第29話―風に追われる避難者たち――交戦区域へ
>第28話から「風に追われる避難者たちーー鉱石の巨人」
三万字を超える大ボリュームの数話です。
防衛隊員が難民を率いて逃走し、戦闘を繰り広げる過程を描いています。
これまでで最も長い一話となりますので、ぜひ最後までお楽しみください。
⊂((・▽・))⊃
時間:3670シヴン年 12月24日 PM 00:18
場所:ビコトラス島・港前広場の路地
「ドン──!」
突然、外の扉から大きな音が響き、勢いよく開かれた。
その音に、星織・雨は眠りの中から一気に目を覚ました。
(……何の音……うう……)
目をこすりつつ、ぼんやりとした視界に、壊れた皮の鞄や焦げた携帯袋を手にした避難者たちが次々と部屋へ入ってくる姿が映った。
彼らは男女も年齢もさまざまで、衣服も姿もまちまちだった。
けれども例外なく、全身が砂や埃にまみれている。
まるで土で作られた人形のように、生気はすっかり失われていた。
「ここです、皆さん、早く中へ!」
入口から聞こえてきたのは、聞き覚えのある声だった――
それは、先ほど彼女を避難所へ導いた学院の術士だった。
彼は数名の避難者を伴い屋内へ入ると、素早く術式で扉の隙間を封じた。
入ってきた人々は、道中で体調を崩した者や負傷した人族や異族たちであり、小屋に入るとしばし休息を取った。
彼らは小屋に案内され、ようやく一息ついた。
「少し我慢を……」
サラは身をかがめ、素早く彼らの傷を確認し、数名の避難者に簡単な治療を施した。
そのおかげで彼らはひとまず息をつくことができた。
ガサンはサラの傍らに立ち、背筋を伸ばしたまま冷静に室内を見渡す。
慌てる様子はなく、ひたすら守り続けていた。
外では、ハロウが魔導ライトニングランスを握りしめ、周囲を警戒しながら声を低くして叫んだ。
「隊長、外周は今のところ安全ですが、すぐに移動すべきです!」
「アハハハ!この小屋に長居すれば、次の瞬間には崩れ落ちるかもしれませんぞ!」
タリスの豪快な笑い声が扉の隙間から響き、いつもの陽気さに少しの揶揄を含んで空気に広がった。
「隊長、時間がありません。後方の灰霧が不安定です、出発の準備をしてください。」
副隊長エドリックが扉際に歩み寄り、屋内のガサンへ合図を送った。
「わかった、エドリック。サラの治療が終わり次第、出発しよう……まず他の隊長と校長へ連絡を入れておく。」
そう言って確認を終えると、彼は手を口元へと持ち上げ、防衛隊専用のリング型通信具を再び起動しようとした。
「こちら地上第三小隊、聞こえますか?」
数秒後、晶環が数度点滅し、断続的な雑音が返ってきた。
【──…港区……霊磁……反──】
声は唐突に途切れ、残ったのは静電音だけだった。
彼はすぐに伝音水晶を手に取り、学院との連絡を試みたが、強い通信妨害のため接続できなかった。
しばしの沈黙の後、ガサンは深く息を吸い込み、低く呟いた。
「……すべての信号が遮断された。もう自分たちでやるしかない。」
彼は振り返り、隅で身を寄せ合う避難者たちを見つめ、必ず彼らを守り抜くと心の奥で固く誓った。
「今、私たちは前方の避難所へ向かわなければならない。そこには高位の術士たちが守っている。」
「だが前方は混乱している。交戦区域を通過しなければならない。皆は必ず我々にしっかりついてくるんだ。」
