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失われた断片 ― 風の環 ―  作者: 半々月光
ビグトラス島編
40/62

第31話―突破戦――鉱石の巨人

※もとの第20話を、読みやすさを考えて分割しています。


内容に変更はなく、こちらはその続きになります。

時間:3670シヴン年 12月24日 PM 01:28

場所:ビコトラス島・交戦区域


人々が死に呑み込まれようとする絶望の只中、突如――



「タァーーウーーーキィーーーパカーーーウホーーージニアーーーカ!」


天から一条の光が射し込み、異獣の爪が迫る空間が瞬時に凝結した。そこに築かれたのは晶石の壁――


鉱石、水晶、堅石が交錯し積み重なり、まるで自然が生み出した巨壁のような防護障壁となって人々と異獣を隔てた。


光に照らされ、砕けた塵が空中で煌めき、天地の間に突如として神秘の防壁が築かれたかのようだった。



「これ……壁なのか?」


誰かが震える声で呟き、その瞳には恐怖から驚愕へと移り変わる光が宿っていた。



「俺たち……まだ生きているのか?」


避難者たちは一人、また一人と頭を上げ、蹲っていた姿が徐々に立ち上がる。泣き叫ぶ声に混じって、信じられぬような荒い息が響いた。子を抱きしめ、涙を止められぬ者もいれば、両手を合わせて震えながら祈りを捧げる者もいた。



「よかった……よかった……」


サラは武器を強く握りしめ、瞳にはなお警戒の光が宿っていたが、その声には救われた思いの震えが滲んでいた。



「だ、誰が……誰が放ったんだ?」


タリスは光の源を仰ぎ見、なお燃え続ける剣先を握りながら、思わず低く驚愕の声を漏らした。


ガサンは荒い息を吐き、長刀をなお強く握りしめたまま、その壁を凝視する。

心の底に渦巻いていた怒号は、次第に震撼へと変わっていった。



「そ、それは……カイクラ教授……我らに気づいてくださったのか。」


ガサンは低く呟き、目尻に一滴の涙を滲ませた。


星織・雨はその場に呆然と立ち尽くし、涙がまだ目尻に光っていた。呼吸は荒く、それでも突如現れた守護の壁に声を失った。


(これ……いったい何の力……?)


心臓は激しく脈打ち、恐怖と、言葉にできぬ希望が入り混じる。


次の瞬間――


低く重い脈動が空気全体を震わせ、砕けた石片と灰燼が宙に舞った。


人々の頭上に、巨躯の巨人がゆっくりと姿を現す。


その身は赤銅、青鉄、白晶が幾重にも積み重なり、光脈が血管のように縦横に走り、眩いエネルギーの輝きを放っていた。

一度動くごとに、大地も天も震えを返すかのようだった。



彼らは巨人を仰ぎ見た。石層の間を絶えず流転する光はまるで生命を宿し、古の意志が目覚めたかのように揺らめいていた――

下方から見上げれば、その巨躯は塔のごとく聳え立ち、表面は鉱紋と晶塊に覆われていた。隙間ごとに淡い青のエネルギー脈が流れ、煌めきながら走っていた。


光はその体内を循環し、瞬き、まるで全身が「呼吸」しているかのようだった。


巨人はゆるやかに腕を掲げ、その掌から溢れ出た光が瞬時に広がり、輝く巨大な手の形を取った。


「ドォォォン!」


手は地へと横薙ぎに振り下ろされ、異獣の群れは光の圧に呑まれ瞬時に吹き飛ぶ。

凶暴な躯は破布のように翻り散り、爪と咆哮は空に残響として掻き消えた。



大地の瓦礫と礫石も同時に浮き上がり、振り抜かれた衝撃と共に轟然と飛散する。

潮のように押し寄せる気浪が壁面を襲い、一瞬にして崩れ落ちた。



(こ、怖い!)


