第8話 特別クエスト
地上にポッカリ開いた地下への入口が来訪者達を誘う様に風を吸っている。
その前に立った三郎は後ろにいる菊子に聞いた。
「ここは何だ?」
「ここは古代遺跡のダンジョン。地下から溢れる魔力に寄せられてモンスターが集まるんで、冒険者達にとってはええ狩り場なんよ」
「ここに来るのは久し振りですね~。お金に困った時はよくここでモンスターを討伐して素材を売ってたんですよ」
カルカスからさほど遠くない森の中にそのダンジョンはある。
冒険者登録を済ませたアルケーと三郎はギルドマスターである菊子から特別クエストを与えられここまでやって来た。
『ダンジョン奥に封印されたモンスターを討伐せよ』
これが特別クエスト内容である。
これを達成すればギルドが持つワープシステムを自由に使える特権をくれるらしい。
「面倒やけど堪忍してな〜。これもギルドのルールですさかい」
などと菊子は言うが、正直な所、達成困難な厄介事を押し付けた感じだ。
彼女曰く、以前とんでもなく強いモンスターが現れたが、誰も倒せずやむ無く封印したんだと言う。
そんな経緯があるから、特権を与える口実にはピッタリなのだ。
「でも貴方が着いてくるなんて意外ね。戦いには出たくないって言ってたのに」
「勿論うちは戦いません。危なあなったらすぐワープで逃げます。まあそうなったらクエストは失敗やけどね」
「じゃあ何で来るのよ? 荷物になるだけじゃない」
「試験官みたいなもんです。せやからしっかりうちに実力を見せてな~」
その他人事のような言い方にアルケーは舌打ちをする。やはり頑なに戦おうとしない菊子の事が気に入らないようだ。
「それより俺まだステータス測定ってのやってないんだが良いのか?」
ステータスを測定する為の水晶が壊れてしまった為、三郎の冒険者登録は保留となっていた。
それなのに一足先にクエストをやってしまっていいのか尋ねてみると、菊子は可笑しそうに言った。
「あんなもん遊びです。人の能力数値なんて当てになりませんわ」
「「は!?」」
それをアンタが言うのかとアルケー達は目を丸くする。
ギルドマスターでありながらギルドのルールを遊びとは……。
「じゃあ何の為のステータス測定なんだよ?」
「そりゃあ組織として基準を作っとかんとあかんでしょう? 元から素養のない人に危険なクエストをやらせる訳にも行きませんし」
「まぁ確かに……」
何だか尤もらしい事を言われ丸め込まれた気がする。
けれどステータス測定で優秀な数値を叩き出しておきながら、実際は己の鈍臭さで接近戦はほぼダメな女神もいる。
彼女の言いたい事も何となくだが理解出来た。
いよいよ一行はダンジョンに足を踏み入れる。
アルケーが魔法で光源を作りだし暗いダンジョン内を照らすと、早速、闇の中で動く影があった。
「ギギャアッ!!」
ダンジョンに巣食ったゴブリンが襲って来る。
会敵一番、笑亜は剣を抜き飛び掛かって来たゴブリンを切り捨てた。
だがこれが切っ掛けとなったのかダンジョンの奥から新手のゴブリン達が武器を構えて押し寄せて来た。
「ぞろぞろと来やがったな!」
三郎もまた金砕棒を取り出し、向かって来る敵に吶喊する。
ダンジョン内は決して広い空間ではない。三郎が金砕棒を振り回せば向かって来るゴブリンを全て抑える事が出来るし、笑亜が加勢する隙間すらもない。
何故、彼がそんな1人で戦いに行ったのかと言うと、単純に血気逸ったと言うしかない。
(綾無殿にああ言った手前、ちゃんと力を見せねえとな!)
菊子の分まで戦うと言っただけに今日の三郎は一層気合いが入っている。だから笑亜もアルケーにも入らせないくらいの戦い振りをするつもりだ。
「うらぁッ!!」
金砕棒を横に振ればゴブリンが纏めて吹き飛ぶ。上からの直撃を喰らえば頭が股を割って地面にめり込んだ。
全ての敵を屠った頃には武者は全身返り血塗れとなっていた。
「さあ片付いたぜ」
そんな見てくれなんか気にせず三郎はやってやったとカッコつけた風に笑う。
アルケーが呆れながら言った。
「貴方って本当に戦闘バカね」
「戦で咲くは武者の花だ。先陣は譲らねえよ。どうだ綾無殿。俺は強いだろう?」
「ほんにお強いですなあ。この調子で封印されとるモンスターもお願いします」
「応!」
威勢良く返事して三郎は先陣を切ってずんずんと先に進む。
「ねえ。今日の三郎なんか張り切ってない?」
「確かに。菊子さんに対して何だかとっても張り切ってるような……まさか」
「あり得るわよ。三郎だって男だし」
などと勘繰るレディが2人。
すると突然、前を歩く三郎がふと立ち止まった。
「おい、アレ何だ?」
三郎が指差した先には木製の入れ物が置いてあった。四角い下部にアーチ状の上部をした箱を見た笑亜は目を輝かせて喜色の声を上げた。
「宝箱だぁ! ラッキー!」
そう言って嬉しそうに駆け寄って行く。
「何であんな物が置いてあるんだ?」
明らかに人の手による人工物が不自然に置かれている事に三郎は疑問に思うが、その答えは菊子が教えてくれた。
「あれはゴブリン達が巣に持ち帰った物を保管しとく箱です。たまにお金とかアイテムとかええ物が入っとるんで、冒険者達からは宝箱って言われとるんです」
「あいつ等、あんな物が作れるのか?」
「ええ、ゴブリンはモンスターの中でも結構賢い方ですから。せやから雑魚モンスターや思て油断してえらい目に合う新人冒険者も多いんですよ」
はあっと三郎は感心する。
今まで数だけ多い雑魚だと思っていたが意外な実体を知れた。
「ポーションが入ってました! きっと他の冒険者から奪ったんですね!」
どうやら良いものが入っていたらしい。嬉しそうな顔をして笑亜が戻って来る。
「なるほど。じゃあ、あれもそうか?」
三郎は別方向にも見付けた宝箱を指差した。
「ん~、あれはちゃいますなあ。ミミックですわ」
「ミミック?」
「宝箱のふりをして近付いた者を襲うモンスターです」
その横でアルケーが魔法を使って正体を見破る。
「うん。間違いない。あれはミミックよ。よく分かったわね」
「真贋を見極めるのは商売の基本ですさかい」
「動かないなら倒しちまおうぜ」
「無駄よ。ミミックは擬態中、絶対防御の魔法で守られているからどんな攻撃も効かないわ。倒すなら襲って来る一瞬をカウンターで攻撃するしかないの」
三郎はそれを信じようとせず、金砕棒を思い切りミミックに叩き付ける。だがアルケーの言葉通り簡単に弾き返されてしまった。
「嘘だろ……。俺が敵わないなんて」
「ほらね。言わんこっちゃなーー」
「うおぉぉぉー!! くたばれくたばれくたばれくたばれー!!」
自慢の怪力が通じなかった事が悔しかったのか三郎はひたすらにミミックを連打する。ズコンバコンと辺りに快音が響くが、しかしミミックには傷一つ付いていない。
終いにアルケーからうるさいと一喝され心底悔しそうにその場を後にした。




