越え、広場の半ばまで静かに差し込んでいる。


なのに、その光を浴びてもなお、蠢く肉塊だけはひとつ残らず濁っていた。まるで朝そのものを拒み、夜の底だけを抱え込んだまま膨れ続けているみたいだった。


タリスの喉が上下する。


「……隊長」


その呼びかけには、もういつもの軽さがなかった。


ガサンは答えない。


答えられなかった。


目の前で起きているのは、もはや戦術だの術式だのという次元の話ではなかった。倒したはずの怪物が、別の理不尽を呼び込み、その理不尽ごと複数になって産まれ直そうとしている。そんなものに、今の二人でどう立ち向かえばいいのか、その答えをガサンもまだ持っていなかった。


二つの巨手が、ぐしゃりと音を立てて中央の肉塊をさらに持ち上げる。


その奥で、新たな“口”が開きかける。


周囲でも、ひとつ、またひとつと肉塊が裂ける。


ぬめる音。骨の軋む音。湿った呼気のような脈動。夜明けの広場にあるはずのない音だけが、ゆっくりと数を増やしていく。


タリスは炎剣を握り直した。


ガサンもまた、長刀の柄を握る手に力を込める。


だが、その指先に宿るのは、さっきまでみたいな闘志だけじゃなかった。


疲労、痛み、そして——あまりにも遅れてやってきた、本物の絶望。


ガサンは、ようやく掠れた声を落とした。


「……これは、さすがに反則だろ......」


その呟きは、広場に生まれ始めた無数の鼓動に、あっさりと呑み込まれていった。




>ここまで読んでくださりありがとうございます。


第44話では、一度は「終わった」と思わせる安堵から、再び「まだ続いている」という恐怖へ転じる流れを描きました。


砕け散ったはずのものが集まり直し、数を増やしていく光景は、戦いの延長ではなく、理そのものが歪んでいくような場面です。


タリスとガサンの疲労と絶望を通して、次回以降の展開へ強い緊張を繋げました。


ぜひ続きも楽しみにしていただければ嬉しいです。



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