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第8話 王国軍との共闘

 村の背後にある岩山に築かれた砦にて、菊子は王国軍指揮官と会談していた。

 もちろん軍が冒険者に働いた横暴に対する抗議だが、ただ単に文句を言いに来た訳ではない。


「はい、冒険者達から徴発したアイテムは後ほど必ず保証致します。また共闘している間は軍の物資をそちらと共有します。それから宿舎の件についてもこちらが確保している民家を提供しましょう」

「そう言って貰えると信じてましたわ~。共に力を合わせてこの窮地を脱しましょう。うちら冒険者ユニオンも協力を惜しみません」


 こちらのお願い事を全て呑んでくれた指揮官に、菊子は勝利の笑顔で握手を交わす。


「おい、あっという間に相手を説得しちまったぞ」

「菊子さんに口で勝てる人はいません。いつもいつの間にかあの人の思い通りに話しが進んでいるんです」

「何だよそれ怖えな」


 菊子の交渉は実に見事なものだった。

 最初はギルドマスター何するものぞと上から目線で掛かって来た指揮官が、彼女の話術に踊らされ、丸め込まれ遂に降参してしまった。その態度の変貌は火中で萎れていく花の様で見てて面白かった。


「さて次の話に移りますけど、軍は今後どの様にされるおつもりですか?」


 次に菊子は魔王軍への対処を問う。


「現状、我々の兵力で街を奪還するのは不可能ですので、友軍が到着するまでこの砦で持ち堪えるつもりです」

「援軍はいつ頃来てくれはるんです?」

「おそらく10日後くらいには来るかと」


 はっきりしない回答に菊子は呆れる。

 終わりのないタスクほど気の滅入る仕事はない。今は戦意旺盛な冒険者達も戦いが続けばダレて来るだろう。

 そもそもこんな小さな砦で魔王軍を防ぐ事は可能なのか?


「朝比奈さんちょっと」


 菊子は手招きして三郎を呼び寄せる。

 こういう事は素人の自分より武士である彼の方が分かるだろう。


「朝比奈さんから見てここはどうなん? 10日くらいもつやろか?」


 三郎は広げられた地図をどれどれと目を通す。


「地形だけ見れば良い場所だ。敵が来るだろう平野側には川が流れてるし、しかも渡河出来るのは俺達が渡って来た浅瀬だけだ。仮に川を抜けられてもこの断崖に囲まれた砦に籠もって上手く守れば十分に持ち堪えれる。おい、向こうとこっちの兵の数は?」

「味方は400。敵兵力は盗賊、モンスター合わせて1000と報告が来ている」

「兵糧は?」

「半月分はある」

「……なら、まあ何とかなるんじゃねえか?」


 基本、籠城戦における攻め手の兵力は、防御側の3倍、10倍の兵力が必要と言われている。確かに魔王軍の方が数が多いが、防御側にとっては大した差ではない。ある不安要素を除けば。


(奴等はどう出るか……?)


 魔人ドラス、九尾の狐シラモ、そして源義経。

 この3人がどんな手を使って来るか分からない。

 そもそも奴等は兵力的劣勢を覆しアンキラザシュタットを一晩で陥落させたばかりではないか。油断する訳にはいかない。

 とは言えそんな事は当事者である彼等の方がよっぽど分かっている事ではあろうが。


「では籠城という方針で宜しいですか?」


 菊子は三郎の言葉を信じて話しを進める。


「はい。援軍到着まで我々は反攻の剣を砥ぎます」

「御武運を。うちらも奮闘させて頂きます」


 そう言ってもう一度握手を交わして会談は終わった。

 今後の方針も決まり砦から村へ降りて来た菊子は空を見上げて大きく溜め息を吐いた。


「はあ。ようやく一息着けそうや」

「お疲れ様でした菊子さん」

「笑亜ちゃんらももうええで。アルケーさんのとこに行って()い」

「護衛は良いのか」

「ええ。ここは安全そうやし、いつまでも朝比奈さんらを連れ回すんも悪いわ。それに実はアンジェちゃんにピストルを(もろ)たんよ」


 そう言って腰の革嚢から金色に輝くリボルバー式拳銃を見せびらかす。


「何だそれ!?」

「うちにはこれくらい派手なんが似合う言うてこんなんをくれてん」


 ギラギラと太陽を反射してくる拳銃。

 めちゃくちゃ目立つ。

 三郎は平泉で見た黄金の仏像を思い出した。


「いざとなったらこれで身を守りますさかい、もう解散してもうてええですよ」

「分かった。何かあれば呼んでくれ」


 三郎と笑亜は菊子と分かれてアルケーがいる集会場に向かう。

 その道すがら笑亜はポツリと聞いた。


「師匠。街の人達を助ける方法ってありますか?」


 街で動物の様な扱いを受けていた人達を助けれなかった事を彼女は未だに後悔している。

 だからせめて一刻も早く助け出して上げたいと三郎に聞いてみたのだが。


「街を奪い返すしかねえな」

「じゃあその間、あの人達は苦しめられ続けるって事じゃないですか」


 街を奪い返す。

 それは王国軍の援軍が来る10日後以降という事だ。

 そんなのを待っていたら街の道端に打ち捨てられていた人達のような犠牲者が増えてしまう。


「戦ってのはそういうもんだ。犠牲のねえ戦なんかあるかよ」

「でも……!」


 納得出来ないと笑亜は目を伏せる。

 そんな彼女の肩を三郎は喝を入れる様に叩いた。


「割り切れ割り切れ! 救えなくて何が悪い? 誰が責める? 俺達人間は仏様じゃねえんだ。取り零しなんて常よ。だからせめてここに居る奴等だけでも守ってやろうぜ」


 そう言って三郎は村で遊ぶ避難民の子供達を示した。

 逃げる途中、あれくらいの子供の遺体もあった。あの子を同じ目に合わせる訳にはいかない。

 笑亜は迷いを振り払い顔を上げる。


「分かりました! 私、頑張ります!」


 その言葉に三郎は彼女の背を応援する様に叩いた。

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