第3話 アンジェリカとミュンネイ
「キャハー! 今日も大盛り上がりだったねミュンミュン!」
2人の為に用意された控室にてライブを終えたアンジェリカが楽しそうに椅子へダイブした。
そんなハイテンションな相方をやれやれといった感じで見詰めるエルフの少女ミュンネイ。まあ少女とは言ってもアンジェリカより10倍近く長生きしているのだが。
「アンジェ~。そのミュンミュンって名前、ライブでは呼ばないでって言ってるよね?」
「え~、でももう今更じゃーん」
言う事を聞いてくれない相方にミュンネイは偏頭痛がする様に頭を抑える。
「ん? どしたん?」
「アンコールに応えたから予想以上に魔力の消費が激しかったの。こっちは影人形を4体も操ってるんだからね?」
アンジェリカが作り出した楽器を演奏していたのは、ミュンネイが魔法で召喚した影人形だ。
人間であれば1体で一人前、2体操れればドールマスターと呼ばれる影人形を彼女は4体も操る事が出来る。
お陰で2人はこの世界には無い音楽をバックに歌と踊りを披露する事が出来るのだが、魔法である以上、ミュンネイの魔力消費も激しいのだ。
「え? 魔力切れ? 魔力供給して上げよっか?」
「え~、いいよ今は」
何だか恥ずかしそうな嬉しそうな嫌そうな感じで拒否する。
そんな彼女にアンジェリカは詰め寄ると、逃げない様に壁と腕で完全包囲する。
「アタシらの仲で遠慮は無しっしょ?」
「もう、いつも強引」
観念したミュンネイは流される様に身を預けようとするが、その時、部屋のドアがノックされ既の所で思い留まった。
「タイミング悪ぅ~」
残念そうにするアンジェリカから逃げる様にミュンネイが扉を開く。
そこにはお土産を携えたアルケーが居た。
「こんにちは。アンジェリカは居るかしら?」
「えーと、どちら様ですか?」
初対面の人物にミュンネイは困った顔をする。しかしその後ろでアルケーの顔を確認したアンジェリカは慌てて部屋の窓から飛び出した。
「うえっ!? アンジェ!?」
「あ、逃げた!? もう!!」
アルケーも急いで後を追う。
逃げ出したアンジェリカはまさしく脱兎の如く全力疾走していた。
(やばいやばいやばい! 何で女神がここに居るわけ!? いやそんなの決まってんじゃん! 魔王討伐から逃げたアタシを葬りに来たんだ!)
「ちっくしょー! 殺されてたまっかーい!」
完全に女神を死神と思い必死に逃げる。
その時、後ろからその死神の声が聞こえた。
「待ちなさーい!!」
「何か既にボロボロ!?」
いったいこの短時間に何があったのか、アルケーはどこかで《《転んだ》》かの様に満身創痍の状態になっている。それでも自分を捕まえるべく迫って来ていた。
ライブで疲れてるアンジェリカはそう長くは走れない。どうやって撒こうかと辺りを見回した時、床を清掃しているおじさんが目に入った。
「おじさんごめん!」
アンジェリカは水の入ったバケツを奪い水に手を入れる。
「物質操作!」
彼女のスキルは物を作り出す創造だが、それに伴うサブスキルとしてこの物質操作という力もある。簡単に言えば水を氷に出来る状態変化から、石を金に変える物質変換まで可能なスキルだ。
アンジェリカは何だか凄く粘っこくなった水を大理石の床一面にぶち撒ける。
そこに全力疾走のアルケーが突っ込んで来た。
「うえっ!?」
それはまるでリアクション系お笑い芸人の如く、それはそれは芸術点の高い見事なスリップを見せアルケーは地面に転倒した。
「な、何なのよこれ!?」
「よっしゃいしゃーい! ローショントラップ大成功!」
その隙にアンジェリカは一目散に逃げる。
何とか追おうとするアルケーだったが、ローションの海で脚を滑らせ、また盛大に転けた。
女神の追跡を振り切ったアンジェリカはネスタの市場までやって来ていた。
「ふい~、何とか撒いたか~。まさか女神様がやって来るなんて……」
咄嗟に逃げ出してしまったがこれは正解だろう。何せ自分は勇者の使命を放り出し、女神から貰ったスキルで好き勝手やっているのだから、あの場で逃げ出さなかったら間違いなく酷い目に合っていただろうと思う。
「適当に遊んでから戻るか~。あ、そうだミュンミュンの好きなお菓子でも……、って財布忘れて来たわ」
人を隠すなら人の中という事で市場まで来てみたが何も買えそうにない。仕方なく自由気ままに散歩でもするかと思った時、人混みの中に見知った顔を見付けた。
「ほら! 今度はあっちのお店に行ってみましょう!」
「いや待て。もっとあの剣をだな」
「買えないのにじろじろ見てたら邪魔になるじゃないですか。次行きましょう!」
元気溌剌とした可憐な少女が髭面のオッサンとデートしている。
「あれ? あれって笑亜りん? と、誰だろあのおじさん」
以前は一緒にパーティーを組んでいた笑亜。自分は戦いから降りてしまったが彼女は「アルケー様の期待に応えたい」と言って魔王との戦いを続けていた筈だ。
なのに何故こんな場所に? そしてあの男は誰? 格好を見る限り日本の平安から鎌倉時代の日本人っぽいが、この世界には日本とよく似た文化の東南諸島と言う地域もあるから判断出来ない。
いや、今は出身なんてどうでも良い。重要なのは2人が何をしているかだ。
「まさかパパ活!? え!? まさか笑亜りんお金に困って遂に……」
笑亜の懐事情がよろしくない事はアンジェリカとパーティーを組んでいた時から知っていた。
日々の生活で掛かる生活費。戦いの中で消費して行くアイテム代。そして彼女の趣味。
それが災いして遂に借金で首が回らなくなったのだろうと思ってしまった。
「やるっきゃない。勇者辞めても笑亜りんとのズッ友まで辞めた訳じゃないし!」
友をスケベオヤジから助けねばとアンジェリカは決心し、腰に下げたホルスターから護身用のリボルバー式拳銃を取り出す。弾丸は非殺傷のゴム弾だが当たるとオークでも悶絶するほどに痛い。
「何やってんのアンジェ?」
不意に後ろから声を掛けられアンジェリカはビクッとする。けれど声の主がミュンネイだと分かると心強い味方を得た様に嬉しそうな顔を見せた。
「ミュンミュンちょうど良い所に! 今からパパ活オヤジをぶっ飛ばしに行くから手伝って!」
「え? パパ活?」
訳の分からないままに強制参加させられる。
そしてこっそり2人は三郎と笑亜の後を着けた。