「……交戦区域?」
星織・雨が低くその言葉を繰り返した。
その言葉を耳にした途端、室内の空気は一変し、恐怖が霧のように狭い空間へ広がっていった。
「いや、いやだ……」
「どうすればいいの?もうあんな危険は味わいたくない……」
「本当に無事に通り抜けられるのか?」
「私はさっき子どもも夫も失ったばかり……今は自分が生き残れるかさえわからない……」
たちまち、泣き声と震える声が狭い室内に交錯した。
避難者たちは、各地から、異なる種族から集まってきた人々だった――
人族、琉火族、魚族、樹人族、鳥族――
琉火族の皮膚の下で光脈が明滅し、魚族は薄い翼で頭を覆っていた。
樹人族の腕の紋様は裂け、淡い樹液が滲み出ている。
鳥族の羽は焦げ、呼吸は乱れていた。
彼らは人族と同じく、ただの旅人、商人、子ども、観光客にすぎない。
戦う力も防具もなく、できることは逃げることだけだった。
術士、旅の護衛、祭司や職人といった専門の訓練を受けた者を除けば、彼らの自衛力は一般人と大差ない。
ビコトラスに入境する異族の旅人は、必ず「言語共鳴環」や「翻訳光紋」を交流の道具として持っていた。
だが異変後、不明の霊磁干渉や風層の逆流によって、それらの装置は次々と機能を失った。
逃亡の途中で砕け散ったものもあれば、能脈に歪められて失真音となり、符核が点滅して信号が乱れるものもあった。
言葉は断片となり、人族と異族の間で互いの言葉がほとんど理解できなくなっていた。
祭りの初め、数多くの露店商や旅人たちは必死に意思を伝え合っていた。
しかし異変が起こると、彼らは途切れ途切れの片言や手振りに頼り、互いを励ますしかなかった。
幸いにも、学院の指揮部は即座に「多周波共鳴層協定」を発動し、前線の術士たちは徽章に組み込まれた「臨時同期晶核」を通じて共振を行い、音声の繋がりを取り戻した。
そのため、言語が崩壊した夜であっても、彼らはなお互いの声を聞くことができた――
その時、ビコトラス島の避難行動には、初めて真の「理解」が芽生えた。
目の前の人々の反応と言葉を見つめながら、星織・雨は唇を噛み、迷いを含んだ眼差しのまま緊張して胸の疑問を口にした。
「……人々が消し去られているんじゃないの?」
その言葉は、まるで禁忌の膜を突き破るかのようだった。
彼女の問いに応じるように、数名の人族と異族が断片的に声を重ね始めた――
黒霧に呑み込まれた街角、溶け落ちる石橋、そして裂ける音の中に一瞬閃いた巨大な影。
屋内の人々は、まるで異なる体験を聞かされ、一瞬言葉を失って互いを見つめ合った。
状況を少しでも伝え合おうと、彼らは次々に声を潜め、怯えたように自らの遭遇を語り始める。
「街角の壁が消えたんだ。まるで誰かが消しゴムで擦り取ったみたいに、跡形もなくなった!」
「子どもを探そうと飛び上がったら、光が走って……翼が半分になってしまった!」
「風でも火でもない……何かがすべてを呑み込んでいる!目の前のものが消えて、音さえもなくなった!」
「それにあの生き物たち!地下から這い出してきて、咆哮し、壁をよじ登る……数え切れないほどいて、倒れないんだ!」
星織・雨はその言葉を聞き、思わず息を呑んだ。
直接目にしたわけではない。だが、語られた光景だけで背筋に冷たいものが走った。
(神話にしか存在しないはずの魔類――それが現実に現れたのか、と......)
