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失われた断片 ― 風の環 ―  作者: 半々月光
ビグトラス島編
37/62

幕間の九・リリマラ──エイラ村長とルキ

>この物語は、ルキが故郷リリマラで過ごした日々の一幕です。


すでにこの世を去ったエイラ村長――


彼女は村を導くだけでなく、幼いルキにとって心の支えでもありました。


今回は、二人が村で交わした小さなやり取りを描き、村長として、そして一人の大人としてルキに寄り添った姿を残したいと思います。


この短い物語が、皆さんの心にも温かさを届けられますように。


(*´ω`*)

それは、ルキが七歳のある日――


村の午後はいつもと変わらず、土と草の匂いが漂い、遠くから子供たちの笑い声が響き、家々からは生活の音が絶え間なく聞こえていた。


ルキは家の横の小さな空き地にしゃがみ込み、枯れかけた花を両手で大事そうに抱えていた。それは村の入口で摘んできたものだった。


小さな株。葉はひび割れ、花弁は縮み、長く耐えてきたように見えたが、ついに力尽きようとしていた。



「くろ~~い~~や~」


記憶にある術式を思い出しながら、ぎこちなくも真剣に「フローラ・リバイヴ」を唱える。


掌に淡い光が灯るが、すぐに消えてしまう。


何も起こらなかった。



「うわ~ん……どうして全然うまくいかないの……」


ルキはうなだれ、肩を落とし、鼻声でつぶやいた。


「みんなは私ならできるって言ってたのに……」


「どうしてもできないんだもん……」


言葉を終えると、目に熱いものが込み上げてきた。


泣き出しそうになったその時、彼女の横に温かくて懐かしい影が落ちた。


エイラが歩み寄り、そっと彼女のそばにしゃがむ。すぐには言葉を発さず、ただ穏やかな手でルキの頭を包み込むように置いた。


銀色の長い髪が午後の光に揺れ、表情はいつも通り穏やかで、大きな瞳は柔らかな水色を湛え、静かに微笑んでいた。その佇まいは、そばにいるだけで何も怖くないと思わせる。


その仕草はとても優しく、ルキの張り詰めた心を少しずつ解きほぐしていった。



「ルキ。」


エイラは柔らかく見つめる。


「どんなに優秀な術者でも、どうしても術が発動しない時はあるんだよ。」



「うぅ……そんなの嘘だもん……」


ルキは涙目で顔を上げ、声を詰まらせた。


「エ、エイラ村長なら花を生き返らせたいと思ったら、絶対に生き返るのに……」


「私、きっとすごくバカなんだ……」


鼻をすすりながら、小さな声で呟く。



エイラは否定も訂正もせず、ただ微笑みながら枯れた花に手を伸ばす。


派手な呪文もなく、眩しい光もなかった。


ただ――


次の瞬間。


ひび割れた花弁がゆっくりと開き、褐色のくすんだ色が少しずつ鮮やかな赤へと染まっていく。


まるで命はずっとそこにあって、優しく呼び覚まされたかのように。



「わぁ……!」


ルキは息を呑み、目を見開くじっと見つめてた。



「すごい……エイラ村長……!」


エイラは手を引き、ルキの方に体を寄せると、そっと抱きしめた。

その腕の温もりが、ルキの全身の緊張を溶かしていく。


彼女の髪の香り、柔らかな鼓動、優しい水色の瞳が見せる微笑――


すべてが、安心と勇気を伝えていた。



「覚えておくんだよ、ルキ。」


エイラの声は柔らかく、しかし確かな重みを帯びていた。


「術法は、力だけじゃない。」


「信じること、そして真心を持つこと。」


「愛と優しさがあってこそ、術法は応えてくれるんだ。」



ルキは強く抱きしめ返し、その言葉を一つ一つ心に刻んだ。


「……うん!」


力強くうなずき、瞳に決意を宿す。



「はい!エイラ村長、私、頑張ります!」


エイラは安心した笑みを浮かべ、ルキをゆっくり抱きしめたまま、そっと頭を撫でた。

午後の光の中で静かに微笑む――


それはルキの記憶の中で、最も馴染み深く温かな表情であり、彼女にとって最も安心できる思い出となった。



過去の思い出が静かに薄れていく。


ルキは現実に立ち返り、目の端にかすかな光を残している。



あの日の声は今も、心の奥で確かに響いている――


――信じること。


――心に愛を。



深く息を吸い込み、再び顔を上げたルキ。


イラン、ミド、ヘペニの後に続き、教授の足取りを追って、伝送台へと歩みを進めた。



>ルキにとって「信じること」「愛を抱くこと」という言葉は、ただの教えではなく、未来へ歩む力そのものになりました。


エイラの微笑みはもう現実には存在しませんが、その温もりはルキの中で生き続け、彼女を導いていきます。


過去の記憶が、現在を支え、未来へと繋がる――そんな連鎖を感じてもらえたなら嬉しいです。


(´◡‿ゝ◡`)

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