第5話 スカウト
「で、アルケー様からは逃げて、私が売春してると思って着けて来たと?」
なんて失礼なと言った顔で、笑亜は突然やって来た珍客を見下ろした。
「いや~、まさか笑亜りんのパーティーメンバーだったなんてガチスミ〜。逆にアタシ何で気付かんかったん!?」
「うちのアンジェがすみません」
椅子に座らされて紅茶を出され、まるで警察に取調べられる容疑者の様に肩を窄めてアンジェリカとミュンネイは自分達の早とちりを謝る。
それに対し風呂でローションを洗い流したネグリジェ姿のアルケーは、笑亜に髪をといてもらいながら怒鳴った。
「ほんっと失礼な話よ! こっちはお土産まで用意して行ったのにローション塗れにされるなんて!」
因みにお土産のフルーツは今皆で美味しく頂いております。
「だって殺されるかと思ったんだもん!」
「殺すわけ無いでしょ! 私を鬼か何かだと思ってるの!?」
アンジェリカの早とちりで酷い目にあったアルケー。
曰く中々ローションの海から抜け出せず転びまくっていたら、面白がった街の人に新手のお笑い芸人と思われてお金を投げられたんだとか。
そんな羞恥に晒され怒り心頭の女神に対し、ミュンネイが恐る恐る聞いた。
「あの。貴方が、いえ貴方様が女神アルケミス様ですか?」
その衝撃的な問いにアルケーの怒りはスッと引いてしまった。
「誰か私が女神だって言った?」
「ごめん全部バラした。アタシの身の上」
「何でよ!?」
「だって好きピに隠し事とかなくない? 全部話して腹割切腹みたいな?」
アルケーは自分が女神である事を隠している。
何せこの世界の女神が現界していると知れたら、人間達の社会に余計な混乱を与えるからだ。
だがアンジェリカはそんなのそんなの全く気にしてない様子。
「おい、さっきからこいつの言ってる事が全然わかんねえんだが、何て言ってんだ?」
彼女の難解な言葉使いに三郎は頭にハテナを生やして笑亜にこっそり聞いた。
「友達に隠し事は出来ないって意味だと思いますよ」
「チッチッチ。笑亜りん甘いよ。アタシとミュンミュンはラブ&ラビュ~! つまりウ・チ・の・ヨ・メ」
「そこまでじゃないです」
「うえぇ!? フラれた~! つらたん~! ぴえんまる~!」
「全っ然分からん!!」
翻訳不可能な未来の言葉に三郎は音を上げた。
「自分が女神に選ばれた勇者なんてよく言えたわね。場合によっちゃ魔女認定されて処刑よ? 貴方もよく信じたものね」
「アンジェがスキルで作り出す物を見たら疑えませんよ」
そう思ってくれる人物だったのがアンジェリカにとってラッキーだったのかもしれない。
人によっては人々を惑わす悪人と思われ、捕らえられるかもしれない。それだけアルケーの正体はデリケートな問題なのだ。
「んで? めがみん達がアタシに会いに来たって事は何かあるんだよね?」
「誰がめがみんよ。私達は魔王カラミティを倒す戦力を集めているの。貴方も勇者の力を持っているなら私に協力してちょうだい」
「あー、やっぱりかぁ。笑亜り~ん。アタシが何で勇者辞めたか知ってるよね?」
視線を向けられた笑亜は申し訳無さそうに下を向く。
先日、菊子の事もあったばかりだ。アンジェリカもまた異世界召喚もしくは女神自身に何か思う所があるのかもしれない。
「何か不満があったの?」
「ううん。ぶっちゃけ勇者になった時、テンション爆上がりした。異世界ファンタジーヒャッホー! チートスキルヒャッハー! みたいな感じで第二の人生めっちゃ楽しんでた。けど……」
楽しそうに話してたトーンがここで落ちた。
「いくらチートスキルを貰っても戦いってキツいじゃん。殺し殺されなんて嫌じゃん。だから悪いと思ったけど勇者は辞めてアイドルにジョブチェンしたの」
「……もう一度戦うつもりは?」
「ムリ。アタシもう戦いたくない。フツーに怖い。皆と歌って踊って楽しく笑ってフェスってたい」
完全に戦う事を拒否される。
アルケーは頭を抱えた。
