第14話 アラクネの巣
ベリョーネに捕まったアルケー達は峡谷に張られた蜘蛛の巣に磔にされていた。
「くっ、このっ! ダメですアルケー様。私の強化魔法でも切れません」
何とか脱出を試みる笑亜だったが、魔人化によって強化された糸の強度は尋常ではなく、相撲で三郎を退かせた強化魔法を使っても振り解くことは出来なかった。
「やっぱり私の魔法でないとこの糸は切れないようね。クソ 、アーリーライフルに手さえ届けば……」
アーリーライフルは彼女の手の届かない所で糸に絡められている。彼女の攻撃魔法は全てアーリーライフルを使って発動している為、今のアルケーに糸を切る手段はない。
だがすぐに殺される事はないらしい。ベリョーネはアルケーを生きたままカラミティに献上するつもりだからだ。
むしろ心配なのは他の捕まった人達。元々食料目的で捕られられたのだから、ベリョーネの腹の空き具合次第で簡単に殺されてしまうだろう。
(速く何とかしないと犠牲者が出てしまう!)
だからアルケー達は必死に身を捩った。
「アンジェ、ちゃんと逃げてくれたかな?」
そんな中、アンジェリカを庇って捕まったミュンネイが心配そうに呟いた。
「きっと大丈夫ですよ。アンジェさんだって元は私と一緒に戦っていた勇者ですから。アラクネの小蜘蛛なんかに負けたりしません」
「でもアンジェって戦いが嫌いだし。さっきだって恐怖で動けなくなってたのよ?」
「あっちには三郎も着いてるわ。きっと安全な場所に避難させてくれてる。何なら今頃、アンジェを避難させて私達を助けようと動いているかも」
「そうですよ! 師匠が敵に背を向けるなんてありえません! きっとアンジェさんを避難させて助けに来てくれます!」
気落ちしたミュンネイを元気付ける。
三郎の性格上、ベリョーネを討つべく行動しているのは確定事項だ。しかし問題はそれがいつになるか。
こうは言ったが三郎だけを頼る訳には行かない。ベリョーネが誰かを食べる前にこちらで脱出しなければ。
「無駄よ」
彼女達の会話を聞いていたのかベリョーネがその希望を否定する。
「峡谷への入り口は私の糸で作った壁で塞いだ。更に空には糸を張り巡らせてある。例えドラゴンが攻めて来ても私の巣を破る事は出来ないわ」
見れば巣の上には侵入者を絡め取る糸が、レーザーの様に何本も張り巡らされていた。
峡谷の前後はアラクネの壁、両脇は断崖、そして上空は糸による対空防御。まさに鉄壁と言って良い。
その完璧な防御に自信があるのか、ベリョーネは余裕の態度で捕まえた者達を品定めし始めた。
「さあて、女神を捕まえたんだから、さっさと魔王様に献上したいところだけど……。お腹も空いたしやっぱり先ずは食事にしようかしら?」
意地悪な赤い目が嫌らしく捕らえられた者達を見やる。そしてその視線が向かったのは美しい白髮を持つミュンネイだった。
「白い髪のエルフ。貴方ムーンエルフよね?」
「だったら何?」
気丈な態度でミュンネイは睨む。
「まあ珍しい! ムーンエルフは絶滅したって聞いてたけどまだ生き残ってたのね! ふふふ、貴方達を食べると永遠の美しさが手に入るのだったかしら?」
「まだそんな大昔のデマを信じてるおバカさんが居たのね。それとも貴方が年増なだけ?」
ムーンエルフはエルフ族の一種だ。その特徴は月光の様な白い肌と髪を持つ。その美しさと数の少なさ故に、人間や他種族から好奇の目で見られ、根も葉もないデマを信じた者達によって乱獲された。ベリョーネが言った永遠の美しさもそんなデマの一つだ。
「ふふふ、可愛い強がりだこと。まあ永遠の美しさが嘘だろうと貴方を食べる事に変わりはないの。ムーンエルフの肉なんて珍しいもの。骨まで堪能して上げるわ」
手で口を隠しながら舌舐めずりをする。蜘蛛の胴の口が開きミュンネイに迫った。
そんな時、笑亜が叫んだ。
「やめて! 食べるなら私にして下さい」
「嫌よ~。だって貴方、死んだらパワーアップして蘇るんでしょ? シラモ様から貴方は絶対殺さないようにって言われてるのよ」
バレていた。
ミュンネイを庇い、死んで自身のスキルである「不死鳥」を発動させてベリョーネを倒してやろうと思っていたのだが、その思惑は奴に筒抜けだった。
「でもそうね~。せっかく捕まえたのに何も活用しないってのも勿体ないわよね~」
そう言ってベリョーネは惜しそうに女神の勇者をじろじろと見る。そして何か思い付いた様に手を叩いた。
「そうだ! さっきの戦いでボウヤ達が減っちゃったから、貴方には苗床になってもらいましょう」
「は? なえ……」
その言葉に笑亜の顔から血の気が引いた。
「じょ、冗談じゃない! 嫌っ! 絶対にいやぁ!!」
だがそんなのお構いなしとばかりにわらわらと小蜘蛛共が群がって来る。ベリョーネも必死に無駄な足掻きをする笑亜を面白可笑しそうに嘲笑った。
コォォーー!!
突如、峡谷に鳶の鳴き声の様な音が木霊する。
その音にベリョーネは空を見上げると1本の鏑矢が峡谷の端から端へと飛翔しているのが見えた。
直後、甲高い嘶きと共に馬蹄の音が響く。
「何?」
下を見ても馬の姿なんて無い。
一体どこからと思った時、ようやくそれを見付けた。
峡谷の崖を1騎の騎馬武者が駆け下りている。川の浸食によって削り取られた急斜面をだ。
こんな命知らずな真似をする者など1人しかいない。
バイコーンを駆る武者は高々に名乗りを上げた。
「我こそは女神アルケーが侍、朝比奈三郎義秀!! 我が逆落とし御覧じろ!!」




