第1話 敵の名は
アルケー達がアンジェリカとミュンネイを連れてカルカスに帰って来た。
早速菊子に帰還を報告すべくギルドの酒場に向うが、何やら様子がおかしい。
酒場だから騒がしいのはいつもの事なのだが、何と言うか切羽詰まった混乱に近い騒ぎようなのだ。
冒険者達は受付に詰め掛け、または神妙な面持ちで互いに情報を交換しあっている。
そのピリピリした空気に桶を抱えた三郎が「戦か?」と独り言を呟いた。
「アルケーさんお待ちしておりました」
そこにギルドの受付嬢がやって来た。
「いったいこれは何の騒ぎなの?」
「それは菊子様から説明があります。どうぞこちらへ」
そう言われてアルケー達はギルドの一室に案内される。
受付嬢は部屋の扉をノックしてアルケー達の帰還を中の人物に伝えると、中から菊子の声が聞こえた。彼女の許しを得て部屋に入ると、そこには机上に地図を広げ、いくつもの書類に目を通す眼鏡を掛けた菊子の姿があった。
「まあまあお帰り。思ったより早う帰って来たね~。アンジェちゃん久しぶり」
「きくりんおっひさ~!」
相変わらずフレンドリー過ぎる挨拶をするアンジェリカ。そんな彼女をミュンネイが横から小突いた。
「魔人の襲撃を受けたそうじゃない。大丈夫だったの?」
「ええ、何とか命拾いしました。そちらも難儀やった様で。どうもあらへんかった?」
その問いに答える様に三郎はドヤ顔で持っていた桶を菊子の前に差し出した。
「何ですのそれ?」
「魔人ベリョーネの首だ」
「首……?」
「魔人を討ち取れば褒美が出るって聞いたんでな。塩漬けにして持って帰って来た。検めてくれ」
「……また後ほど」
菊子はこれを持って行けと指示し、受付嬢は顔を引き攣らせ恐る恐る首桶を持って行った。かわいそうに。
「それでこのギルドの騒ぎは何なの?」
アルケーが本題に戻す。
菊子は持っていた書類をトントンと纏めて机の上を整理すると地図上のある地域を示した。
「ここから北東にあるアンキラザいう地域にはドラス盗賊団いうのが居ってなあ。そのボスが魔人の力を得て周辺の街や村を襲っとるんよ」
「また結界内に魔人……。きっとベリョーネと同じ様に小型デーモンウェッジを与えられたのね」
「王国軍も討伐の兵を送ったんやけど、敵の罠に掛かって負けてなあ。アンキラザにはギルド支部もあるからって、軍から人やら物やらの援助要請でもうごったごたや」
おそらく彼女の持つ紙束はギルドに要請のあった案件なのだろう。その漫画雑誌くらいの厚さを捌いているのはさすがギルドマスターと言ったところだ。
「そんで敵の情報はねえのか?」
「ボスの名はドラス。情報に依るとドラスにはどんな攻撃も魔法も通じんかったらしいわ。盗賊団の数は300ほどやけど、周辺のならず者やモンスターを集めて戦力を増しとる。それと――」
ここで菊子の表情が険しくなった。
「王国軍を蹴散らした魔王軍の中に、変わった鎧を着た騎士が居ったらしいんよ。肩に板を背負って、兜の額に2本の角を付け、鮮やかな赤紐で装飾した鎧を纏った騎士」
全員の視線が三郎の方へ向く。
それは彼が纏う大鎧の特徴によく似ていたからだ。
「その騎士は相対した王国軍に向けてこう名乗ったそうや」
そして菊子はその名を口にした。
「源九郎義経と」