「何で人間ってこんなわがまましかいないのかしら?」
だが彼女の言い分も少しは分かる。
戦うという事は自分がカラミティにされたみたいな痛みや恐怖に耐えるという事。身体を裂かれ、貫かれた苦痛を味わった今のアルケーなら彼女の気持ちも察せられた。
しかしそれで見逃してやれるほど、こちらも余裕がある訳ではない。何とかしてアンジェリカを引き込まなくては戦力がちっとも集まらない。
そう考えていると横から笑亜が進言してきた。
「アルケー様。もうここは菊子さんと同じく後方支援をお願いしてはどうでしょう?」
「またぁ? 結局それって戦力になってないじゃない」
菊子の後方支援は確かに役に立っている。日頃の生活の保証、街から街への移動時間短縮エトセトラ。
だが戦うのは結局、ここにいるアルケー、三郎、笑亜であり戦力をアップするという目的は全く達成出来ていない。
すると次は三郎が口を挟んで来た。
「お前さん物を作り出すスキルを持ってるんだってな。なら武器とか食いもんを作れるんじゃないか?」
「あ、それ無理です。アンジェさんの作る食べ物、激マズなので」
「ちょお笑亜りん!? それじゃあアタシが料理下手みたいに思われんじゃん!」
「アンジェが作った食べ物って味がしないんですよね。しかもお腹痛くなるし」
「だから言い方ぁ!」
アンジェリカは必死に自分が料理下手でない事を訴える。
「まあ、魔力から作った食べ物なんてそんなものよ」
「はあ、米が食えると思ったのになぁ……」
創造のスキルにちょっと期待していた三郎はがっかりして肩を落とす
どうやらアンジェリカに食料提供を期待する事は出来なさそうだ。
「あ、でも武器とかなら作れるよ。この拳銃もスキルで作った物だし。口に入らない物ならお任せ!」
そう言ってアンジェリカは美しいブルーイング仕上げのリボルバーを見せびらかす。
その形状からしてアルケーの持つアーリーライフルの小さい版だと理解した三郎はにたりと笑う。あんな武器が手に入るならこんなに心強い事はないからだ。
「よし! じゃあお前さんは俺達に武器を作って協力するってのはどうだ? 無論、戦には出なくていい!」
三郎は大仰にジェスチャーして力強く提案する。
アンジェリカも戦わなくていいならと、一応ミュンネイに伺いを立てた。
「どう? ミュンミュン」
「仕事に穴開けないならアンジェの好きにして」
「あざます! って事で協力するわ!」
「よーし決まりだな!」
上手く行ったと三郎は膝を叩いて喜ぶ。
「また三郎に持ってかれたわ……」
その横でアルケーはまたしても勝手に話を纏められたと項垂れた。
「ところでおじさんも日本人? なんかめちゃくちゃ武士っぽい格好だけど?」
話が纏った所で今度はアンジェリカが質問する。そりゃあこんな浮いた格好をしている女神関係者を気にならないはずがない。
「俺の名は朝比奈三郎。お前さんより850年ほど昔の坂東武者だ」
この世界に来てから何度目かの自己紹介をする。
「朝比奈……三郎? え!? 和田義盛の三男の朝比奈三郎義秀!?」
何だか有名人に会った様のアンジェリカは身を乗り出して仰天する。
いやそれは三郎も同じだ。何せ初めて自分を知る人間に出会ったのだから。
「お前さん……。俺の事、知ってるのか!?」
「うん! アタシそこそこの歴オタだから! 吾妻鏡とか全部読んだ――、あ、いや待って。吾妻鏡全部とか無理だ。あれ欠落あるし!」
ハイテンションの超絶早口で1人ツッコミをするアンジェリカ。何だか凄い興奮状態なのは分かった。
「にしても、へぇ~、朝比奈三郎って和田合戦の後、高麗に行ったとか色々な説があったけど|異世界に召喚されてたんだ~!」
アンジェリカは目の前に居る歴史上人物に目を輝かせる。
それに対して三郎は、顔をくしゃくしゃにして涙と鼻水を流し始めた。
「お、俺、後世まで名が残ってたんだ……。オ、オオォォ……」
めちゃくちゃ嬉しかったらしい。