星織・雨は思わず疑った。
彼女は身をかがめ、両手で膝を握りしめる。耳に届くのは荒い息遣い、すすり泣き、そして扉の隙間から遠く響く崩壊の音。
心臓が何かに押し潰されるようで、呼吸さえ苦しくなる。信じがたい出来事が一度に押し寄せ、胸を押し潰すように広がっていった。
星織・雨は恐怖と驚き、迷いと混乱に呑み込まれていた。
ふと顔を上げると、視線は一人の術士に向かう。
その瞬間、彼女は術士の眼差しを見た――
揺るぎなく、真っ直ぐなその眼差しは、まるで風口で震えを押さえ込む風のようだった。
余計な言葉も、表情もない。ただ、思わず信じてしまうような沈着さがそこにあった。
(……やはり、彼について行くしかない。)
星織・雨は胸を張り、深く息を吸って混乱の中で自分を立て直した。
そして、ほとんど無意識のまま立ち上がり、口を開いた――
「行こう。」
その二文字は、屋内に光が差したようだった。
「うっ……」
「もう前に進むしかない!」
迷っていた避難者たちは一瞬戸惑い、互いに視線を交わす。やがて数人が先に立ち上がり、互いに支え合った。
誰かは破れた毛布を子どもに掛けて寒さを防ぎ、また誰かは外れた留め具のショールを結び直し、走っても散らばらないようにした。
術士の視線は星織・雨に向けられ、帽子をかぶり直すと、微笑んで軽くうなずいた。
その時、ハロが扉のそばに歩み寄り、星織・雨を見て低く称えた。
「このお嬢ちゃんは、本当に勇敢だなあ。」
サラも最後の負傷者の治療を終え、立ち上がって手の埃を払うと、魔導風刃を締め直した。
「よし、歩ける者はみんな準備できた。」
「後ろにぴったりついて来い、行くぞ!」
ガサンが低く叫び、扉を押し開けた。
扉が開いた瞬間、風が灰を巻き込みながら吹き込み、遠くに炎が瞬いた――
彼らの逃亡は、ここから始まった。
ピグトの路地は曲がりくねって狭く、壁は崩れ落ち、上から石片が絶えず降り注いでいた。
彼らは慎重にその中を進み、足音と心臓の鼓動が一つのリズムに重なっていた。
「……この道、本当に安全なのか?」
鳥族の青年が声を潜めて問う。羽にはまだ黒い灰がこびりついていた。
「他に道はない。ここを抜けなければ避難所へは行けない。」
ガサンが振り返り、低く、しかし揺るぎない声で答えた。
「泣いている……誰かの声が聞こえる。」
別の婦人が震える声で言い、抱いた子どもが不安げにすすり泣いた。
「ち、違う!人の声じゃない!」
エドリックが足を止め、耳を張り詰める。
「風だ。」
「……風?」
星織・雨が小さく繰り返した。
誰もそれ以上口を開かなかった。
風の音は次第に近づき、何かを巻き込みながら路地の角で渦を描いていた。
灰が壁をなぞるように流れ、低い唸りを響かせた。
「うぅぅーー」
地面が突然震えた。
それはただの揺れではなく、大地そのものが呼吸しているかのようだった。
灰色の壁に走る亀裂は枝のように広がり、隙間から湿気が滲み出て、淡い光を放つ霧へと変わった。
「地脈……動いている。」
ガサンは天を仰ぎ、肩のそばの徽章がかすかに輝いた。
星織・雨は息を止め、言葉にできない寒気が胸を満たした。
その霧は塩の味と焦げ臭さを含み、まるで島全体が血を滲ませているようだった。
霧が広がるにつれ、空気の中に低い響きが反響し始める。
それは風でも雷でもなく――
未知の声帯が遠くで震えていた。
その一度一度の震動が胸を圧し、巨大な何かがゆっくりと近づいてくるように思えた。
「な、何の音だ……?」
鳥族の青年が震える声で問いかけた。
「声を出すな。」
タリスが低く叱り、指を前方へ向ける。
ハロはすぐに武器を構え、声を潜めて言った。
「隊長、この音は近すぎる……急がないと。」
