第3話 燃える街
翌日、菊子から護衛を依頼されたアルケー達はギルド本部にあるワープシステムに集合していた。
「昨日届いた情報ですと魔人ドラス率いる魔王軍はアンキラザシュタットから25kmの所まで迫っているそうです。軍の予想では明日には攻めて来るかと」
ギルドの職員が街の状況を説明してくれた。
アンキラザシュタットの情報はワープシステムを使って書簡で送られて来る。軍が狼煙やら早馬で情報伝達している世界になんとチートな手段だろうか。
その報告を那古を連れた三郎がうんうんと真剣に聞いている。こういう所は武士らしい。
この場に集まっている者で菊子以外は完全武装している。新しくパーティーに入ったアンジェリカとミュンネイもそうだ。
アンジェリカは先日使ったショットガンとリボルバー式拳銃を装備し、軍服風の動きやすい格好をしている。
相棒のミュンネイは白いドレスワンピースを着て魔導杖を持っている。
格好から見ればアンジェリカは男装のガンナーで、ミュンネイは魔法士と言ったところだろう。
そんな戦う気満々のアンジェリカに菊子は意外そうな顔をして聞いた。
「まさかアンジェちゃんまで着いてきてくれるとは思わんかったわあ。もう戦うんは嫌や言うとったのにどういう心の変化なん?」
「そんな大した事じゃないって。ただ皆が頑張ってんのにアタシだけ遊んでらんないって思っただけ」
「へえ、アンジェちゃんは立派やな~」
そう言って菊子は褒めた。
「貴方も勇者に復帰したらどうなのよ?」
ここぞとばかりにアルケーが勧誘するが、菊子にそんなのは効かない。
「それは無理やわ。うち戦闘なんてようせえへんもん」
「そんな事を言って魔人を瞬殺したらしいじゃない」
「あんなんまぐれや~」
そう言ってさっさと準備が出来た魔法陣に乗る。この魔法陣でアンキラザシュタットのギルド支部まであっという間にワープする事が出来るのだ。
アルケー達も彼女に続き、最後に那古を引いた三郎が魔法陣に乗り準備完了となった。
「ほな皆さん、よろしゅうお願いします」
「任せろ! また敵の首取って来てやる!」
「首……」
周りがドン引きしてるのなんてまるで気付きもせず、三郎は威勢の良い台詞を吐く。
やがてワープシステムが起動し、一瞬の閃光の後にアルケー達にアンキラザの風が吹いた。が――、
「ッ!? 何この匂いは!?」
風に乗って血生臭い匂いと熱が叩き付ける。
そして目の前には青天に昇る黒煙と街を焼く炎が映った。
「これは……どういう事や……?」
菊子は目の前の光景を理解出来ず呆然と立ち尽くす。
街はまだ攻められていない筈だ。
だが燃える街のそこかしこから悲鳴や怒号が聞こえて来る。
異常を察した三郎はすぐに兜を被り那古に跨った。
「何が攻撃は明日だ! もう攻められてんじゃねえか! お前等気を付けろよ!」
彼に続いてアルケーと笑亜も戦闘態勢を取る。だがこの惨状にトラウマが蘇ったアンジェリカはくらりとよろめいた。
「アンジェ大丈夫!?」
「ごめん。ちょっとクラッと来ただけ」
倒れそうになった彼女をミュンネイが支える。
大丈夫だとは言っているがアンジェリカの手足はカタカタと恐怖で震えていた。やはりまだ戦いは怖いのだろう。
その時、端に置いてある木箱ががたりと動いた。全員が武器を構えてそちらを警戒すると、中から出て来たのは眼鏡を掛けた男だ。
男は汚れたギルド職員の制服を着ており胸には支部長を表すバッジを付けている。
そんな彼は上司である菊子に向かって驚きの声を上げた。
「き、菊子様!? 何故ここに!?」
「ウィルさん! あんたこれはどういうこっちゃ!?」
一体何が起こっているのか菊子は怒鳴り口調で支部長のウィルを問い詰める。すると彼は今にも泣きそうな顔をして答えた。
「アンキラザは昨夜、山からの奇襲を受けて陥落しました」
「ほな報告は⁉ こんな状況、何も聞いとらんで!」
「えぇ⁉ そんな筈は……。私はちゃんと部下に連絡するよう指示したのに……」
2人の話しは噛み合わない。
菊子は何かを察して頭を抱えた。
「ヒューマンエラーやんけ……」
ヒューマンエラーとは意図しない結果を生じる人間の行為、簡単に言うとうっかりミスだ。
原因は分からないが、現場のコミュニケーションが上手く行かず、アンキラザシュタット陥落の情報がカルカスのギルド本部まで届かなかったのだろう。
「緊急時マニュアルと職員教育を見直さんとアカンな……」
菊子は苦虫を噛み潰したような顔をする。お陰で敵中真っ只中に飛び込んでしまった。最悪だ。
こうなったらもう一度ワープしてカルカスに戻った方がいいかもしれない。
だがその時、それまで起動していたワープシステムが突然ダウンした。
「皆様ようこそおいで下さいました」
その品のある透き通った声にアルケー、三郎、笑亜は最大限の警戒を向ける。包み込む様な優しげな声だが3人はこの声の正体を知っていた。
カラミティに仕える金毛の獣人。白黒の神官装束を纏い、全ての者に慈愛を与える優しい雰囲気を持っている女だが、その正体は平安時代の日本で暴れた九尾の狐だ。
「シラモだったかしら? 久しぶりねカラミティの女狐!」
「御無沙汰致しておりますアルケー様。新しいお仲間が増えましたようでお喜び申し上げます。ええ、これでわざわざ勇者達を探して抹殺する手間も省けると言うもの」
礼節のある言葉の中に明らかな敵意と殺意をみなぎらせる。
ワープシステムがダウンしたのも恐らくシラモの仕業だろう。システムが生きていれば新たな援軍が送られたり、逃げられる恐れがあるからだ。
つまりアルケー達は敵の巣の中に孤立させられたと言って良い。
それを証明する様に、周囲から武装した男達がぞろぞろと現れる。その中の一番装備が良く、大柄な男がシラモに対して聞いた。
「おいおいシラモ様よぉ何だこの女共は? どこに隠れていた?」
「ドラス殿を倒しこの街を救いに来た女神様と勇者達です」
「俺様を倒しに? ってこたぁ敵か! だが何ともいい女が揃ってんじゃねえか!」
男は目をギラギラさせて物色する様に下卑た眼差しをアルケー達に向ける。
奴がアンキラザシュタットを襲った盗賊団、いや魔王軍の魔人ドラスだ。
「アルケー様以外はお好きにどうぞ。ただしあの赤い冒険者の少女は殺さないように。殺せば厄介この上ありませんので」
シラモは笑亜を示し警告する。
彼女のスキル不死鳥は発動すれば魔王カラミティすら圧倒する力を得る事が出来る。当然シラモにとってそんな事態は避けたい所だ。
だがそんな警告にドラスは何を当然なと言う様に一笑した。
「誰が殺すかよ! 街を乗っ取ったは良いが住民は逃げちまって戦利品が足りなかった所なんだ! この女共は生捕りにして楽しませてもらうぜ!」
その言葉に周りの盗賊達も浮かれて奇声を発する。
彼等が自分達にどういう目を向けているのか。そんな事は簡単に分かる。だから菊子は何のモーションもなく動いた。
ワープ!
この場に居る全員を転移させて盗賊達の背後を取る。そして混乱する皆の先頭に立って叫んだ。
「逃げんで! 走って!」




