第24話 九尾の狐
アルケーの最大魔法を受けたカラミティは、ヴァナリウスの全防御機能を使って対抗する。
だが既にボロボロとなった装甲に大した防御力はなく、カラミティはミキサーに掛けられた残りカスの様に地面に叩きつけられた。
「バ、バカなぁ……! 何故、我がこんな!?」
ついさっきまでアルケーを我が物としていたのに、下等な人間共によって全てが引っくり返された。神である自分が、下等な人間にだ。こんな事、許されるものではない。
カラミティはよろめきながらも回復魔法を発動する。
だがそれより早く、カラミティ逃すまじと三郎が襲い掛かった。
「ハハハハハ! 大将首だ!」
「ヒギィィ!? キサマ、寄るなぁ!!」
蹴りを入れられてカラミティは転倒する。
必死に抵抗するが、もはや恐怖に駆られてボロボロになった状態で朝比奈三郎に敵うはずがない。
振るった腕は掴まれると同時に圧し折られ、ばたつかせた脚も踏みつけられて動かなくなる。
そして全ての抵抗を封じた三郎は遂にカラミティの頭を抑えつけ馬乗りとなった。
「アルケー!! アルケー!! 良いのか!? 我はお前と同じ神だぞ!? 人間なぞに殺されたら神々の威光に傷が付くぞ!!」
事ここに至ってもカラミティは三郎ではなくアルケーに助けを求める。
それに三郎も鋭い目を彼女に向けた。
「まさかまた止めろとか言わねえよな?」
「当然。報いの時よカラミティ」
その言葉に三郎はニタリと笑った。
短刀を抜いて喉を狙う。喉を一突きすれば敵は静まり、後は首を落とすだけだ。
「やめろ……!! やめろ!! やめろぉーー!!」
「魔王カラミティ!! 御命頂戴する!!」
三郎は短刀を握り締め、一撃で息の根を止めるべく白刃を振り下ろし魔王に首に突き立てた。はずだった。
「は?」
次の瞬間、三郎の間抜けな声を溢していた。
カラミティが消えた。
「どうなってる!? 奴はどこだ!? 俺は確かにカラミチを踏んじばってたよな!?」
「はい! もう動ける感じじゃなかったです!」
「あの状態じゃ魔法も使えないはずよ!」
じゃあカラミティはどこへ――?
3人は必死になって辺りを見回す。
すると瓦礫の山の上にゆったりと腰を掛ける獣人の女が目に入った。その膝の上にはカラミティが頭を預けている。
「ごきげんよう皆様。見事な戦いで御座いました」
金髪の頭に獣耳を生やし、ふさふさとした狐尾を持った女は3人の武勇を賞賛する様に笑顔で拍手を送った。
「貴方は屋敷に居た獣人族の魔人」
「シラモで御座います。カラミティ様はこの通り返して頂きました」
そう言ってシラモはカラミティの頭を優しく撫でる。その姿は絵画に描かれた聖母の様に慈愛に満ちていた。
「ああぁぁ! シラモ! シラモ! よくやったシラモ!」
「ああ、カラミティ様。こんなにボロボロになられてお労しや」
彼女が撫でると傷が手品の様に塞がる。
やっと倒したのにここに来て回復されては堪らない。
「女ぁ!! そいつをこっちに寄越せ!! さもなくばお前さんごと射殺すぞ!!」
三郎の脅しの怒号が飛ぶ。
既に弓は絞られ今にも矢を放たん勢いだ。
シラモはそんな荒ぶる武者にまったく動じず、むしろ好ましいものを見るように優しく微笑んだ。
「朝比奈三郎義秀様でしたね。先程の戦、まさに鬼神の如く。お見事に御座いました。さすがは三浦大介の血を引く者」
その言葉に三郎はギョッとする。
「何でお前が曾爺様を知ってる!?」
三浦大介義明。三郎の曽祖父に当たる人物だ。
その問いに怪しげな笑みを浮かべた。
「その昔、殺し合った事があるのですよ」
刹那、彼女の身体から身がよだつ程の凄まじい力が漏れ出す。
火の如く立ち昇る力は9つの尾となり彼女を守護するかのように獣の形を成して行く。
そこに現れたのは白面金毛の獣の幻影だった。
「九尾の……狐だと!?」
「もしかして前に師匠が言ってた……!」
その話を笑亜は何となく覚えていた。彼の曽祖父が退治したという九尾の狐の話しを。
あの時はただの自慢話だと聞き流していたが、まさか本当だったとは……。
「あの話本当だったのかよ!!」
「うええ!? 信じてなかったんですか!?」
三郎の方が驚愕していた。
「信じる訳ねえだろうが九尾の狐なんて! 爺さんの作り話だと思ってたわ!」
「なのにあんなドヤってたんですか!?」
曾祖父の武勇をあたかも一族の誇りとばかりに語っていたのになんていい加減な人だと笑亜は呆れる。
そんな2人を放っといてアルケーが前に出た。
「答えなさいシラモ! 何故、別世界の貴方がここに居るの? 目的は何? カラミティに味方する理由は?」
立て続けに質問を捲し立てる。
「いきなりそんなに聞かれても困ってしまいます。ですがそうですねえ。三浦大介ら坂東の武者達に倒されたわたくしは輪廻の渦の中でこの御方に拾って頂いた。そんな御縁でお仕えしております」
「って事はやっぱり貴方も敵ね」
アルケーはアーリーライフルの銃口を彼女に向ける。ここまで来てカラミティを取り逃がす訳には行かない。彼女の力は未知数だがここは一気に方を付ける。
その時、九尾の幻影が火の玉を四方にばら撒いた。
「これは幻影!? 目眩ましか!」
熱を感じない炎を振り払いアルケーは銃を構えたが、そこにシラモとカラミティの姿は既に無かった。
「今日はカラミティ様を連れ帰りますので、お相手する事が出来ません。また次回お願い致します」
どこからともなくシラモの品のある声が響く。
「はあ!? バカにしてんの!?」
アルケーはすぐに気配を追おうとするが、巧妙に隠しているのかその足取りは掴めなかった。
逃げられたのだ。
「アァァ!! もう少しだったのにぃーーーー!!」
湧き立つ悔しさからアルケーは喉がはち切れんばかりの絶叫を上げた。