「慌てるな。隊形を保て、散るんじゃない。」
サラは後方で避難者を支えながら、冷静だが張り詰めた眼差しでハロに注意を促した。
「アハハハ……この音、巨獣よりも不気味だな!」
タリスは震えを帯びた笑いを抑え、魔導炎剣を胸の前に構え、音の方角を鋭く見渡した。
エドリックが杖を掲げると、杖先の符文が光を放ち始め、霧の中に淡い光輪を描き、迫り来る低鳴を一時的に遮った。
「タリス、人々を右側へ誘導しろ。俺たちは先に偵察する。隊長、しばしお待ちください。」
エドリックの声は落ち着いて澄んでいた。タリスはその背に続き最前へ進み、ガサンはうなずいて隊を一時停止させた。
「アハハハ……偵察は得意じゃないが、行こう!」
タリスは笑みを抑えながらも足早に追った。
エドリックが杖を掲げると、杖先の符文が霧の中で光を瞬かせ、前方の亀裂と瓦礫を照らし出した。
二人は慎重に街角へ近づく。霧は渦を巻いていたが、異常はなかった。
「ただの地脈の震動だ。敵の影は見えない。」
エドリックはしばし集中し、低く判断を下した。
「ふぅ……巨獣に挨拶する羽目になるかと思った。」
タリスは息を吐き、口元に笑みを残した。
異常がないことを再確認すると、二人はすぐに戻り、エドリックが手を上げてガサンに報告した。
「前方はひとまず安全だ。進める。」
ガサンはうなずき、隊は再び整列し、裂光と轟音の中を慎重に歩を進めた。
「気をつけろ!廃墟の中で何かが動いている!」
行進の途中、ハロが叫んだ。彼のランスが青白い電光を閃かせる。
サラはすぐに人々を避けさせ、ガサンは魔導長刀を構えて前方を警戒した。
ハロはランスを突き出し、槍先から雷鳴が炸裂する。電流が瞬時に小型の異獣の体を貫いた。
怪物は悲鳴を上げて痙攣し、やがて黒焦げの残骸となって地に崩れ落ちた。
「アハハハ、こんな小物は俺に任せろ!」
タリスは笑いを抑えつつ声を低め、魔導炎剣を握る。その刃が赤々と燃え上がり、振り下ろされた瞬間、烈火が爆ぜて異獣の体を焼き尽くした。
黒焦げの残骸は地面でひとしきり痙攣し、やがて灰となって崩れた。
沿道に現れた小型の異獣たちは次々と斃され、隊は再び整列し、前進を続けた。
「な、何あれ……!」
サラの傍らを歩いていた星織・雨は、先ほどは炎と雷光しか見えず、異獣の姿をはっきり捉えられなかった。
だが今、蠢く怪物の姿を初めて目にし、声を震わせる。心臓が強く締め付けられるように震えた。
「慌てるな、後ろへ下がれ!」
ガサンが低く命じ、長刀が彼の手で冷ややかな符文の光を放った。
ハロは魔導ランスを突き上げ、槍先から雷鳴が炸裂する。電光が瞬時に異獣を貫き、体を四散させた。
「こいつら、ほんとに鬱陶しいな……ちっ。」
タリスは舌打ちし、魔導炎剣を強く震わせた。刃に宿る炎が瞬時に弧を描き、幾筋もの火焔となって迸った。
灼熱の弧光が空気を裂き、迫り来る異獣を胴から斬り裂いた。砕けた体は炎に包まれ、灰となって舞い散った。
ガサンは隊列の最前に立ち、長刀を振るって弧光を描いた。刃の符文が爆ぜ、氷藍の蒼白な光層が瞬時に広がり、迫り来る異獣を斬り裂いた。
その沈着な姿は、混乱の中でも隊列に秩序を保っていた。
星織・雨は息を呑む。目の前の光景は、彼女に初めて『異獣』の存在を現実として突きつけた――
その生物の輪郭、腹部に開閉する眼、筋肉のように膨れた脚が頭部に直結している……まるで誤って継ぎ合わされた悪夢のような存在だった。
恐怖に胸を締め付けられ、息が詰まるようだった。だが防衛隊員の一撃は壁のように立ちはだかり、とりわけガサンの冷徹な刀光は、混乱の中で彼女に気づかせたーー
この術士はただの術者ではなく、隊を率いる者なのだ。
