第2話 スキル『創造』
突然の破裂音とキラキラ紙吹雪に驚きの声が上がる。
その妙ちくりんな演出とバックで流れる軽快な音楽の楽しさに客の表情が驚きから笑いに変わった。
「はは! 何だ今のは!? 魔法か!?」
周囲と同じく三郎も愉快そうに笑う。
「あれはクラッカーというパーティーグッズです。きっとアンジェリカさんがスキルで作り出したのでしょうね」
「それだけじゃないわ。後ろで演奏してる楽器。あれもそうでしょ」
彼女の後ろで演奏されるサックス、ドラムス、ピアノ、ギター、いずれもこの世界にはない楽器だ。
それらを巧みに演奏している魔法で作られた影人形と軽快なステップを披露するアンジェリカ。
見た事もない聞いた事もないショーに観客の心は一瞬で彼女に鷲掴みにされた。
「ヘイ、お嬢!! カモン!!」
アンジェリカが舞台の奥から誰かを呼ぶ。
彼女に呼ばれ登場したのは美しい銀髪をしたエルフだった。
「ミュンミュン!」
「ミュンネイです。どうぞよろしく」
アンジェリカの紹介を訂正しながらミュンネイは会釈をする。相方と違いこちらは露出の多いひらひらとした衣装を着て、落ち着いた雰囲気を纏う少女だ。
えんじ色の貴公子アンジェリカと藤色の舞姫ミュンネイ。なるほど性格、衣装、色どれも正反対の彼女達を太陽と月に喩えるのも頷ける。
舞台に出揃った2人はリズムに合わせて歌と踊りを披露する。
演奏されるのは王国で昔から愛される曲で、決まった歌詞が無く地域や個人によってオリジナルの歌詞が歌われる曲だ。それをテンポを上げて弾む様に演奏しているので観客もリズムに乗りやすい。
そして2人はここに集う冒険者達の苦難や勇気を音楽に乗せて歌う。それが彼等の心を湧き立たせ熱くさせた。
「アンジェー!! ミュンミュンー!!」
彼女達のファンなのかノリの良い女冒険者が名前を呼ぶ。それにアンジェリカはウインクで返し、ミュンネイは聞こえないがおそらく「ミュンネイです」と訂正し返すと、その女冒険者は大喜びで飛び跳ねた。
「凄い! 本当にアイドルやってる……!」
アイドルというものを知る笑亜がリズムを取りながら驚く。
現代のような音響も演出もない。何なら学校の学園祭にも劣りそうな環境なのに、この盛り上がりはまるでドームライブのそれと何ら変わりないではないか。
もうここは2人の領域と言っていい。彼女達が作り出す心踊る空間が、冒険者達を魅了し酒場を大いに盛り上がらせた。
ライブが終わった後、酒場内は先程の余熱がまだ残っているように賑やかだった。そんな中、同じように満足気な顔をさせて三郎が切り出した。
「さて、じゃあ行くか」
出番を終えたアンジェリカは控室に戻ったらしい。ロイドから部屋の場所は聞いているので早速向かおうとした所、アルケーから「待って」と止められた。
「それなんだけど、アンジェリカの説得は私1人で行くわ。貴方達は街の観光でもしてなさい」
「はあ?」
何を言い出すのかと三郎から呆れた声が出た。
「寝ぼけた事言うなよ。お前さん1人で説得? 絶対無理だ」
その心意気は買うがアルケーは菊子の説得を失敗している。正直、彼女1人で説得出来るなんて思えない。
「そうですよ。それにアンジェリカさんと私は元同じパーティーだったんですから連れて行って下さい」
笑亜も同じように同行を申し出る。
だがアルケーはそんな彼女を引っ張ると三郎に聞こえないように小声で話し出した。
「いい? もしアンジェリカが三郎の言う何とかっていう奴の子孫だったらどうするの? いきなり斬りかねないでしょ? 説得のついでに聞いて来るから貴方は三郎を抑えていて。それに私個人としても今回は1人でやりたいの」
ああなるほどと笑亜は納得の顔をする。
先程までアンジェリカの歌と踊りを楽しんでいた三郎だが、いざスイッチが切り替わると問答無用で斬り捨てるのがこの坂東武者である。念には念を入れてアンジェリカとは会わせない方が良いだろう。
そしてアルケーは三郎の方に向き直ると彼女の個人的な思いの方を話し出した。
「菊子の説得。貴方は1人で彼女の協力を取り付ける事が出来た。私も女神として負けては居られないのよ。だから今回は私に任せて」
「アルケー、もしかして俺に手柄取られて悔しかったのか?」
「……まあ、そういう事よ」
違うと負け惜しみを言いたかったが、正直な所、脳筋な三郎に先を越された事が悔しくて堪らなかった。彼が菊子の説得を妥協案で成功させた時、アルケーは女神としての威光が陰った気がして裏でかなり落ち込んだくらいだ。
だから今回こそはとアルケーは強い意志を持って説得に挑もうとしていた。
「分かった。じゃあそっちは任せたぜ」
「ふふん、任せなさいな」
アルケーとしても失敗する気なんてない。自信に溢れた笑みを浮かべて三郎へと返した。
と、ここで三郎が思い出した様に一案を言い出す。
「あ、そうだ。どうせなら手土産くらい持ってけよ」
「手土産? まあ確かにそうね。どんな物が良いかしら?」
三郎にしては真っ当な提案にアルケーも頷く。
さてさて何が良いか? やはり甘い物でも持って行くか?
「サメなんてどうだ?」
「却下。論外。ありえない」
「……そこまで言わなくてもよくね?」
拒否の三段攻撃を受けた三郎は悲しそうな顔をする。
「だからって何でサメなのよ? ドン引きされるのがオチだわ」
「頼家様は喜んでくれたし……。あと綾無殿も……」
頼家様が誰かは知らないが菊子は間違いなく建前で喜んだ風に見せたのだろう。
(って言うか菊子にもサメを贈ったの!? それで説得出来たの!?)
アルケーはますます女神の威光が陰ったような気がした。