星織・雨は思わず身を屈め、腕で頭を庇った。

熱風が耳を掠め、髪が激しく舞い上がる。


前方を塞いでいた破壁の残骸は、その一撃で完全に掃き払われた。

瓦礫も、石片も、血肉さえも押し流され、そこには一本の明瞭な直線の道筋が拓かれていた。



「走れ!走れ!」


人々の中から誰かが叫んだ。声は震えていたが、切迫した響きがあった。

避難者たちは導かれるように動き始め、泣き声は次第に走り出す足音へと変わっていった。


「ついて来い!止まるな!」


サラは武器を握り締め、人々を守りながら前へと促した。


タリスは隊列の側翼で炎を燃やし、なお追撃しようとする残存の異獣を阻んだ。


「歩けるか?」


ガサンは急ぎエドリックのもとへ駆け寄り、身を屈めて手を差し伸べた。


「……まだ持つ……ただ、能脈を整える必要が……」


エドリックは冷や汗に濡れ、地面に手をつきながら必死に体を起こし、荒い息で答えた。


ガサンの目尻に涙が滲み、低く呟く。


「無事で……よかった。教授が道を開いてくださった、行こう!」


星織・雨は光輝の中に呆然と立ち尽くし、心の奥にはただ震える声だけが残っていた――


(もし、この力がなければ……私たちは……)


人々は巨人の切り開いた道を急ぎ撤退し、足元で瓦礫が砕け散る。

背後では異獣が咆哮し、利爪が地を叩き、耳をつんざく轟音が響いた。


巨人は生きた障壁のごとく立ちはだかり、低い脈動のたびに空気が震え、異獣の群れを怯ませる。掌に巡る眩い光脈は、いつでも再び全てを薙ぎ払えるかのように輝いていた。



「早く!そっちへ行くな!」


サラは片手で避難者を守り、もう片方の手で星織・雨を引きながら前へと駆け抜けた。


タリスは側翼で烈火を操り、炎光が退路を照らし、残存の異獣を阻んだ。


「耐えろ!必ず突破できる!」


ガサンは半ばエドリックを支えつつ、長刀を次々と振り下ろし、襲いかかる小型の異獣を斬り払った。


エドリックは歯を食いしばり、杖に光脈を走らせ、隊列前方の微かな防護を補っていた。


塵が舞い、石片が飛び散り、空気は焦げ臭と圧迫感に満ちていた。

避難者たちは泣き叫び、倒れ、子を抱き締め、恐怖は潮のように押し寄せてきた。



星織・雨の心臓は隊列の歩調とほとんど同じ速さで打ち、拳を握りしめ、深く息を吸った――


(退けない……せめてここで、彼らを助けなきゃ……)