ガサンは振り返って彼女に一瞥を送り、ハロの傍らを通りざまに肩を軽く叩いた。ハロはうなずき、すぐに前へと歩を進めた。
彼は刀を収め、足早に星織・雨のもとへ向かった。
「大丈夫か?」
「……うん。」
星織・雨は俯きながら小さく答えた。その声にはまだ震えが残っていたが、先ほどよりも守られている安心が少し芽生えていた。
「さっきは状況が急で、少し無茶をしてしまった……それに仲間もまだ外にいるから……」
「い、いいの……。」
ガサンは先ほど彼女の手を咄嗟に掴んでしまったことを改めて低く謝罪した。星織・雨は慌てて手を振り、その謝罪を受け流すようにした。
「みんな……頼もしく見えるね。」
「そうだな……でも俺は隊長としては力不足だと感じている。」
星織・雨はその言葉に疑問を覚えた。顔を上げると、ガサンの声と眼差しには静かな寂しさが滲んでいた。
「何かあったの?」
「……」
「俺は……多くの仲間を失ったんだ。」
ガサンは前方の空地を見据え、押し殺したような低い声で呟いた。自責の念が彼を強く縛り付けていた。
「どうして……彼らは犠牲になったんだ……」
星織・雨は思わず手を伸ばし、慰めようとした。だが一瞬ためらい、そっと手を引っ込めた。
「SWEETの近くで戦闘があった。新しく加わった防衛隊員の多くは訓練不足で……異獣に襲われ、食われてしまった。さらに何人かの熟練隊員も、人々を守るためにこの道中で犠牲になった……」
ガサンは、自分が離れた後に起きた出来事を順を追って星織・雨に語った。
「あなたのせいじゃないわ。」
星織・雨は深く息を吐き、揺るぎない声で言った。ガサンは少し驚いたように彼女を見つめ、低く問いかける。
「もし俺がもっと早く気づいていれば、ミラを……仲間を犠牲にせずに済んだはずだ。犠牲になるべきは隊長の俺だったはずだ。」
「それは彼女自身の選択だと思う。隊員たちももそうだ。あなたが変えられるものじゃない。」
「そうか……」
ガサンの声は次第に沈み、その瞳には隠しようのない寂しさが滲んでいた。
「えっ……ちょっと待って。」
星織・雨は何かを思い出したように、急に顔を上げた。声には切迫した響きがあった。
「さっきSWEETの近くでって言ったよね。私と同じくらいの年の学生を見かけなかった?」
「学生?学院の生徒のことか?」
「そう。痩せた顔立ちで、瞳は海のように澄んでいて……髪は少し乱れた茶色で、寝起きのように自然に跳ねているの。」
「痩せた顔に、澄んだ青い瞳……寝起きのような髪……道中では見なかったが、君の言う人物は俺の知っている誰かに似ている……」
ガサンは顎に手を当て、わずかに俯きながらも視線を街の方へ漂わせた。まるで記憶の中から像を探し出そうとしているかのようだった。
「名前を教えてくれないか?」
「彼の名前は……『イラン』。」
その名が星織・雨の口からこぼれた瞬間、ガサンは勢いよく顔を上げ、切迫した声で叫んだ。
「そうだ!イランだ!」
ガサンの目は興奮に輝き、彼女を見つめていた。
「えっ!?」
二人は同時に声を発し、互いに驚いたように見つめ合った。
「イランを知っているの?」
星織・雨は目を大きく見開き、最初に沈黙を破った。
「もちろんだ!彼は俺の後輩なんだ。一年目の頃はよく面倒を見ていたし、防衛隊の隊長になってからも、よく差し入れを持ってきて話しかけてくれた……
それで、どうして君と知り合ったんだ?君はこの島の人間じゃないだろ?」
「私は島の者じゃない。SWEETでお菓子を買ったときに初めて彼と会ったんだ……彼はとても優しかった。でも混乱の中で私たちは離れ離れになって……そのとき、彼は気を失っていた。」
「なっ……!?」
星織・雨の瞳には深い不安と、自責の念が滲んでいた。
