第16話 互いの思い
峡谷に勝利を報せる鬨が響く。
その報にアルケー達捕らわれていた人達は暫しの間、呆然とした。
ベリョーネが死んだ事で鋼の様に硬かった少し糸が緩んだ。それを何とか振り解きようやくアルケー達は脱出する事が出来た。
そんな時、助けに来たアンジェリカにミュンネイは怒った様に声を上げた。
「勝ったの?」
「……やった! さすが師匠!」
次第に周囲から喜びの声が上がる。
そんな中、糸から抜け出したミュンネイはアンジェリカに怒りを露わにした。
「何で逃げなかったの⁉ あんな危ない事までしてこのバカ!」
せっかく身を挺して逃がそうとしたのに、まさか崖を下って助けに来るなんて。
結果無事だったから良かったが、もしもの事があったらどうするんだと目を腫らした。
「アタシがミュンミュン置いて逃げる訳ないじゃん。それに覚悟決めるって言ったし。むしろ有言実行したアタシエラくね! 褒めてミュンミュン超褒めて!」
「ホントバカ!!」
刹那、峡谷に響く程の平手打ちがアンジェリカの頬をはつった。
「アンジェには死んで欲しくないの! だって貴方は私に生きる希望を与えてくれた! だから貴方には幸せに生きて欲しいの!」
奴隷だった頃のミュンネイはされるがままの運命を受け入れ希望の無い生活を送るだけだった。
長年の主であった男が死に、奴隷市場に流され、次はどんな奴に買われるんだろう? また愛玩用に買われるのかな? それともバカな話を信じた奴に食べられるのかな? そんな事を考えながら、濁った目で檻の外を自由に行き交う人達をぼーっと観察する日々を送っていた。
アンジェリカと出会ったのはそんな時だ。
「とりま着いて来! これからはアタシがミュンミュンを幸せにしてやんよ!」
それからというものミュンネイは奴隷ではなくパートナーとしてアンジェリカと一緒に過ごした。それは何十年ぶりに手にした自由と幸せの時間だ。
だからミュンネイは自分を救ってくれた元勇者の幸せを願う。彼女の為なら自分の命なんて惜しくない程にアンジェリカを愛していた。
だがそれはアンジェリカにとってもそうだ。
「バーカ。ミュンミュンが居ないと寂しいじゃん。ミュンミュンが死んでアタシが生きる残るくらいなら心中してやるし。って言うかそうなるくらいなら怖くたって戦ってやるし」
戦いが怖くたって大切な人を守る為なら幾らでも勇気が出る。アンジェリカにとっては戦う事よりミュンネイを失う事の方が怖かった。
「だからさ。どっちかが守る守られるじゃなくて一緒に力を合わせて壁をぶっ壊そうぜ。アタシ等相棒でしょ?」
「アンジェ……。うん分かった。私もアンジェの事守るから。だからアンジェも私を守って」
「そうこなくっちゃ! ミュンミュン超好き!」
嬉しさのあまり彼女に飛び付き抱き締める。
ミュンネイは照れくさそうにしながらもその抱擁を受け入れた。
「それからもう一つ相談して良い?」
「何?」
大好きな相棒の言葉に耳を傾ける。
「アタシもう一度、勇者としてアルち達に協力したいんだ」
「それって戦うって事?」
「うん。今まで怖くて逃げてたけど、やっぱりアルちや笑亜りんが頑張ってるのにアタシだけ何もしないなんて出来ない!」
アンジェリカは決意の籠もった目でミュンネイに訴えた。その目はかつて彼女を絶望から連れ去った時の目と一緒だった。が――、
「でもやっぱり怖いからミュンミュンも一緒に居てくれたら良いな〜なんて」
一瞬で締まりの無い事を言う。
でもそういう所が彼女が好きなアンジェリカなのだ。
「はいはい良いよ。アンジェがやりたいなら付き合って上げる」
「マ⁉ やったありがとうミュンミュン! マジマイエンジェル! と言う訳でアルち。アタシ等アルちのパーティーに本格参戦するわ!」
相棒の許可も得てアンジェリカはハイテンションにアルケーに言う。
元々彼女を勇者に復帰させるのが目的だったアルケーにとってこれは嬉しい事だ。
「本当! それは良かったわ! じゃあ2人には私の護衛をお願いしようかしら! 私の近くに居ればお互いをサポートし合えるでしょ?」
2人の互いを思いやる気持ちを汲んでアルケーはコンビで動ける役割を与える。
「やった! アルち、意外と優しいじゃん!」
「当然よ! 女神だもの!」
これでカラミティを倒す為の戦力が少し増えた。
新しい仲間を迎えアルケーは嬉しそうに笑った。