「危ない!」


「きゃっ!」


彼女は身を屈め、石に躓いて体勢を崩した魚族の少女を引き起こし、安全な位置へと戻した。

少女は体を立て直し、何度も頭を下げて感謝を示した。


前方では、異獣がタリスの炎へと飛び込み、火光が瞬時に爆ぜ、悲鳴は塵の中に消えた。


ガサンは長刀を振り抜き、刃光が走り、迫る爪影を断ち切った。

灰塵と血飛沫が彼の目尻に散り、冷厳で揺るぎない表情を映し出す。



「隊列を守れ!乱れるな!」


サラの声は切迫し、決意に満ちていた。


「姉さん、右側は私が見る!」


星織・雨は歯を食いしばり、サラの腕を掴み、瞳に一瞬の決意を閃かせた。



サラは一瞬きょとんとしたが、すぐに微笑み、信頼を込めて言った。


「頼んだわ。」


星織・雨はこくりと頷き、呼吸を整え、隊列にぴたりと歩調を合わせた。

視線は周囲で蠢く異獣から逸らさず、手には何も持たずとも、その身はすでに壁となっていた――


ハロはイランを探すためにこの裂け目を残した。星織・雨は理解していた――


今この瞬間、退くことは許されない。立ち上がらねばならない。


巨人は前方で低く脈動し、障害を薙ぎ払い、真っ直ぐな道を切り開いた。

隊列は瓦礫を踏みしめて疾走し、一歩ごとに死と競り合っていた。


風、光、火、水――混沌の元素が交錯する。

この道は、ただ前へ進むのみ。



だが、脅威は決して弱まってはいなかった――


まるで波が絶えず岩を打ち付けるように、生存の意志を容赦なく叩きつけていた。

低い唸りと震動が絶え間なく押し寄せ、壁は微かに震え、天井から塵が滑り落ちる。


その音は重く、途切れず、すべてを呑み込むかのようだった。まるで島全体が呻いているように。



「ガキィ──ガァ、ガアアアアア――!」


裂けるような咆哮が遠方から響き、金属の摩擦と獣の唸りが混じり合った低い吠え声は、耳膜を震わせた。


その声は地の底から湧き上がるようであり、風に引き裂かれる断片のようでもあった。背筋が粟立つほどの恐怖を伴って。



人々の心に希望の光が徐々に灯り始めたその時、前方に夜よりも深い影がいきなりと現れた――


彼らが顔を上げると、塵煙の奥から他の異獣よりも遥かに巨大な影がゆっくりと歩み出てきた。


絶望の巨影が、冷ややかに退路を塞いでいた。


それは十人近い高さを誇る巨獣だった。

四肢は焦げ付いたような裂紋に覆われ、まるで焼け焦げた石柱のよう。

肩の骨節は隆起し、獣角のごとく凶悪な形を成していた。

背からは半ば凝固した粘液が垂れ、鼻を突く腐臭を放つ。


滴り落ちるたびに「ジィ――」と音を立て、石や金属を腐食し、白煙を噴き上げる。


その歩みは重く、不吉で、一歩ごとに大地を沈ませ、瓦礫が雨のように降り注いだ。

まるで世界そのものが、その重量に震えているかのようだった。


塵煙は渦を巻き、風は歪められ、空気には焦げ臭と血腥い匂い、そして低い共鳴が満ちていた。



防衛隊員たちは皆、武器を握り締め、本能的に後退した。だが、逃げ道はすでに断たれていた。


黒影は徐々に迫り、その威圧は呼吸一つさえも押し潰す――


これは異獣の追撃ではない。


死そのものが、冷ややかに彼らを見据えていた。



サラは勢いよく魔導風刃を掲げ、額から汗が絶えず滴り落ちていた。


「いったい……こんな巨大な怪物、信じられない!」


彼女は剣柄を握り締め、全身を緊張させ、前方の黒影を鋭く見据えた。


タリスの掌には烈火が燃え上がったが、圧力に押されて震え、不安定に揺らめいていた。


「この気配……今までの比じゃない……へへっ」


彼は歯を食いしばり、不自然な笑みを絞り出す。掌の炎は跳ねるように揺れ、今にも消えそうだった。


「これはただの異獣じゃない……前、ミラが犠牲になって倒したあれが、まるで冗談みたいだ。」


ガサンはエドリックを支え、顔色は蒼白に染まり、呼吸は荒く、眼差しには警戒が満ちていた。


「反則だろう……」


エドリックは冷汗に濡れ、荒い息を吐きながら、震える指で地面を押さえ、必死に頭を持ち上げ、体勢を保とうとしていた。



「これは……?」


「な、なんだ……!?」