「気を失っていた」という言葉を聞いた瞬間、ガサンの胸は強く打たれた。
彼はすぐにでもイランを探しに行きたい衝動に駆られた。
イランは彼にとって、まるで弟のように大切な存在だった。
しかし、何よりも先に目の前の避難民たちを守らねばならない。
「隊長、俺が行きます!」
ハロは二人の会話に気づき、表情を引き締めてガサンの前に歩み出た。
その瞳には揺るぎない決意が宿り、声は軽やかでありながらも、否応なく伝わる強さがあった。
「でも……」
ガサンがためらうのには訳があった。
片方には、弟みたいに思っているイラン。倒れて、まだ生きているかどうかも分からない。
もう片方には、絶対に守らなきゃいけない避難民たち。
責任と気持ちが入り混じって、胸が締め付けられるようだった。
「イラン……あいつは小さい頃から叔父さんがそばにいなくて、ミラがずっと可愛がってきた。だから俺にとっても家族なんだ!ミラの代わりに、俺が守らなきゃならないんだ!」
「ハロ……」
ガサンはハロの目に宿る強い光を見つめ、近づいて両肩に手を置いた。
「頼んだぞ。二人とも必ず無事に戻ってこい!」
「はい、隊長!」
ハロは星織・雨から事情を聞き終えると、すぐに魔導ランスを構え、稲妻のような速さで反対方向へ駆け出していった。
ガサンはハロの背中が街の端に消えていくのを見届けると、深く息を吸い込み、胸のざわめきを抑え込んだ。そしてすぐに振り返り、いつもの冷静さを取り戻す。
「エドリック、ハロには別の任務がある。編成を組み直そう。まずは皆を休ませて、話し合いが済んでから進もう。」
ガサンはエドリックに歩み寄り、事情を簡潔に説明した。エドリックはうなずき、人々の中央に立って、落ち着いた力強い声で告げる。
「少し休憩して、十五分後に出発だ!タリス、サラ、お前たち二人は隊に加わり、いつでもハロの任務を引き継げるように準備しておけ。」
名前を呼ばれたタリスはすぐに背筋を伸ばし、低い声でサラに言った。
「やれやれ、俺たちが代わりだな。今回は絶対に失敗しくじれない。」
「心配しないで。補給は私がしっかりやるから、あなたは警戒に集中して。」
二人は強い眼差しを交わし、それぞれ準備に取りかかった。
避難民たちはその言葉を聞いて、張り詰めていた表情を少し緩めた。
道端に腰を下ろして息を整える者、静かに言葉を交わす者、子どもを抱きしめて安堵の色を浮かべる者――
短い休息が、この避難の隊列に秩序を取り戻し、次なる旅路に備えさせていた。
エドリックは休憩の合間に、すぐさまタリスを外周警戒に配置し、サラには水と乾パンの配給を続けさせた。
彼の指示は簡潔で力強く、人々はすぐに秩序を取り戻し、隊全体の雰囲気も次第に落ち着いていった。
星織・雨は配給された食糧を口にしながら、人々を静かに見守っていた。心にはまだ、気を失ったままのイランの姿が焼き付いていて、頭から離れない。
避難民たちが少しずつ落ち着きを取り戻すのを見て、わずかに安堵しながらも、胸の奥にはさらに深い不安が広がっていった――
ハロが無事にイランを見つけ、良い知らせを持ち帰ってくれることを、ただ祈るほかなかった。
十五分後、タリスは前方に走り出て警戒に当たり、サラは後方で風刃を掲げ周囲を見渡した。
ガサンとエドリックは隊列の両側に位置し、三人で三角の防御陣を築いた。
>ハロはイランを探すために隊を離れた。
果たして彼は無事に見つけ出せるのだろうか?
防衛隊は主要な戦力を欠いたまま、避難者を守り抜けることができるのか?
彼らの未来はどこへ向かうのか?
そして最後に現れた謎の影――
その存在は一体何を意味しているのか?
風が運ぶ物語とともに、再生と喪失の世界を歩み続けてください。
(╹▽╹)