人々は突然、足元に激しい揺れを覚え、思わず周囲に手を伸ばした。大地は轟音とともに裂け、瓦礫が雨のように飛び散り、塵煙が空に渦を巻いた。


裂け目の奥から紅の光が溢れ出し、周囲の闇を照らし出す。


鉱石の巨人がゆっくりと地を割って立ち上がった。山岳のごとき重厚な体躯、幾重にも重なる岩層、その隙間からは溶岩のような光が流れ落ちていた。



「オオォ――!」


巨人の眼窩の奥に烈しい火光が燃え上がり、二つの燃える星のように塵煙を血色に染めた。


その石の拳が重々しく振り下ろされ、冷ややかな光を反射しながら、前方の巨大な異獣へと叩きつけられる。



「ガァーーーガガーーーガキィー!」


異獣は怒号を放ち、その声は夜空を裂き、塵煙を震わせた。鱗甲は光と影の交錯の中で煌めき、まるで金属の洪流のように震え響いた。


拳と鱗甲が激突した瞬間、火花と瓦礫が同時に飛び散り、光が闇を裂いて迸り、戦場の空気の隅々までを照らし出した。



巨人の歩みは重く、一歩ごとに岩層が裂け、光と影が揺らめき、大地そのものが呼吸しているかのようだった。


巨大な異獣は必死に反撃し、爪が空を裂いて銀白の軌跡を描き、巨人の岩拳と交錯した瞬間、耳をつんざく轟音が炸裂した。


巨獣の咆哮の余韻が空に響き渡り、低く唸りを響かせ、まるで人々の心臓を引き裂こうとしているかのようだった。


光と影が戦場に交錯し、巨人と巨獣の対決は天地を揺るがす原初の衝突のようで、人々は息を呑んで見守った。



「助かった……けど、この響きはあまりにも凄まじい……」


エドリックの胸は激しく上下し、声は震え、冷汗が光に照らされて煌めいた。必死に顔を上げようとしたが、余韻に心を乱された。


「これが攻撃術式解放の力なの?まさか連続召喚できるなんて!?」


サラは息を呑み、この光景を驚愕の眼差しで見つめた。手の風刃は震え、光に照らされた顔は蒼白に染まっていた。


「アハハハーーさすが土系の権威だ!でも、この乱戦から早く退かないと!」


赤髪の下で顔の筋肉が不自然に引き攣り、掌の炎は明滅し、額の汗と緊張した筋肉を照らし出した。


彼は一歩退きながらも視線を戦場に固定し、絶望と死の狭間で無理に笑みを浮かべ、軽口で仲間を鼓舞しようとした。



「みんな退けーータリス!右側は任せた!」


ガサンは空の左手を振りかざし、轟音をも突き抜ける叫びを放った。声には焦りの震えが混じっていた。


巨大な瓦礫が戦闘の衝撃で舞い上がり、狂乱の気流に翻弄されながら隊伍の側面へ落下した――


間に合わない。


タリスの瞳孔が収縮し、炎が本能的に剣先を走ったが、角度が低すぎると即座に見抜いた。強引に斬れば破片が四散するだけだ。


「チッ――!」



次の瞬間、ガサンが前へ飛び出した。足を強く踏み込み、身を沈め、左手を突き出す。

風圧が爆ぜるように解き放たれた。


無形の気流が壁のように瓦礫を受け止め、水の力が凝集して厚い幕を覆った。



「ゴォ――!」


瓦礫は強引に減速され、進路を逸らし、地面に衝突した時には力を失って砕け散り、水流に押されて横へ流れた。


飛び散った破片は風圧に抑え込まれ、地面を掠めるだけで防線を越えなかった。

その一瞬の隙を突き、タリスは跳躍した。


彼は反転する気流に身を翻し、前へ突進した。炎は剣身に収束し、圧縮され、着地の瞬間に横一閃を放つ――


灼熱の火弧が宙に舞う破片を薙ぎ払い、残骸を粉砕し蒸散させた。


熱波、水気、そして狂風が交錯して炸裂し、空気は鈍い爆音を響かせた。避難隊の背後には、舞い上がる塵煙と湿った熱風だけが残った。


「……防いだ。」


ガサンは荒く息を吐き、左腕を突き出した姿勢を保ったまま、風圧はまだ完全には散っていなかった。


タリスは振り返らず、額の汗を拭い、剣の炎を再び安定させた。


「こんな乱流の投げ込み……命を削るぞ。」


彼は低く呟き、剣先の炎はなお不安定に揺れていた。危機は強引に切り抜けられたが、戦場の震動は止まらない。


遠方から低い唸りが迫り、瓦礫が時折崩れ落ち、戦場全体が再び崩壊しそうだった。


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